光る鳥
「ほら、あそこあそこっ」
真はお布団から上半身を上げて、しきりに窓のほうを指差しました。
私がつられてそちらの方を見ますと、お庭の樫から生えた小枝の上に、何か小さなものが止まっていまるのが分かります。綿のようにやわらかそうな体を丸めて、くちばしを左右に揺らしている、可愛らしい生き物でした。
「小鳥さん?」
私が問うと、真は興奮したように何度もうなづきました。瞳がきらきらと、真珠のように輝いています。よっぽど、あの小鳥が好きなんでしょうか。
毎日、真がちょうど落ち着いている夕方ごろに、いつも小鳥がやってくるのでした。あの窓の外にいつも、止まって、何匹も一家団欒のように佇んでいる時もあれば、恋人のように二匹だけで止まっていることもあるようです。今日は一匹だけみたいですが。そういえばその鳥の首のかしげかたは、どことなく寂しそうに見えます。なぜ自分だけひとりぼっちなの、と問いかけるように、部屋の中をのぞいています。
「姉さん、もっと近くで見ていい?」
「ええ、もちろん」
私はちょっと微笑んでから、真の脇をつかんで立たせました。
真は危なっかしい、よろめいた足取りで、部屋を横切っていきます。手をつかなければ、転んでしまうでしょう。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫……大丈夫」
悲しい、悲しい目をしながら、真はくすんだ声で言いました。
私が手を差し伸べるまでもなく、真はきっぱりと歩きます。足取りはお世辞にも、軽いとはいえません。足に鉛でもくくりつけたように、のろのろした動きです。
でも真は、ある面ではそれなりに軽やかでもありました。早く近づきたいのに、体がついていかないといった感じで、あごを突き出すように、前へ前へと行くのです。
そんな真は、とても地を這う生き物とは思えないほど、力強く躍動しています。むしろ、思いのままに蒼い空を駆ける、あの鳥のように。
私は、そう感じずにいられませんでした。
窓までほんの数歩分の距離を、真が通り抜けたとき、私は思わず声をあげました。
「あっ」
あの小鳥が、小枝を離れて、小さな羽根を小刻みに動かし、飛んで行ってしまったのです。
なんて、無慈悲なことでしょう。なんの前触れも、名残惜しさも、羽音さえ残さずに。
枝の網の中を、小鳥が巧みに掻い潜っていくのが、ちらりと見えました。
小鳥が別の世界に行ってしまって、二度と戻ってこないように、私は感じました。
「待って――」
真は、喉がひっくり返ったように高い声で、悲痛に叫びます。前進しようとする足が急いて、真はすごい勢いでつまづき、そしてベランダのほうへ進んでいきました。
「危ないっ」
私が思わず声をあげて、真の背を掴もうとしたときには、すでに真はそこに居ませんでした。
手のひらが、何もない空間を払います。
私は手を下ろしました。
そうして、真が飛んでいき、輝いた空に昇っていくのを、しっとりと潤んできた目で、時間を忘れて見つめていました。




