ジャーナリストと呼べよ、幽霊探偵さん
浜崎開斗の口から直接聞いたイジメの犯人は、3人の同級生だった。
彼らはクラスの中心人物にしてスクールカースト最上位に位置する人間達だった。
依頼の難易度が余計に上がってしまい、仕事の報酬が見合わなくなってくるんじゃないかと辟易してきてしまう。
彼らの表向きの評判が良い分だけ、彼らを知る周囲の人間の目が曇り、彼らがイジメをしていたという証拠が見つかりづらくなるのだ。
浜崎開斗の口から犯人の名前を聞くことができても、しょせんは死人に口なし。
何の証拠もなければ見えない者の発言などないのと同じだからだ。
1人目、天上院京真
品行方正で常に学年順位No.1の成績優秀者であり、現生徒会長。
2人目、青空翼。
サッカー部主将でイケメン、学年一モテる男子と評判のスポーツ男子。
現在はマネージャーの中野三葉と付き合っている。
3人目、中野三葉。
彼女のみ1学年下の1年生で、サッカー部マネージャー、そして青空翼の恋人。
アイドルのような可愛らしい顔立ちに惹かれて告白した男子は両手の指じゃ足りないほど。
自己承認欲求が人一倍強く、モテない男子に色をかけてはその気にさせて振るという小悪魔系女子。
「どいつもこいつも表向きはハイスペックだが、中身は私から言わせればどいつも人間の屑ね。いや排泄物以下かしら」
「お前女子の癖に口悪すぎだろ……」
誰もいない新聞部部室内、尾道遠江は椅子に腰をかけながら意地の悪そうなシタリ顔で語った。
「新聞部の尾道の情報は本当に助かる。また困ったとき頼むぞ」
「神野は学校に友達がほとんどいないから同級生の情報なんて皆無だろ。それどころか同じクラスの奴の名前すら憶えてなさそうだもんなぁ。幽霊以外にもちゃんと生きた人間の友達を作った方がいいんじゃない?」
「幽霊でも友達はいないがな」
「……可哀そうな奴だな。とりあえず、証拠を掴んだら私にも情報よこしなよ。神野の言ってることが真実ならかなり大きなスキャンダルとして校内新聞に取り上げられるからね」
「人の不幸を仕事の種にするのはどうかと思うが、よろしく頼む、未来の週刊記者さん」
「ジャーナリストと呼べよ、幽霊探偵さん」
尾道は得意げに黒縁メガネのフレームを片手で上げてニヤリとした後、パソコンの画面に向き直り、文書の作成の続きに戻った。
浜崎開斗が学校の屋上から飛び降りて自殺したのはほんの数か月前。
当時は大騒ぎになったものの自殺の理由は不明で、嵐のような騒ぎは台風の様に一瞬で過ぎ去った。
だからこそ、彼の自殺の裏に隠された真実の究明はかなりの大ニュースになると見込んだ新聞部の尾道遠江は、意気揚々と彼らの情報を俺に提供してくれた。
イジメの証拠を交換条件にして。
彼女の言う通り、友人が皆無の俺にとって、数少ない知り合いである尾道のような存在は貴重な情報源だ。
……口が悪いのがたまに瑕ではあるのだが。
男子間でたまに話題に上がるくらいの綺麗系美人なのだが、口の悪さと気の強さのせいで異性からは近寄りがたい存在になってしまっているなんて、彼女本人が知ったところで、どうでもいいと鼻で笑われるのが容易に想像できた。
尾道の情報を元に数日間彼らの事について調べてみたが、やはり表面上は評判通りで、授業は真面目に受け、常に友人達に囲まれ、部活動等も熱心に取り組んでいるスクールカースト頂点らしい素晴らしい学生達だった。
そして彼らのボロが出るような場面は今のところ一度もない。
人があまり通らない外階段に腰をかけながら総菜パンを齧ってぼんやりと空を見上げる俺を、浜崎開斗は不安げな瞳で見つめている。
「ちゃんとあいつらの尻尾を掴んでやるから安心しろ。これは仕事だからな。別に何も手が思いつかないわけじゃないさ」
その限られた手段をできれば取りたくなかったんだけどな……。