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八尺様(前編)

 呪いの雛人形問題を解決した後、せっかくの帰省ということで私と八代は一週間ほど滞在することになった。


 夏の猛暑日とはいえ、都心部のようなじっとりとした蒸し暑さではなく、広々とした平屋に吹き抜ける扇風機の風が汗ばんだ身体に当たり、心地良い。

 風に揺られる風鈴の音は、どこまでも透き通る青空に吸いこまれ、ゆったりと進む時間の中で、私と八代は縁側に腰かけてスイカにかぶりついていた。


「スイカの種まで食べると、ヘソから芽が出るなんて迷信があるけどさ、私は昔、お母さんから種を食べるたびに肌にホクロが増えていくって吹き込まれてて、小さい頃は種を間違えて飲み込むたびにホクロだらけになるって泣いていたことあったんだよね」


「スイカにまつわる迷信だな。地方によって内容が変わるみたいだが、一体何が源泉になったんだか」


「スイカにまつわる小さい頃の思い出って誰しもあるよね。八代はそういうのないの?」


「迷信絡みのネタはないが、口に溜めた種をどこまで遠くに飛ばせるか妹とよく勝負していたことがあったな」


「どっちが勝ってたの?」


「もちろん俺が全勝だった。年下だからって手加減なんてしないからな」


 八代はしたり顔でそう言うと、口の中に入れた西瓜の種を弾丸のように遠くに飛ばした。

 種は家の塀にコツっと当たって地面に落ちた。

 自慢していた通り、それなりに遠くまで飛んで行った。

 対抗して私も飛ばそうと思ったが、女子の私がやるとさすがに引かれそうなのでやめておくことにする。


 褒めてあげようと八代の方を向くと、彼は寂しそうに虚空を見つめていたので、私は察して何も言わなかった。

 余計なことを思い出させてしまったかもしれない。

 父に殺されて、すでに亡くなってしまった妹のことを。


 せっかく良い雰囲気だったのに。

 崩れてしまった雰囲気をなんとかしないと……。

 とはいっても急に面白い話題がパッと思い浮かぶわけでもなく、私はコップに入った麦茶を一気飲みし、八代の目の前で空になったコップを突き付ける。


「飲み物なくなったから買ってきてよ」


「一応聞いておきたいんだが、俺ってお客さんなんだよな?」


「スプライトでお願いね」


 非難めいた視線を送ってきたが、諦めてくれたのか、ため息をつきながらも買いに行ってくれた。

 普通よりも人が良いというか、お人好しなんだろうなとつくづく思う。

 そして私はあまり人が良くはないんだろうなと改めて思う。


 祖父母は共に町内会で外出しており、家の中はふと静かになった。

 田舎で人通りもほとんどなく、車の走行音さえ聞こえてこない。

 鳴り響く風鈴の音をBGMにボーっとくつろいでいた時、不意に金木犀の甘い香りがした。


 ……………………そして、ソレが姿を現した。


 家の塀をゆうに超える背丈の、白いワンピースを着た髪の長い女性が家の前を歩いている。

 歩くというより、まるで流れていっているような進み方だったので、一目見て違和感を感じた。


 肩より下が塀で見えないためどんな歩き方をしてるのかは分からなかったが、地面の上をスケートで滑っていると言われるとしっくりくるかもしれない。

 2メートル以上の高さのある塀から突き出た女の顔は、長い髪に隠されてよく見えない。


 女はそのまま家の前を通り過ぎていくのかと思ったのだが。

 その場でピタッと立ち止まった。

 首を軽く傾けてチラッとこちらを見て、すぐにそのまま歩き去った。


 遠くだったのではっきりとは言えないが、女の瞳は真っ白のように見えた。

 黒目のない真っ白な瞳ではあったのに、私を見たということだけはなぜだかはっきりと分かった。


 私を見た後に発した、ぽぽぽっという奇妙な笑い声が脳裏にこびりついた。


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