学校を休んでまで俺の見舞いに来ることないんじゃないか
重い身体をベッドに沈みこませ、じんわりと痛むお腹を気にしながら祭火の切ってくれたリンゴを口に入れた。
シャリシャリと気持ちの良い音が口の中に広がり、それを見た祭火は満足そうに笑みを浮かべる。
「わざわざ学校を休んでまで俺の見舞いに来ることないんじゃないか」
「だって、八代が刺されたのは私が原因でもあるし、これくらいはしないとね。それにたまには学校をサボってみるのもいいものじゃない?」
祭火はあっけらかんとした口調で楽しげに答える。
「刺したのは尾道を襲った男子のうちの1人で、退学処分になった腹いせの犯行だ。祭火は関係ない。もちろん尾道もだ。罪悪感を感じる必要はないからな」
「八代にチェーンテレホンを教えたのは私だからさ。私があんたに広めなければそもそも余計ないざこざに巻き込まれなかっただろうし、本来はあの男子に刺されていたのは私のはずなのに、八代にその矛先が向いちゃったし」
「まぁでも祭火が新聞部室で俺と尾道を助けてくれなかったら今頃殺されていたかもしれなーーーー」
「もういいの!!八代はクドクド理屈っぽい!人の謝罪と好意は素直に受け取っておけばいいの!」
最後は畳みかけるように言われたので、ウッスと大人しく返事しておいた。
祭火は機嫌良さそうに鼻歌を歌いながらリンゴの皮を剝いているので、むやみに否定をして機嫌を悪くさせる必要はないだろう。
俺を背後から刺したのは、チェーンテレホン事件で尾道を襲おうとした男子達の1人だった。
祭火の格闘により男子達は瞬殺され、彼らは後に退学処分となったが、1人は憤りが収まるどころか爆発したのだという……俺に対して。
学年どころか学校でも上位に入るくらい可愛い女子2人と仲が良い、いけ好かない男子のように彼の目には映ったらしい。
全く勘弁してほしいものだ。
俺はサイト運営やら心霊相談や行方をくらました父の情報収集やら色々忙しいというのに、学校の馬鹿な奴らに構っている暇なんてない。
とはいえ、せっかくの入院生活。
早ければおおよそ一か月、久しぶりに退屈にのんびりと過ごすのもいいだろうと思ったのだが…………。
「夏紀ちゃーーーーん!!院内を走っちゃダメぇええ!!まだ安静にしてないと!!」
看護師の悲鳴にも似た声が通路に響き渡ったのかと思うと、
「ごめん看護師さん!今探している人がいるの!捜索中だから放っておいてー!!」
それで言い訳のつもりなのかとツッコミたい内容の大きな返事が返ってきた。
病室の開放された扉から一瞬、中学生くらいの小柄な女子が走り抜けていくのが目に入る。
ややあって彼女の後を追いかける年配の看護師。
それを見て、昨夜追い払った怪異を不意に思い出した。
毎夜2時頃、病院の一室に現れる怪異らしきもの。
病室内が暗くてはっきりとは見えなかったが、憑いていたのは若い女子だったような気がする。
残念ながらあの時の黒い影は除霊しきる前に取り逃がしてしまい、怪異の正体は分からずじまい。
あの怪異だけじゃない。
この病院には普通の病院では考えられない数の怨念が渦巻き、霊が行き交っている。
ただの浮遊霊や正体不明の怨念の残滓、悪霊、怪異らしき奇妙な気配などあらゆる幽世の存在が。
一体なぜなのか原因は不明だが、ゆったり安眠できるほどの安全で快適な空間とは言えないことは確かだ。
退屈とはほど遠い、波乱の予感がしてなんだか憂鬱になってきた…………。




