きさらぎ駅 ~きさらぎ駅ってどうやって行くのかしら~
金曜日の放課後、私は八代とともにファミレスへと寄り道していた。
私達以外にも夏の熱波か退避するようにこのファミレスに足を運んできた学生達がちらほらいて、みな週末前の放課後の余韻に浸っている様子だった。
もちろん、私もその例外ではない。
「きさらぎ駅って、知ってる?」
お昼休みの時間にふと友達の間で話題に上がった都市伝説。
それは、2000年代初め、インターネット掲示板に投稿された奇妙な体験談だった。
投稿主が、実在しないはずの駅『きさらぎ駅』に迷い込んでしまうという不思議な話。
無人駅で、周囲は物も人も何もない荒涼とした景色がどこまでも広がっているという。
電波も通らず、GPSも繋がらない、地図に存在しない場所。
「馬鹿馬鹿しい話だな。ただの創作話だろ」
八代はつまらなさそうに吐き捨て、ポテトを口に運ぶ。
「最強霊能力者(自称)のくせに、そういう話に興味は湧いてこないの?実際にあったら面白そうじゃない。存在するはずのない駅、どこからともなく鳴り響く太鼓音、不意に現れる片足のない老婆。時間や時空を超越した空間……なんて、まるで異世界転移したみたい」
金曜週末前のせいか、自然と声が軽やかに弾む。
口に運んだストロベリーパフェは、甘味と酸味を身に纏い、口の中で踊っている。
そんな私のテンションを軽くいなすように八代はため息を吐いた。
「一昔前は、口裂け女、人面犬、トイレの花子さん、二宮金次郎みたいな都市伝説やら学校の怪談が夏の風物詩のように学生の間で語られていたが、どれもがただの創作話だった。時代が変わり、また新たな都市伝説がどこかで作られ、語られているだけのもの。しょせんは都市伝説だ」
それが現実だと言いたげにポテトを私に突き付ける。
「夢がないわねぇ」
「お前は夢を見すぎだ」
「詳しく調べてもらえないかって友達に頼まれたのよね。八代に霊感があることは、今では学校中の誰もが知ってるじゃない?そんな八代と数少ない知り合いの私に話の矛先が向かってきたのよ」
「調べる価値のない話だって伝えとくんだな……と思ったがーーーー」
八代はスマホの画面を凝視して言葉を止める。
「……………………調べる価値はあるかもしれない」
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『夕闇怪奇倶楽部』に投稿されていたきさらぎ駅の行き方によると、
1.出発駅から上りの電車で5駅先の駅で降り、その後下りの電車で出発駅へ戻る。(※出発駅はどこからでも可)
2.駅のホームで鬼門の方角へ一礼し、改札口を一旦出てからすぐに戻ってくる。
3.駅のホームで裏鬼門の方角へ一礼し、1の手順に戻る。これを、あと2回繰り返す。
4.4回目(最後)、1の手順になぞって下りの電車に乗り出発駅を越えると、その先は幽世の世界、きさらぎ駅へと繋がる。
「なんで昼間の時間帯になんかにやるのよ。早朝とか夜遅くにやった方が目立たないしよかったんじゃない?めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど」
休日の午前10時頃に高校生の男女2人が駅のホームで何もないところに向かって一礼している様は誰がどう見ても不自然だった。
電車から乗降者する人達はみな不審者を見るような眼差しでこちらを見ては歩き去っていく。
「仕方ないだろ。俺は朝弱いから早朝は無理だし、深夜近くだと万が一終電逃したら面倒だ」
「改札を何度も出入りしているなんて……そのうち捕まりそう」
改札口を抜けた際、駅員の顔色をちらっと窺ったが、特にこちらを警戒している様子ではなさそうでホッとした。
繁華街のような町ではなかったが、そこそこ広い改札と絶えず乗客の出入りがあったおかげで私達の不審行動はさほど目立っていないようだ。
「もしきさらぎ駅に着いたとしたら、噂通りならそこは幽世の世界、つまりあの世だ。祭火はあの世へ行ったら、何をしたい?」
あの世へ行ったらしてみたいこと……なんて。
宝くじで1等を当てたら何をしたいかなんて質問よりも非現実的で馬鹿らしい質問だ。
しかし、質問を口にした八代の顔にふざけている様子はなく、どこか寂しげだった。
私はーーーーーーーー
「昔、私がまだ小さい頃に死んじゃった祖父母に会いに行きたい」




