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終幕

 ほんの短い微睡から覚めたように意識が急浮上する。

 先ほどまで短い眠りについていたのかそれとも、眠気に意識が落ちかけていたのかは分からないが、白昼夢の中で、私はヤッシーとずっと話をしていた。


 私がなんて言ったのか、彼になんて言われたのかはよく覚えていない。

 でも、彼がとても悲しそうな顔をしていたのははっきりと覚えている。

 どうしてそんな悲しそうな顔をするのかと問いかけたくても、私は私の意思で話すことができず、私じゃない誰かが私の身体を操っているかのように、ひとりでに私の口は軽快に愉快に動き、なんだか気持ちが悪かった。


 でも、あれはただの夢なのだと今ならはっきり分かる。

 だって、目の前に立っているヤッシーは、これまで見たことないくらい幸せそうな笑みを讃えているから。


 でも、あれ?

 私はいつから彼の病室に入ったんだっけ。

 まぁ、彼が幸せならそんな些細なことはどうでもいい。


「ヤッシー、なんかいつもと雰囲気違うね」


 私の問いかけに対し、まるで青春ドラマの主人公のような好青年の笑顔を私に向けて応える。


「身体が健康という当たり前の幸せを噛みしめることができたからね。最高に幸せな気分さ。海原さんもすっかり元気になったんだ。きっと僕と同じ気持ちだろう?」


 彼特有の目つきの悪さがなくなり、声も張りがあって快活という言葉がよく似合うような爽やか系男子が目の前に立っている。


「学校に行ける日が待ち遠しいなぁ。勉強もしたいしスポーツもしたいし、友達も作って放課後過ごしたり休日遊んだり。楽しみだなぁ」


 近寄りがたい雰囲気でもなければ、ニヒルで捻くれたところなんて微塵も感じないごく普通の男子高校生。

 彼をよく知らない人間が今の彼と接したら、100人中100人が善良で一般的な人間だと評するだろう。


 でも、彼をよく知っている私からすれば、確信を持って言える。


「あんたは…………神野八代じゃない」


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