第14話 スニーカーを洗いに(コインランドリー編)
昨日の雨で、白いスニーカーがまだらになった。
乾いたはずなのに、灰色の跡だけが残っている。
駅前にできた、ガラス張りのコインランドリーに入る。
中は明るい。
ドラムが並んでいる。
毛布、タオル、ジーンズ。
丸い窓の中で、布が回っている。
「生活が回っている」
声がした。
――いた。
三上灯馬。
「コインランドリーは、アパートのようだ」
「暮らしが窓に入っている」
「何してるんですか」
「観察だ」
「洗濯しないんですか」
「今日はしない」
ドラムの中で、毛布が持ち上がって、落ちる。
わたしはシューズケースからスニーカーを取り出す。
白だったはずの布地に、泥の線が固まっている。
「白は、維持費が高い」
「白好きなんです」
わたしは靴を靴専用の洗濯機に入れる。
丸い窓の中に、スニーカーが収まる。
扉を閉める。
カチリと音がする。
コインを入れる。
ボタンを押す。
上から水が落ちる。
ドラムがゆっくり動き出す。
水音が一定になる。
「回転音と、ジャズは合っていない」
「ジャズ?」
三上は天井のスピーカーを見上げる。
「待ち時間を演出している」
「わたしは、同期してないほうが好きです」
「なぜだ」
「生活って、合ってないこと多いですよ」
「具体的には」
「予定と気分が合ってなかったり」
「晴れの日に限って傘を持ってたり」
「だから、合いすぎてないほうが落ち着きます」
「一理ある」
丸い窓の向こうで、布が擦れる。
壁際に、雑誌のラックがある。
わたしは一冊抜き取る。
表紙の女性が、広いリビングで笑っている。
隣には新築情報。
その隣に高級車の特集。
「持つ人間の顔だ」
「え?」
「ここは、身元を剥がす場所だ」
「毛布も、作業着も、スニーカーも、ただの布になる」
「だが並んでいるのは、名前と所有の物語だ」
「偏ってるってことですか」
「偏りではない」
「読者を想定していることが浮く」
「洗ってるあいだくらい、夢を見てもいいじゃないですか」
三上はラックを見る。
「夢は、付け足すものだ」
「落としたあとにね」
「でもそれじゃ退屈です」
「退屈は、摩耗しない」
ドラムは同じ速さで回り続けている。
ジャズは流れたままだ。




