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夜市 ~夜市散策~

 深夜の1時をまわった頃に、俺と祭火はこっそりと家を出た。

 背負ったリュックはギリギリまで物を詰め込んだせいでパンパンに膨らみ、油断すると身体が後ろに仰け反りそうになる。


 お雛様の指示に従ってリュックに詰め込まれた品々。

 それは、物置部屋の骨董品類からリビングにあるような何の変哲もない日用品、雑貨など多種多様と言えるが、俺にとっては無作為、適当としか思えなかった。


 一体これが何の値打ちになるんだか。

 お雛様曰く、夜市に現れる者達というのは、あちらこちらの異界からやってくる魑魅魍魎、あるいは八百万の神様らしい。


 取引において人間世界の貨幣は何の価値もなく、価値のありそうな物同士の物々交換が基本ということなのだが、これらが異界の者達の欲しがる商品とは到底思えない。


 シャンプーハットって…………。

 異界の奴等もシャワーとか浴びるのかよ。


「本当にこんなにあれもこれも持っていく必要があったのかよ」


 リュックの口から頭だけひょっこりと出したお雛様に文句を言ってみたが、返答はなかった。

 誰がどんな物に価値を感じるかがはっきりしないため、とりあえず色んなものを詰め込もうという考えは分かるのだが……。

 大量に物を詰め込んだリュックはそれなりの重さで、20分程度歩いただけで肩が痛くなってきた。


 それに自分達が住んでいるような都市部近郊の市街地と違って限界集落目前のこの村には街灯が少なく、足元が覚束ないため何度も転びそうになる。

 明かりがついている民家もなく、24時間営業のコンビニや飲食店なんて当然のごとくない。

 人の気配は皆無で、村全体が寝静まっているようだった。


 お雛様の案内に従って民家を抜け、月光が揺蕩う水田が広がる畦道を歩き続ける。

 山林に入ると、月明りは緑の屋根に遮られ、徐々に暗黒の世界へと切り替わっていく。


 持参したキャンプ用のランタンを灯して山道を進んでいくと、朽ちかけた民家や小屋がちらほらと現れ始めた。

 お雛様がリュックから2つお面を取り出し、俺と祭火に差し出してくる。


 お面を付けろという指示。

 それは、自分の正体を魑魅魍魎の彼らに悟られないようにするためらしい。

 自分が人間であるという情報でさえ彼らに知られることは危険であり、名を明かすということは自分の命を差し出すのと同義なのだという。


 俺は狐の仮面を、祭火は狸の仮面をそれぞれつける。

 しばらく進むと、道の両側に等間隔で設置された蒼々と燃える松明が現れはじめ、通り過ぎるたびに2つの影が地面でゆらめく。


 道中を蒼く怪しく照らし、ゆらゆらと揺れる影は、まるで祭囃子に合わせておどっているかのようで不気味だった。

 そして、ここが夜市の入り口なのだとすぐに察した。


 道の先を見据えると、雑草まみれの荒れた田んぼや寂しげに佇む寂れた神社、廃屋が立ち並んだ大きな廃村が広がっていた。

 道中に並んでいるものと同様の蒼い炎の松明が廃村の中のあちこちに設置され、村の中を照らしているおかげで多少距離のあるこの場所からでも廃村全体の輪郭が伺える。


 廃村が近づくにつれ、俺達以外の存在が目に入るようになる。

 彼らもみな自らの正体を隠すようにお面を付けていた。


 姿形は人間と同様だが血が通っていないと思えるくらい肌が白い者もいれば、タコのようにくねくねとした脚が何十本も生えた軟体動物のようなモノ、身体から首が2つ生えたモノ、某映画に登場するカオナシのような、自分と同じ背丈くらいの円筒のような真っ黒な身体のモノなど、彼らの姿は多種多様で、好奇心でつい視線が右往左往してしまう。


 廃村の通りにはすでに出店が立ち並び、商人とお客さんとで賑わいを見せている。

 ある出店からは鉄板の上で何かがジュウジュウと焼ける音とともに香ばしい香りと煙が立ち上っている。


 また、ある出店の前では、顔や身体が妙にリアルな質感のからくり人形が美しい舞を披露し、周囲に集まった観客を沸かせていた。

 他にも、見た目は何の変哲もない石ころを売っているお店、左右非対称の歪な形をした昆虫の虫籠を並べる店、カラフルな綿菓子店など、奇怪な夏祭りとも呼べそうな独特な雰囲気と活気のある市場といった様相をしている。


「記憶を改竄できる……忘れ薬だっけ?どの店で売っているかは分かっているの?想像していた以上にお店がたくさんあるけど」


「赤い色の天狗のお面を被った商人らしい。このお雛様が当時とり憑いていた骨董品を売買していた商人で、近づけば気配で察知できるんだとか」


「赤い天狗の仮面の人っていっぱいいるけど……」


「だから市場中を練り歩いて赤い天狗の仮面の奴らをしらみつぶしに調べていくしかないってことだ」


「かなり体力を消耗しそうね」


「この巨大なリュックを背負った俺の前でよくそんな弱音が吐けるな」


「ごめんなさい…………。そういえば、あなたの背負っているそれってリュックだったのね」


「祭火の目には何に視えているんだ?」


「…………大きな蝸牛の殻に見える。ヌメヌメしてそう。気持ち悪い。触りたくない」


 …………やはり祭火の視ている世界はかなり狂っているようだ。


 ホラーというよりファンタジーに近いかもしれない。


「むしろそのままでいた方が人生楽しいんじゃないか?毎日新鮮で飽きないだろ」


「馬鹿なこと言わないでよ」


 呆れ声とともに、額にコツンとデコピンをくらった。

 軽い衝撃を受けた狐のお面は飄々とした表情を保っていた。


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