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最近の私は何かが変だ

 彼の名は神野八代。

 腹部を刺されて入院しているらしいが、経緯については言葉を濁していた。


 どうやら並々ならぬ事情があるようだ。

 高い霊能力を有していて、そのおかげで私は黒い影達から助けてもらうことができた。


 普通だったら信じられないが、そういう存在と出遭ってしまった私はそれが事実だとすんなり飲み込むことがきでた。


 オカルト界隈では有名な夕闇怪奇倶楽部という心霊サイトを運営していて、そこに寄せられる心霊相談を受けたりもしているなんて、見た目からでは想像もつかないくらい凄い高校生だ。


 しかし、私と同じような境遇の人達をたくさん救っているなんて良く出来た人間なんだと褒めてあげたら、依頼料はちゃんと受け取っているぞと皮肉交じりの笑みを浮かべていた。


 うーん、この男……。

 でも彼が稼いだそのお金でカフェを奢ってもらった私がとやかく言える身分ではないし、それ以前に腹部に怪我をしている彼に飛び込んだ私は大罪人と言えるだろう。


 黒い異形達がいなくなってから数日経ったが、彼らが再び姿を現すということは今のところなく、平穏な入院生活を送ることができている。


 それはヤッシーがこの前くれた御守りの効果なのか、それとも大部屋の四隅に置いてくれた盛り塩の結界のおかげか。


 相部屋のおばさん患者は気味が悪いと文句を言ってきたが、目つきの悪いヤッシーが睨みを利かせたら一瞬で黙った。

 目つきの悪さが役に立つときがあるなんて意外でびっくり。


 もちろん口が裂けても彼本人にそんなこと言っていないし言うつもりもない。


 いつもの私なら平気で軽口を叩くし、なんなら男子より口が悪い時だってあるくらいなのに、彼にはそんな人間だと思われたくないと考えてしまうのだ。


 最近の私は何かが変だ。

 彼は日中によく私の病室まで行って話しかけてくれたり、缶ジュースを奢ってくれたりする。


 会話をするときは決まっていつもオカルト話が出てくるが、ホラーが嫌いじゃない私はそこまで不快ではなかった。


 そんなオカルト男子高校生の患者さんと最近仲良くなったことを、見舞いに来た部活仲間の子達に話したら、


「オカルトオタクきもいなぁ」


「それただの根暗ストーカーの陰キャじゃない?気を付けた方がいいよ」


 と逆に注意された。

 それに対して私は自分でも驚くくらいに怒りの感情が沸いてしまった。


 でも後になって冷静に考え直してみれば、以前までの私なら彼女らと同じように考えただろうし、むしろ妥当な判断だと言えるだろう。


 彼の存在が肯定的に見えてしまうのは、私が彼に助けてもらったからなのだと思う。

 1週間、2週間と日々が過ぎていく中で、ヤッシーと過ごす時間が日常になった。


 入院している間、ネガティブなことは考えないようにとヤッシーにアドバイスされた。

 それは、悪い気には悪い霊を引き寄せてしまうので明るいことを考えた方がよいということなのだそうだが、意識せずとも明るく楽しい入院生活を送れている。


 それは恐らく、こうしてヤッシーが気を遣ってくれているおかげでもあると思う。


 ヤッシーは私を女の子というよりも、年下の妹のような存在として接しているのかなと感じることがよくある。


 その彼の優しさが嬉しくもあり、腑に落ちずモヤっとすることがある。

 モヤモヤとして、つい八つ当たりをしてしまうこともあった。


 最近は、そんなヤッシーと一緒に過ごしていると身体が妙に火照っていくのを感じた。

 上手く目を合わすことができず逸らしてしまう。

 やはり、最近の私は何かが変だ。


 ********************


「夏紀はあと一週間で退院か。おめでとう」


 私の退院日が近づいたある日、ヤッシーは労いの言葉とともに缶ジュースを渡してくれた。

 ようやく退屈な入院生活が終わって学校に行ける。


 戻りたかった日常に戻れるはずなのに、何か物足りない感じがしてならない。


 一度怪異的な存在と出遭ってしまったがために、一抹の不安が残り続けているのだろうか。

 心身ともに健康で充足しているはずなのに、胸にぽっかりと穴が開いているような感覚が残っている。


「黒い怪異は本当にもうウチの所には来ないんだよね?」


「アレはこの病院に棲みついていることは確かだ。この病院からは出られないはずだからこの土地から離れてさえしまえば一安心だな」


 それを聞いて肩が重くなった。一体私は何を期待しているのか。


「でも、一度幽霊のような存在と交わったら、今後も遭遇しやすくなるって依然話してたよね。病院の外でも色んな霊に襲われやすいってことなんじゃないの?」


「俺が渡した御守りは強力な魔除けの効果がある。この病院内でも病院の外でも夏紀を守ってくれるはずだ。まぁでも、もし何かあった時のために俺の連絡先を教えといた方がいいな」


「うん、ありがとう」


 御礼を言ってヤッシーとラインのIDを交換した。


 今日も彼は優しかった。


「入院している間にこの御守りをもし失くしちゃったらさ、やっぱり危ない目に遭ったりしちゃうのかな」


 一体私はなんでそんな質問をしているのだろうか。


「その通りだ。あの黒い影を退治できたわけじゃないからな。御守りと盛り塩の結界がなくなってしまえば、戦地に丸腰で立っているのと同じだ。それに一度アレに目をつけられた夏紀は他の患者よりも狙われやすい。残りあと一週間、その御守りは肌身離さず持ち歩いて失くさないように気を付けてくれよ。幽霊に襲われて体調が悪化して退院日が伸びるなんてことがないようにしたいからな」


 そっか、失くしたら大変な目に遭うのか、そっかそっか。


「分かった」


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