俺は悪くない。
ただの悪ふざけのつもりだった。
あいつが学校の屋上から飛び降り自殺した時、京真は至って平静な顔で全く問題ないと言っていたし、三葉は、写メしてインスタに投稿しておけばバズリそうだったのになんて言っている始末だ。
つまり、それくらい1人の男子生徒の自殺なんて大したことではなくて、すぐに風化するだろうとタカをくくっていた。
ただの過去へ過ぎ去っていくと思っていた。
「過去がお前らを殺しにきたぞ」
現在は古くて使用されていない体育予備倉庫。
ここでいつもあいつを呼び出して殴っていた。
しかし、その俺が今、その倉庫の中でベンチに縛り付けられて身動きが取れない状態になっている。
悪鬼の様に顔を歪めた男がベンチに縛られた俺の前に立ってこちらを静かに見下ろす。
これからなされるであろう断罪行為という名の愉悦と怒りが男の全身から伝わってくる。
男は、漫画やアニメでしか見ないような背丈ほどの大きさのある鋏を広げて俺の左腕に向ける。
――――――――まさか。
背筋に怖気が走る間もなく、男の手によって鋏の口が閉じられる。
ボトリと、部室の硬い床に大きな物体が落ちる音。
切断部から大量に血が吹き出てきて、一瞬で床が真っ赤に染まっていく。
火事が起きた時に、消防士が扱うホースを不意に思い出した。
鎮火させるために大量の水が放出されるホース。
血が吹き出る左腕がまさにそのホースみたいだなぁとぼんやり思ったが、込み上げてくる焼けるような激痛に意識が爆発した。
痛みに身体を激しく捩らせる俺を、男は喜びも怒りもしない無情な顔で見下ろし続けた。