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きさらぎ駅 ~現世帰還~

 優しいさざ波の音がどこからか聴こえてくる。

 身体全体を覆うサウナのような熱気。

 額から垂れる汗。


 気がつくとそこはどこか海沿いの駅で、駅の向こう側には両手を広げるように海が広がっていた。

 私はというと、長い時間駅のホームのベンチで横になってずっと眠っていたのか、身体を起こすと悲鳴を上げるかのごとく身体中の骨が軋む音を上げる。


 無事現世に帰って……………………きた?


「いやったーーーーーーーーーーーー!!!!」


 きさらぎ駅探しの時の服装のままで、バッグからスマホを取り出すとばっちりアンテナは立っていた。

 時刻は午後の3時過ぎ。

 きさらぎ駅探しから一体どれくらい経過していたのだろう。


 現世が幽世と同じ時間だけ進行しているとは限らない。

 もしかしたら10年くらい経過していたりして?


「ようやくお目覚めかよ。寝すぎだっつの」


 駅のホームの向こうから歩いて近づいてきた、目つきの悪い青年。

 神野八代だった。


「八代もきさらぎ駅から無事帰ってこれたんだ。井戸の中で見失っちゃったから心配したよ」


 ホッと安堵する私に、八代は訝しげな顔を向ける。


「きさらぎ駅から帰ってきただって?3時間近く寝ててまだ寝ぼけてるのか。きさらぎ駅は結局見つからずじまいで、やけくそになって終着駅のここまで来たことを忘れたのか?」


 ……………………え。


 まさか、これまでの出来事全部、ただの夢?寝落ち?


「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの実家で過ごしたこと覚えてない?他にも色んな怪異と出遭って…………」


「夢の話か?俺も電車で一睡はしたが、そんな夢は見ていないな」


 私が回し蹴りをお見舞いしたショックで記憶の一部を失くしちゃった…………とか?

 うーん…………。

 八代にそう問われてみると、ついさっきまでの出来事が急に遠い昔の出来事へと塗り替えられていくようで、自信がなくなってきた。


 そもそも、電車に乗って別世界に行って、井戸に落ちて帰ってくるなんて、まるで不思議の国のアリスの世界観だ。

 よくよく思い返せばこれまでのことは夢らしいほど夢で、非現実的すぎる。

 とりあえず面白都市伝説系つめこんじゃいましたみたいなインスタントなホラー小説の世界といっていい。


 ということは、きさらぎ駅調査は失敗、夢オチにて終了、と…………おう?

 目の前を黒猫が歩き、通り過ぎるのかと思いきや、私の膝の上に飛び乗ってきた。


 ……………………………もしかして、ジジ?


 黒猫は自身を呼ばれたことに呼応するようにニャーと短く返事を返してきた。


 まさかーーーーーーーー。


 ポケットに手を突っ込むと小さくて硬い物に手が触れ、取り出してみると、それはエメラルドグリーンの液体が半分ほど残った小瓶だった。


 私は八代へ視線を戻し、彼の腕に装着しているそれを見てやはり夢ではなかったことを悟る。


「八代ってそんなゴツイ金ピカの腕時計なんてつけていたっけ」


「金の腕時計なんてつけていたっけな……、いやそもそもこんなの持ってたっけ」


 八代にはどうしてか、きさらぎ駅にいた時の記憶が失われているようだった。

 何はともあれ、きさらぎ駅調査成功!……と、手放しで喜ぶことはできなかった。

 あれが現実だったということは、現世に戻る直前に八代が吐露した言葉、感情の数々も全て本物だということ。


 彼は、きさらぎ駅に残りたいと言った。

 父に殺された母と妹の魂を探すために、幽世の世界に残りたいと。

 それはつまり、生きるよりも死を選ぶことと同義。


 たとえ今生きていても、八代の心はいずれまた死へと引き寄せられていき、向こう側へと行ってしまうだろう。

 だからといって、私に彼の人生の選択を止める権利はない…………。

 いや、それに納得できなかったから私は彼を無理矢理現世へと連れ戻した。


 これは、私のエゴだ。


「暑いし喉渇いた。自販機で飲み物買ってくるね。ついでに八代の分も買ってくるよ。何が欲しい?」


「じゃあ、コカコーラ頼むわ」


 八代の注文も聞き、近くの自販機へ行ってお茶とコーラを購入する。

 ガタンと音を立て、自販機の口からキンキンに冷えたお茶とコーラが吐き出された。

 八代はスマホゲームでもしているのか、画面に集中している。

 私は彼の様子をさりげなく確認しながら、こっそりとポケットに手を伸ばしたーーーー。

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