故郷
延々と続いているような錯覚を思わせる田畑とそれらを囲む山々。
じりじりと照り付ける日光は容赦なく体力と水分を奪っていく。
私の50メートル以上後方を遅れて歩く八代は、今にも死にそうな目をしてなんとか足を動かしていた。
日焼け止めクリームを塗り、直射日光を遮るための日傘を装備している私でさえキツイのに、なんの日焼け対策もしていない八代は地獄の窯の底を歩いているに等しい
熱気を受けているのだ。
「八代ーー、大丈夫ーーーー?」
白々しい質問だ。
大丈夫じゃないと分かっているのに。
とりあえず相手の様子を気遣っているという体をなすための定型的な質問だが何も声をかけないよりはいいだろう。
「もう少し……歩くペースを……落として……くれ。あと……日傘を貸してくれ…………」
私はその場で立ち止まり、八代が追いつくのを待った。
ややあって追いついた八代は体中が汗だくでくたびれた顔をしていた。
私の日傘に手を伸ばしてきたので、奪われまいと明後日の方向に日傘を持つ手を避ける。
「日傘はだめ。直射日光は女の子の肌に大敵なのよ?」
「今回ゲストとして招かれた俺に対する仕打ちがこれかよ……。せめて交通費くらい支給してほしいくらいだぜ」
ゲスト……お客さん……?
そういえば、私はどうして彼とこんな田舎道を歩いているんだっけ?
そもそもここはどこで私はどこに向かって歩いているんだっけ?
現役女子高生なのにもう痴呆が始まってしまったのか。
さすがにそれはあり得ないが、自分がなぜここにいるのか必死に思い出そうとしても思い出せない。
「私達って、どうしてこんな田舎道を歩いているんだっけ」
「暑さで神経が焼き切れたのか。祭火の祖父母に招かれてここまで来たんだろ。呪われた雛人形を祓ってほしいって依頼を受けて」
そうだった。
それで祖父母の実家に向かって最寄駅から歩いているんだった。
どうしてそんな大事なことを忘れてしまったのだろうか。
自宅を出てここまで来た時の記憶が全くないというのもおかしいし、なんだか気持ちが悪い。
「変なこと聞くんだけどさ、八代って、ここまで電車に乗っていた時のこと覚えてる?」
私の変な質問に対し八代はやはり変な顔をした。
「今朝のことなんだから忘れるわけないだろ。早朝俺の家まで祭火が迎えに来て--------って、あれ?」
「最寄り駅、どんな駅で降りたか覚えてる?」
「……………………全く覚えてねぇな」
なぜついさっきまでのことを思い出せないのか。
まるで怪物に記憶を丸ごとかじり取られたような。
白昼夢を見ているような現実感のなさ。
今まで生きてきて感じたことのない奇妙な感覚に気持ちの悪さを覚えたのは、八代も同じだった。
「ま、まぁとりあえず祭火の祖父母の実家まで辿り着けば問題ないだろ。もし道に迷いそうだったらスマホのマップに頼れば------なんだこれ」
八代のスマホ画面に映ったグーグルマップは、バグが起きたように道を描く線や地名や通りの名を示す文字が無秩序にうねって歪み、マップの体を成していなかった。
「熱でバッテリーがやられておかしくなったのかこれ」
「とりあえず歩くしかないわね。幸い祖父母の実家までの道は覚えているし」
「分かった。話は戻るんだけどさ、日傘貸してくれないか?」
「それは無理!」




