カフェデート?
この総合病院には院内カフェが併設されていて、医者や看護師の他、患者さん達や外部の関係者も気軽に利用している。
時間帯を問わずそれなりに賑わっているので、たとえ、両目に包帯を巻いた若い男と女子中学生が同じテーブルでお茶していたとしても全く違和感なく溶け込んでしまった。
妙に緊張していたせいでメニューを注文する直前まで気づかなかったが、中学生の私にご飯を奢る金など当然持ち合わせていなかった。
会計の時にあわあわとパニックになりかけた私を気配で察したのか、彼はポケットから財布を取り出し、2人分の会計をさっと済ませてくれた。
ちょっとドキッとしてしまった。
彼の財布の中に入っていた数枚の万札を見てドキッとしたわけでは断じてない。
「悪いんだが、俺のメニューも運んでくれないか?」
「あ、うん…………あっ」
そう言われて彼のトレーを運ぼうとする前に、近くのテーブルでお茶をしていた看護師さん達の1人がすぐに気づいて彼のトレーを空いている席まで持って行ってしまった。
「ありがとうございます」
彼がその看護師さんにお礼を言うと、看護師さんは涼げに、いえいえと返事をした。
何故か分からないが、ちょっとモヤっとしてしまう。
そして、席に着いたものの、私は何を話せばいいのか分からず黙り込んでしまう。
そういえば、同級生の友達から最近できたらしい彼氏との初デート話を聞かされたことを不意に思い出した。
なんでも、クラスではいい感じに話していたのにデートだと大して会話が盛り上がらず、すぐに別れてしまったという。
大好きな彼氏だったのに、デートという2人だけの空間になると勝手が違うものらしい。
なぜ今そんなことを思い出すのか自分でもよく分からずあわあわあわ。
「俺に何か聞きたいことがあるんじゃないのか」
直球な質問に私はハッと思い出した。
私は昨夜の男を捜索しているところだったのだ。
しかし、毎夜現れていた黒い異形達の話をしても、一体誰が信じるものか。
そんな話を正直に切り出した途端、こちらが異常者扱いされるのは明白だ。
それを察して私は彼の質問に答えられず、開きかけた口が閉じてしまう。
幽霊なんて馬鹿げた話、誰に話したとしても信じてなんてくれない。
では、もし、またあの異形達が私の前に再び現れたら?
昨夜の男が今度は助けに来なかったら?
私は誰にも助けを求めることができず、そのまま殺されてしまうのではないか。
そう思い始めた途端、ゾッと恐怖が首をもたげてくる。
カップを持つ両手が震えだした。
「やっぱり、君だったのか。それなら、もう誤魔化す必要はなさそうだな」
彼はそう言って、私の震える両手を優しく包み込むように乗せた。
「もう大丈夫だ。君にはもう何も起こらない。奴らがまた来たとしても、俺がまた祓いに来るからな」
そして、彼は両目に巻かれた包帯を外した。
彼の素顔を目にした瞬間、外れたピースが綺麗にはまったような、カチッとした音が脳内に響いた。




