005 隠しスキル〈共鳴〉
「…………」
俺は倒れた【智慧の蛇】の前で静かに佇みながら、この【夢見の摩天城】についての情報を思い出していた。
摩天城において、元々1~10階層はチュートリアル階層と呼ばれている。
各階層には多種多様かつ難易度の低いギミックが存在し、それを攻略していく中でダンジョンの仕組みを学べるからだ。
中でもこの第1階層では、階層主の討伐後、戦闘時の記録からスキルが一つ与えられる仕様になっている。
そのほとんどは通常スキルだが、時にはレアスキルが獲得できることもある。
そして今、エクストラボスを倒した俺が与えられるスキルはというと――
「……っ!」
その瞬間だった。
突如としてボス部屋内に眩い光の玉が現れたかと思うと、横たわる智慧の蛇を包み込み、その傷を見る見るうちに癒していく。
まるで時間が巻き戻るかのように傷口が消えていき、蛇は完全に復活した。
これは連戦を求められているのだろうか?
いや、違う。俺はこの現象が起きることを既に知っていた。
「さあ、ここからが本番だ」
そう呟く俺の前で、完治した蛇がゆっくりと立ち上がる。
その姿からは、先ほどまでの敵意を感じさせない。
知性に満ちた金色の瞳で、じっと俺を見つめてきた。
『…………』
「…………」
俺も負けじと、智慧の蛇を見据え返す。
すると静寂の中、ゆっくりと智慧の蛇が口を開いた。
『汝、よくぞ単独でこの試練を乗り越えた』
『汝、超克の力を得る資格を得たり』
そんな前置きの後、蛇は問いかける。
『汝に問う。孤高と修羅の道を歩み、世界の覇者となる覚悟はあるか?』
――この問答こそ、俺がエクストラボスに挑戦した本当の理由。
ここの返答次第で、俺は隠しスキルを取得することができるのだ。
仮にこの問いに頷いた場合、俺は隠しスキル〈絶巓〉という、レベルアップ時のステータス上昇量、およびSP獲得量がそれぞれ2倍になるという、文字通りのぶっ壊れスキルを獲得することができる。
これさえあれば、俺は一か月程度で最前線まで舞い戻ることができるだろう。
だけど――――
俺は真っ直ぐと蛇を睨み返し、迷うことなく言った。
「いいや。孤高の力では、本当の意味で世界は変えられない。俺が求めるのは、その先へ行くための力だ」
俺が欲しいのは、その隠しスキルではない。
一周目の経験から、もう知っているのだ。
どれだけ単独で強い力を持つ者がいたとしても、摩天城の理不尽を乗り越えることはできない。
一周目の先へとたどり着くために必要なのは一人で戦うための力ではなく、仲間を束ねることのできる力。
だからこそ俺は、〈叡智の無限回廊〉で見た情報を元に蛇の言葉を否定した。
俺の返答に対し、智慧の蛇は静かに目を細める。
『なるほど、汝は一人の力だけでは満足できぬと言うのか』
『しかしそれは、自身以外の仲間に信頼を置くということ』
『だが、覚えておくがいい。その志は諸刃の剣でもある』
『仲間との絆は力となるが、時として足枷ともなりうる』
俺も、それは分かっている。
仲間を信じるということは、時に裏切られる危険性も孕んでいる。
自分の全てを委ねるからこそ、傷つくこともある。
だが、それでも俺は仲間を信じる道を選ぶ。
そうすることでしか可能性は開けないと、もう知っているからだ。
ゆえに――
「それでも俺は、その道を選ぶ」
俺の宣言を聞いた智慧の蛇は、しばらく無言で俺を見つめる。
そして、
『汝の意志、しかと心得た』
『その覚悟があるのなら、我はこの力を汝に授けよう』
『仲間と共に、汝なりの道を切り拓くがいい』
蛇は俺の覚悟を認めたように頷くと、その体を金色の光に変えていった。
その光は、スっと俺の体内に吸い込まれていく。
『智慧の蛇との問答を終えました』
『隠しスキル〈共鳴〉を獲得しました』
鳴り響くシステム音。
俺はそのまま、スキルの情報を確認する。
――――――――――――――――――――
〈共鳴〉LV1
・対象者と、魂の共鳴を行うことができる。
(両者の信頼度が一定数値に達した場合のみ使用可)
・共鳴者との間にパスが生まれ、両者のステータスが一部上昇する。
(上昇率はスキルレベルと、共鳴者の人数によって変動)
・現在の共鳴者数:0/1
――――――――――――――――――――
「よし、成功だ……!」
そこに刻まれていたのは、確かに俺が追い求めていた隠しスキル〈共鳴〉。
一人の力ではなく、周囲と力を束ねて進んでいくためのスキルだ。
現時点では何一つとして効果がなく、〈絶巓〉とは比較にすらならないだろう。
それでも俺は、このスキルが持つ可能性に懸けることにした。
何はともあれ、これで二周目における1つ目の関門は無事にクリアできた。
あとはこれを使い、摩天城を駆け上がっていくだけ。
さあ――
「世界最強へのリベンジといこうか」
かくして、俺の二周目の冒険者生活が幕を開けたのだった。
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