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連絡先って……誰?

 チェーンメールというのは、呪いの文が記載されたメールが知り合いから送られてきて、それを他の誰かに送信しなければ、受信者に呪いが降りかかるというもの。


 呪いを回避するために他の誰かに呪いのメールを送ることで、メールに乗った呪いが鎖のように連鎖的に広がるからチェーンメールという。


 現在学校内で流行しているのはこの電話バージョンということだった。


「ただ電話するんじゃなくって、HELL CALLっていう怖い通話アプリがあってその通話アプリを通して発した声は、受話器越しに幽霊っぽい怖い声になって聴こえてくるのよね。そのアプリの声を借りて呪いの文を次の人へ次って回してしていくのよ。チェーンテレホンの特徴と言えば、電話先は1人に限定することと、一度電話された相手を選んで電話しても無効になるってことだったかな」


「友人がほとんどいない奴は悲惨な結果になるな」


「そういうことになるわね。それで1個お願いがあるんだけど……」


「なんだ?」


 嫌な予感がする……。

「私と電話番号交換してくれない?」


「は…………?お前まさか俺にヘル・コールする気か?」


「ご察しの通りで……」


「別に構わないが、なんで俺なんだ……。相手が俺だと他の友人の誰にも敵を作らなくていいからか」


「そんな卑屈にならないでよ。八代なら万が一本物の呪いにかかっても対処できると思って。こっくりさん事件以来、世界には本当に超常的な存在があるってことを私自身が知っちゃったからさ。以前よりもそういうことに慎重な性格になったんだよ」


「それなら初めからやるなよ……」


「友達からいきなりヘル・コールされたのよ!ただのノリのつもりだったらしいから私もそれ以上は何も言えなくて」


「まぁどうせ眉唾な話だろうから気にすることでもないけどな」


「そうよね。それに八代なら他に連絡先持ってる相手もいないだろうし、たぶんチェーンテレホンも八代で止まるかなーなんて勝手な期待をしちゃってたりして」


「俺にも学校の知り合いで連絡先の1つや2つはあるさ。チェーンテレホンなんてくだらない事をするつもりはないが」


 いや、でも尾道にヘル・コールしたら面白いリアクションするかもしれないし試してみるのもありかもしれないな。


「連絡先って誰?」


「え?」


 和やかな雰囲気から一変して氷のような冷え切った声色。


「連絡先って……誰?」


 踏み入ってはいけない禁則地に入ってしまったときのような張り詰めた空気感。


 ……なんで?


「尾道遠江……とか他には、」


「その人って、男子?」


「俺って怒られてるのか?」


「男友達?」


 …………。


「いや、女子だよ。まぁ友人というよりは、ビジネスパートナーのようなドライな関係だな」


 俺は一体誰の何に対するフォローを入れたつもりでいるんだろうか。


 祭火との間に突如訪れた不穏な静けさ。


「…………、ふーん。まぁ、別にいいんだけどさ」


 何が別にいいというのか。

 それを聞く間もなく、彼女はスタスタと俺の前から歩き去ってしまった。


 ワケが分からず、俺は疲れたようにため息をつきながら睡眠に戻ろうとしたところで、スマホが振動しだした。


 画面には【祭火灯花】と……ドクロの表示?

 通話ボタンをタップして耳に当てると、


『地獄ノ苦シミヲ骨身二沁ミ込ムマデ貴様ヲ呪ッテヤルゾ女垂ラシノスケベ男がァ!!呪儒邪ァクぁセ死嘆獄ーーーー』


 不気味な女のような、それに似せた怪物のような気持ちの悪い声色に変換された祭火の罵倒の嵐とそれに混じる奇妙な祝詞のような言葉の羅列…………。


 教室内の他の雑音も混じっているせいで途中からはほとんど聞き取れず、何か詠唱のようなものを唱えている最中に電話は唐突に切れた。


 ドクロマークは、HELL CALLのアプリから通話がかかってきた際のデフォルトの表示アイコンだろう。


 受信側はアプリを入れてなくても通話可能って地味に凄くねえかこのアプリ。


 次の授業が始まる前に早速HELL CALLをダウンロードして、尾道にヘル・コールした。

 彼女は大いに驚き、その後ブチ切れた。


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