1/12
0話 この世界
この世界には、人間以外にも多種多様な種族が存在する。
強靭な肉体を持つ獣人
精緻な技術を誇るドワーフ
森の賢者エルフ
そして底知れぬ魔力を有する魔族。
種族の数だけ正義があり、正義の数だけ争いがあった。
血で血を洗う戦乱の歴史はあまりに長く、最早誰もその始まりを知る者はいない。
幾多の犠牲を払い、数え切れないほどの対話を重ねた果てに、ようやく辿り着いた答えは
ーーー「共生」ではなく「分離」だった。
互いの領土を不可侵とし、境界線に一歩も踏み込ませない。
科学技術を持たないこの世界において、国防の要は「魔法」である。
国境付近には強力な攻撃魔法を操る魔導師戦隊が配備され、互いに睨みを利かせることで、物理的な障壁以上に強固な「抑止力」として機能してきた。
こうして、脆く、危うい「五十年の平和」が保たれてきたのだ。
しかし、いつの時代にも、この静寂を「退屈」と呼び、混沌を望む者がいる。
彼らは安全な揺りかごの中で、外敵の牙を忘れ、美辞麗句という名の毒を研ぐ。
「平和は、いつまでも続くものではない」
暗闇の中からそう嘲笑うかのように。
平穏という名の薄氷を割り、国を、世界を崩壊へと導く足音は、すぐそこまで近づいていた。




