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光る鳥

作者: chihya
掲載日:2010/04/06

「ほら、あそこあそこっ」

 真はお布団から上半身を上げて、しきりに窓のほうを指差しました。

 私がつられてそちらの方を見ますと、お庭の樫から生えた小枝の上に、何か小さなものが止まっていまるのが分かります。綿のようにやわらかそうな体を丸めて、くちばしを左右に揺らしている、可愛らしい生き物でした。

 「小鳥さん?」

 私が問うと、真は興奮したように何度もうなづきました。瞳がきらきらと、真珠のように輝いています。よっぽど、あの小鳥が好きなんでしょうか。

 毎日、真がちょうど落ち着いている夕方ごろに、いつも小鳥がやってくるのでした。あの窓の外にいつも、止まって、何匹も一家団欒のように佇んでいる時もあれば、恋人のように二匹だけで止まっていることもあるようです。今日は一匹だけみたいですが。そういえばその鳥の首のかしげかたは、どことなく寂しそうに見えます。なぜ自分だけひとりぼっちなの、と問いかけるように、部屋の中をのぞいています。

 「姉さん、もっと近くで見ていい?」

 「ええ、もちろん」

 私はちょっと微笑んでから、真の脇をつかんで立たせました。

 真は危なっかしい、よろめいた足取りで、部屋を横切っていきます。手をつかなければ、転んでしまうでしょう。

「大丈夫?」

 「うん、大丈夫……大丈夫」

 悲しい、悲しい目をしながら、真はくすんだ声で言いました。

 私が手を差し伸べるまでもなく、真はきっぱりと歩きます。足取りはお世辞にも、軽いとはいえません。足に鉛でもくくりつけたように、のろのろした動きです。

 でも真は、ある面ではそれなりに軽やかでもありました。早く近づきたいのに、体がついていかないといった感じで、あごを突き出すように、前へ前へと行くのです。

 そんな真は、とても地を這う生き物とは思えないほど、力強く躍動しています。むしろ、思いのままに蒼い空を駆ける、あの鳥のように。

 私は、そう感じずにいられませんでした。

 窓までほんの数歩分の距離を、真が通り抜けたとき、私は思わず声をあげました。

 「あっ」

 あの小鳥が、小枝を離れて、小さな羽根を小刻みに動かし、飛んで行ってしまったのです。

 なんて、無慈悲なことでしょう。なんの前触れも、名残惜しさも、羽音さえ残さずに。

 枝の網の中を、小鳥が巧みに掻い潜っていくのが、ちらりと見えました。

 小鳥が別の世界に行ってしまって、二度と戻ってこないように、私は感じました。

 「待って――」

 真は、喉がひっくり返ったように高い声で、悲痛に叫びます。前進しようとする足が急いて、真はすごい勢いでつまづき、そしてベランダのほうへ進んでいきました。

 「危ないっ」

 私が思わず声をあげて、真の背を掴もうとしたときには、すでに真はそこに居ませんでした。

 手のひらが、何もない空間を払います。

 私は手を下ろしました。

 そうして、真が飛んでいき、輝いた空に昇っていくのを、しっとりと潤んできた目で、時間を忘れて見つめていました。

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