表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/46

夜市 ~ジェイソン男~

 ジェイソン男はドア越しから、私が視てしまったくねくねという存在や、今の私の容態について丁寧に説明してくれた。


 話が突飛でにわかには信じられなかったが、あのくねくねした奇妙な存在を視てから世界が一変したという事実を現在進行形で体感している以上、否定もできない。


 だからといって、私が視ているこの恐ろしい景色が全て錯覚だなんて……。


 そして、このジェイソン男の正体が神野八代で、彼に無理矢理食べさせられていたものが昆虫なんかではなくただの桃だったなんて。


 口の中で虫がのたうち回る感触。

 奥歯で嚙み潰した時に噴き出すドロッとした体液。

 飲み込んだ時に喉の奥に張りつく千切れた手足。


 そのどれもがあまりにもリアルだった。


 いや、違う可能性だって十分考えられるはすだ。

 私が目の前の男に薬物を打たれ、くねくねも含めたどれもが幻覚によるものだという可能性も……。


「なぜ最初からちゃんと説明せずに椅子に縛り付けて強引に食べさせようとしたのよ」


「祭火が俺の言うことを信じずに暴れて抵抗される可能性が高かったからな。その時はまだ、桃さえ食べさせれば治ると楽観的に考えていたんだ。まぁ、結局意味なかったが」


「こうして今頃になって説明したところで私が信じるとでも?」


「もし俺が拷問好きのジェイソン男なら、今も祭火を拘束し続けたままのはずだろ。それにわざわざ祭火をこうして部屋のベッドまで運んで寝かせるなんてこともしないはずだ」


「…………。それならいくつか質問させて。あなたが確かに神野八代だと確信するために」


「めんどくせぇ…………」


 面倒くさそうな返事を意に介さず、私は質問を開始する。


「あなたの名前は?」


「……神野八代だ」


「私が最初に出遭った最初の怪異はどんなものだった?」


「こっくりさん事件だろ。友達とふざけ半分で行った降霊術だったよな」


「以前ウチの学校内で大流行してパンデミックにもなった心霊ゲームは?」


「チェーンテレホンだ。祭火にテレホンされて巻き込まれた挙句、問題を解決したと思ったら性欲馬鹿男に腹を刺されたなそういえば」


「新聞部の部室で襲われそうになった時に助けてくれた人は?」


「お前が得意の格闘で相手をみんなぶっ飛ばしてくれたんだろ。その時はありがとな」


「神野八代に付き合っている女子はいる?」


「……いねぇよ。なんだそのどうでもいい質問は」


「私以外に仲の良い女子は?」


「質問内容おかしくないか?もう質問は十分だろ。いい加減俺を信じてくれよ頼むから」


 テンポの良い質疑応答だったので、ついどうでもいいことまで聞いてしまったが、彼の方からどうでもいいと言われたことに何故か釈然とせず、少々ムッとした。

 だが、これで確信した。

 彼は間違いなく神野八代本人だ。


「もう入っていいか?」


「……………………どうぞ」


 ゆっくりと開かれるドアから姿を現したのは、やはりあのジェイソン男だった。

 たじろぐ私に対し、ジェイソン男……否、八代が即座に両手を上げて何もしないというポーズを取る。


「それで、私の頭を治すもとい、記憶を補修できる不思議な薬を探しに、夜市っていう不思議な市場に参加するというわけね。なんだか胡散臭い話」


「あの無能お雛様からの情報だ。馬鹿っぽい奴だが、あれでも一応は付喪神。信憑性はある……というか他に打つ手がない」


 自信なさげに項垂れる八代。

 見た目はジェイソン男でも、彼の言動や立ち居振る舞いから、彼が神野八代だというのがじんわりと伝わってくる。


 容姿も体格も声質も、何もかもが違うはずなのに。

 彼が彼であるということが端々から読み取れる。

 それは彼と長く時間を共有するようになって、彼の持つ雰囲気や内面が理解できたからかもしれない。

 もしくは、私の微弱な霊視能力が彼の放つ霊力を無意識に察知しているのか。


 分からない、いやどちらでもいいだろう。

 胸がじんわりと温かくなり、先ほどまでの身体の強張りが少しずつ引いていく。


「じゃあ、行こうか。明日、夜市に!」


 友好と信頼の証を示すように真っすぐと彼へ向かって手を伸ばす。

 彼は一瞬、拍子抜けしたような反応を示し、ややあって私の手を握った。


「そういえば、作り置きの夕飯が食卓にあるみたいだが、食べられそうか」


 食事と聞いて、胃がキュッと締め付けられるような感覚になる。

 祖母は料理上手で嫌いな野菜も気にならなくなるくらい美味しいけれど、認知が狂ってしまった私の視る世界において、祖母の絶品料理が私の目にどんな風に映るか。


 …………それでも、正直お腹は減った。


「一応、見るだけ見てみるか?もしかしたら普通の料理に視えるかもしれないぞ……知らんけど」


「まぁ、見るだけ見てみようかしらね……」


 期待値が低いのは明らかで、苦々しい笑みを浮かべる私を背に、八代は居間に向かっていく。

 食器の載ったトレーを持ってすぐに帰ってきた。


「チーズはトロトロ、エビはプリプリのエビグラタンをどうぞ」


 ………………………………。


 ほらやっぱり。

 どう視えたかは、言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ