第一話
尾張と三河の国境を渡る風は、常に血生臭い。
松平清康。後に天下人と呼ばれる若武者は、岡崎城に生を受ける。父・松平信忠は早世し、幼き清康は数奇な宿命を背負ったまま、家督を継がざるを得なかった。
少年の双眸に映るのは、家臣たちの猜疑と策謀、そして隣国から迫る戦火の影である。
幼き領主は、ただの傀儡に終わるべき存在であった。
だが清康は、驚くほど早熟であった。
弓を引けば矢は真を射抜き、刀を握れば刃筋は狂わない。戦場に立つその姿には、少年らしい柔和さよりも、獰猛な獣の気配が漂っていたという。
やがて元服を迎えた清康は、戦国の荒波へ身を投じる。彼が最初に挑んだのは、三河に覇を唱えんとする今川と、織田の影を背にした土豪たちとの果てしなき抗争であった。
まだ20歳を迎える前、彼は西三河の大半を平定し、岡崎を拠点に勢威を誇った。若き将の眼差しは、すでに尾張・遠江にまで伸びていた。
その苛烈さと才覚は、敵にとっては恐怖であり、味方にとっては畏怖であった。清康はただ勝つのではなく、徹底して叩き潰す。敵城を落とせば従わぬ者を屠り、抵抗する土豪を容赦なく処断した。
1534年、清康24歳。お隣さんの織田信秀も24歳。子供も生まれてハッピーな人生を送っている。
「織田信秀‥ガキが生まれて浮かれているようだな。今は殺さずにおいてやる。家畜は肥えてから殺さんとな。気に入らんのは他力本願寺とかいうやつらだ‥。今すぐ始末しなければ‥」
松平軍は早速海を渡り、羽津に上陸すると長島城を目指した。
「やべぇ!清康来たわ!」
願証寺一門は長島城を放棄し逃げ去った。
「蓮淳さんよォ‥せっかく建てた願証寺捨てちゃうのかよォ‥」
清康はナチュラルボーンキラーっぽい所があるので物足りなかった。
「つまんないよなぁ!正豊くん!」
阿部正豊。この時まだ18歳未満であった。
「そうっすねェ!!仏にあったら仏を斬るんすよォ!」
この男も血気盛んであり殺したい盛りであった。
「素晴らしいな君はァ!羊として100日生きるより獅子として1日生きろ!そういうやつになれよォ~!正豊くん!」
この主とは上手くやっていけそうだ!
などと阿部正豊は思った。