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10話 目には目を、ーーー…脅しには脅しよね。



リズの実家がある商家は、公爵領の最果てにあった。

普段、父様や兄様の目が届かない場所ゆえ、私やエルザ姉様もその窮状を知らずにいたのだ。

私はまずエルザ姉様に話し、姉様から父様へ公爵領における精査という名目で馬車を出してもらった。

あまり行かない土地ゆえに、護衛は多めに付けてくれた。


ちなみにヴィンセント兄様もエルザ姉様も十歳を過ぎてから、父様の公務を手伝ったり、公爵領内を見て回って色々自分で学んだりしているようだ。



リルを連れ、半日かけて現地へ向かう。


到着して対面したリルの叔父は、姪の必死な行動を知り、涙ながらに事情を話してくれた。

リズと叔父は仲の良い兄妹だったが、厳格だったリズの父(リルの祖父)が男爵との結婚に猛反対したことで、長年疎遠になっていたらしい。

半年前、その父が他界したことを知ったショックと男爵家での過酷な生活による心労が重なり、リズは倒れてしまったのだという。


「お父様…お母様をこんなに苦しめて……。」

震えるリルの瞳には、父への強い憎悪が宿っていた。


エルザ姉様がリズの介抱に向かうのを見送り、私は姉からの「ここで待ってなさい。」という待機命令を無視して、叔父に商談の深掘りをした。

相手は人間。

叔父も馬鹿ではない。

最初の数回は護衛を雇って商談に臨んでいたが、信頼関係が築けたと油断した隙を突かれたのだ。

護衛を連れなかった日に脅され、暴利を貪る契約を締結させられたとのことだった。


色々疑問は残る。

護衛は雇うのにお金がかかる。

だから信頼できる相手だと分かったら護衛を外すのは、この国の対人間相手での商売ではよくあることだ。

もちろん、その後今回のような脅しに繋がることはある。

でも、護衛を連れていなかった日に、すぐ脅されてしまうなんて手際が良すぎる…。


(もしかして、もともと分かっていた?

とりあえず、今は正攻法だと時間がかかるわ。

ここは『目には目を、歯には歯を』作戦!

前世の私のモットーよ。

脅しには、より強烈な脅しで返してあげましょう。)


私はエルザ姉様と作戦を立てた。

エルザ姉様は「いいわね! 面白そう!」と意外にもノリノリだった。


(姉様の演技次第ね。

まあ、公爵領で人間相手なら、私たちに勝てる者なんていないから大丈夫でしょう。)


私は「勝ち確」を確信していた。


 ◆


リルの叔父に、相手の商人アークトを呼び出させた。

応接室には、エルザ姉様と私、そして叔父。

背後には護衛が控え、部屋は異様な圧迫感に包まれていた。


「おい、この方たちは?」

アークトが不審げに尋ねる。


「ベルドレッド公爵家の長女、エルザ様とイザベル様だ。

領内の様子を見て回っていたところ、商談を見学したいとのことで同席していただいたのだ。」


「へぇ。

わざわざ公爵家の方がこんな僻地まで。

ですが面白みもない商談ですので、お帰りいただいた方がよろしいかと思いますよ。」


アークトは飄々と答えたが、エルザ姉様が氷点下の眼差しで口を開いた。


「あなた…誰に向かって言っているのか、分かっていらっしゃるのかしら?

この契約書、見せてもらいましたが、あまりにも酷い内容ですわね。」


商人は一瞬怯んだが、卑しく笑って羊皮紙を叩いた。


「へ、へえ。

ですが、契約は契約ですから。

たとえ公爵家の方でも、正当な書面は覆せませんぜ。」


「契約……ねぇ。

じゃあ、私とも契約してくださる?

まったく同じ内容でいいわ。」


エルザ姉様がふんわりと微笑む。


「え……?」


商人が棚ぼたの提案に目を見開いた瞬間、姉様の声がさらに冷たく突き刺さった。


「ええ、絶対に守っていただくわ。

でも、分かっています?

私がこんな不当な契約を、貴方に 『脅されて』 結ばされたなんて父が知ったら…。

貴方、どうなるかしら?」


「お、脅してなんか……!」


「あら? でも、私は今、脅されましてよ。

ねえ、皆様?」


エルザ姉様が無邪気に問いかけると、叔父も、そして無言で剣の柄に手をかけた護衛たちも、有無を言わせぬ圧を商人に浴びせた。


「公爵令嬢が脅されたなんて父が知ったら、貴方のような商人はどうなってしまうのかしら?

私がもし、ペンで指先に掠り傷一つでもつけて、『これを貴方のせいに』したら…。

一族郎党、どうなるかお分かりかしら?」


エルザ姉様の『脅し』に、商人の顔が土気色に変わった。

そう、証拠なんて関係ない。

公爵令嬢が「脅された」と言えば、それがこの領地での真実になる。

傷つけたとなれば、尋問・拷問の末の死刑も有り得る。

圧倒的な権力による、理不尽なまでのカウンターだ。


(前世では、こんな権力を振りかざすやり方なんてしたことなかったけど…。

こういう理不尽なことに対しては、相手にとっても理不尽なことでやり返す!

せっかく権力があるんだから存分に活かさなきゃね!)


「か、勘弁してくださいよぉ…。」


そうして商人は震えながら契約書をその場で破り捨て、不当に奪った金を置いて逃げ出していった。


リルの叔父は、エリザ姉様や護衛たちに泣きながら感謝の言葉を伝えている。


「ありがとうございます…!

このご恩に報いるように、仕事に邁進して参ります…!」


今回、私は目立ちたくないので、エルザ姉様に「本に出てきた悪役」のセリフとしてこの計画を伝えたのだが、姉様はノリノリで完遂してくれた。


(ただでさえ『悪役令嬢』顔だからなぁ。

良いことをしたとしても、変な噂が立つだろうし。

私は目立っちゃいけないから感謝されなくても仕方ない…。

作戦立てたのはほとんど私だけど…!!!!)


感謝されない私は少し不満ではあったものの、エルザ姉様たちが感謝されてることに悪い気はしなかった。


ちなみに、この時私のそばにはずっとリルがいた。

叔父から話を聞く時も、商談の最中も。

私が「主人」として相応しいか見極めてもらうために。


(私が彼女にとって従うに相応しい「主」であることを知ってもらえたら良いのだけど。」


さらに、私はリルに三つの約束をした。

一つ、母リズの住むこの商家と、公爵家が正式に取引できるよう父様に進言すること。

二つ、九歳のリルが十二歳になったら、平民の学校へ通わせること。

三つ、衣食住の完全な保証。


「でもね……これから大変なことがたくさんあると思うの。大丈夫?」


事前に確認しておかないと、「こんな話聞いてない!」と言われて裏切られたらたまったものではない。

そんな心配をしていたら、リルは私の前に跪き、覚悟を決めた眼差しで告げた。


「イザベル様。一生、貴女様についていきます。

この命、貴女のために。」


「いやっ!一生じゃなくてもいいんだけどね?

命までは取らないからね?!

そこまで鬼じゃないからね?」



一日の終わり。

ベッドで寝る直前思い出す。


(そういえば、どうして悪徳商人は護衛がいない日を知っていたのかしら。

絶対内通者いたでしょ。

明日、姉様に相談してみよ。)


そう考えながら眠るのであった。

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