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俺の代わりに呪いを受けて死んでくれよぉ!

「おい、神野。お前のスマホ貸せよ」


 頭上から呼びかけてきた男子の声がクラスの誰か分からないのは言うまでもない。

 顔を確認したところで誰か分かるはずもないので、気にせずそのまま机に突っ伏して睡眠を続行。


「神野ォ!聞いてんのかおい!!お前のスマホ早く貸せっつってんだよぉ!」


「……なんでだ」


 あまりにうるさかったので顔を上げて短く尋ねる。

 同じクラスメイトのはずなのに、顔を見てもやはり誰なのかは分からなかった。


「チェーンテレホンってあんだろ?次死ぬの、俺なんだよ。もう俺より後にヘル・コールされた奴、みんな死んじまったんだらしいんだ。助かるためには他の誰かにヘル・コールして延命するしかねぇ」


「お前はそんなくだらないこと信じてるのか。そんな馬鹿だと早死にするぞ」


「もう死ぬ寸前のとこまできてんだよ!!どうせお前友達もいないしチェーンテレホンに参加してないだろ。誰からもヘル・コール受けてないだろ?他の生徒のほとんどはヘル・コールを受けてるからそういう奴らにはヘル・コールをしても呪いが無効になるんだとよ。よく分かんねぇけどそんなルール的な?電話番号教えてくれよ。俺のヘル・コール受けてくれよ。俺の代わりに呪いを受けて死んでくれよぉ!」


「俺が呪いを受けて死んでも今度はまたお前に呪いがチェーンして巻き戻るだけじゃないのか?」


「そしたらまた友達がいなさそうなチー牛陰キャなオタクを探して俺の代わりに犠牲に

 なってもらうわ」


 死を目前にした男子の顔は鬼気迫っていて、錯乱しかけている。

 俺はそんな誰かも知らないクラスメイトの男子に憐憫の目を向けて申し訳なさそうに口を開く。


「わるいな、俺も実はある女子からすでにヘル・コールを受けているんだ。だからお前の代わりに呪いを受けることはできない」


「女子って……誰だ?」


「祭火灯花だが……」


 これでもう俺に絡む理由もなくなっただろうと再び机に突っ伏して寝る準備に入ろうとしたのだが


「なんでお前なんだよぉおおお!!!!」


 感情の爆発と同時に両手を机に叩きつけられた衝撃で俺は再び跳び起きる。


「友達もいない、イケメンでもない、勉強ができるわけでもなければスポーツで目立つわけでもない、何の特徴もない何も持っていないお前のどこに祭火さんは興味を示すんだ。俺と比べて優れている点なんて一つもないのにぃ!」


 チェーンテレホンの話から完全に逸れ、最早ただの罵倒になっていることに俺もだんだん苛々してきてしまい、


「俺が祭火に興味を持たれてるんじゃなくて、お前が単に嫌われてるだけなんじゃないのか?」


 と思ったことをつい口走ってしまった。


 その言葉が彼の逆鱗に触れてしまったことは、阿修羅顔に変化する彼の顔を見てすぐに察しがついた。


 男子の右手が硬く握りしめられたのを見て俺はすぐに机から立ち上がった。

 右手拳が俺の顔面めがけて飛んでくる前に、予備動作のために踏み込んだ相手の左足膝を軽く蹴飛ばす。

 バランスを崩して膝から崩れ落ちたところに、そっと手を首筋と額に添えて霊力を少しだけ注入した。


「…………おぇ?」


 気の抜けたような声を出したままボーっとしているのも束の間、空気を引き裂くような絶叫が噴き上がった。

 絶叫の一つも出てくるだろう。


 僅かながらも俺の霊力を流し込んだおかげで、俺と同じ景色が視えるようになったのだから。

 それはつまり、あちこちに幽霊が跋扈している日常からは大きくズレた現世の景色を彼も視ているということだ。

 男子は耐えきれず、泣きながら走って教室を出て行ってしまった。


 どうせ微量の霊力だから1時間も保たないと思うが、これで今後俺にウザ絡みしてくることもなくなるだろう。

 とはいえ、学校をこんな危険な空気のまま放置しておいたら、幽霊どころか同級生にいつ殺されてもおかしくない。


「身体は大丈夫?怪我してない?春日部君が急に大声出して八代に襲いかかってきたからびっくりしちゃったよ。一体何があったのよ」


 心配そうに声をかけてきた祭火のおかげで、彼の名前が春日部ということが初めて分かった。

 ただ争いの原因の一つが祭火にあることと、本人に自覚がない事が癪に触ったので感謝の言葉は言わないでおいた。


 俺もチェーンテレホン参加者の一端になり、尾道に電話をかけてしまった。

 この眉唾みたいな呪い話が本当ならば、いずれは尾道に、そして俺から祭火へと呪いが転移していってしまう。


「俺のせいで知り合いが死んでいくのは寝覚めが悪いし、解決方法を考えるか」


 誰からの依頼でもないから一文にもならないが、他に解決できる能力を持った奴がいないなら仕方あるまい。


「久しぶりに幽霊探偵するんだ?」


 無邪気に笑うこの女をぶっ飛ばしたい衝動を抑える。

 元はと言えば祭火が持ち込んだトラブルだというのにこの悪気のない純白の笑顔。

 憎らしいが全校の男子生徒を敵にまわしたらさすがの俺も勝ち目はないので拳は引っ込めるとしよう。


「私にも何かできることあったらいつでも言ってね」


「…………あぁ、その時は遠慮なく協力依頼をする」


 根は優しく良識のある人間というのは、気軽に敵認定できない分ある意味最も厄介な存在かもしれない。


 その日の夜、春日部の自宅が火事になり、一家全員焼死したと、次の日の全校集会で教頭先生より告げられた。


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