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最強霊能者の俺は今日も学校に行くのが憂鬱すぎる。  作者: スイミー
最強霊能者に乗り移った私は今日も学校に行くのが楽しすぎる
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大人しく除霊されろ

 明るかった窓の外が暗くなり始め、この蔵に幽閉されてから丸一日、神野八代との我慢比べを開始してから12時間以上が経過した。

 あの男が宣戦布告した我慢比べの意味がようやく分かった。


 真夏の茹だるような暑さと湿気。

 娯楽の1つもない永遠とも思えるくらいに引き延ばされた時間。

 喉の渇きと空腹。


 人間の肉体に乗り移った今の私は、肉体に縛られる。

 それは痛みも空腹も暑さも寒さも感じるということ。

 その苦しみにどこまで耐えられるか試されているのだ。


 しかし、肉体を共有している神野八代も少なからずその苦痛は受けているだろう。

 私が苦痛に我慢できずに身体から退散するのを狙っているのだろうが、仮にもし、肉体が限界を超えてしまったら、私はこの肉体から離脱するしかなくなるが、彼にとっては死を意味する。

 彼にとってはあまり良い勝負とは思えなかった。


「なぜお前はそうまでして身体を取り戻そうとするんだ。どうせ日常に戻っても苦しみが

 待っているだけだというのに」


 鏡に写る私の顔は汗と疲労で歪んでいる。

 そしてその顔が、また底意地の悪そうな表情へと変わり口がひとりでに開く。


「俺は俺なりに今の生活が気に入っているんだ。死にたくはないしそのつもりもない。だからお前には俺の身体から出て行ってほしいんだよ」


「断るね」


「我慢比べ続行だ」


 それからまた2時間、3時間と長い時間が過ぎていく。

 時計がないから正確な時間は分からない。

 本当はまだ10分しか経っていないかもしれない。


 あまりの空腹と喉の渇きに耐えかねて、いかにも怪しい緑の液体が入ったペットボトルに口をつけてしまった。

 結果、これまで経験のないくらいの不味さに吐きそうになった。


「なんだこれは…………」


 鏡の私は性格の悪そうな笑みを浮かべて答える。


「ただの青汁だよ。不味いだろ」


「なんのためにこんな飲み物を置いたんだ」


「ただの嫌がらせだ」


 小馬鹿にするようなニヤケ面に怒りが湧いたが、なんだか急に馬鹿馬鹿しくなってきた。


 そもそも私はそうまでしてこの男の身体を支配して普通の生活を送りたかったのだろうか。

 高校を卒業したら生活していくために働かなくてはならない。

 社会というのは理不尽だ。

 終わらぬ出世競争、上司からのパワハラ、安月給長時間労働のブラック企業……。


 肉体だけでなく精神を病んであの病院に入院してきた患者は数知れず、この苦痛を耐え抜いたところで、追い求めた日常の幸福がいつまで続くとも限らない。

 とはいえ、またあの病院に戻って鬱屈を募らせる日々は二度と御免だ。


「今お前が感じている苦しみから逃れて楽になれる唯一の道があるぞ」


 悪魔の囁きのように聞こえたがそれは違った。

 鏡の向こうの私は笑うでも怒るでもなく、諭すように告げている。


「怪異になって永遠に生き続けるのは苦しいだろう。かといって今の苦しみは耐えがたい上に、このまま人間として生きていくのが良いようにも思えない。だったら道は1つだ」


「…………一体どんな道なんだ」


「大人しく除霊されろ」


 清々しいほどさっぱり言い放たれた言葉に、私は苦笑した。


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