017 閑話 元パーティーの末路(前)
奏多と祈が臨時パーティーを組むことになった数時間前。
彼――土村(祈が元々所属していたパーティーのリーダー)は、この上ない苛立ちを覚えていた。
「くそっ、あの野郎……俺を誰だと思ってやがる……!」
奏多の圧倒的な雰囲気に怖気づいて逃げ出したことを、土村は今になって後悔していた。
あの時は場の空気に呑まれてしまったが、本当なら自分のような天才が、あんな素人丸出しの相手に負けるはずがない。
もっと強気に出ておくべきだった。剣を抜いてでも、土下座して許しを乞うまで痛めつけてやれば良かったのだ。
一方、他のパーティーメンバーの心中はというと、意外にも奏多ではなく祈に対する不満が募っていた。
「はーあ、あの子のためにどれだけ世話を焼いてやったと思っているのかしら。お礼の金の一つでも置いていくべきだったんじゃないの?」
「でもまあ、あんな足手まといがいなくなって清々したよ。これからはずっとラクができるぜ」
そんな会話を耳にした土村は、ハッとして考えを改める。
(そうだ、今はあんな奴のことなんて忘れていい。むしろ、白河という足かせがなくなったことで、俺たちはもっと自由に動けるようになったんだ!)
そう。足手まといを切り捨てた今こそ、これまでは手を出せなかった冒険にチャレンジするチャンスなのだ。
そう閃いた土村は、仲間たちを集めて提案する。
「よし、みんな聞いてくれ! 俺たちはこれから、例の『迷いの森』に挑むことにする!」
その提案に、メンバーからは戸惑いの声が上がる。
「ちょ、ちょっと待てよリーダー。あそこって、かなりの高難易度だって聞くけど……」
「バカ言うな! 今の俺たちなら、そんなもん楽勝だろ。足手まといがいなくなった今なら、何だってできるんだよ!」
自信に満ちた土村の言葉を聞き、メンバーは徐々に彼の提案に心を傾け始める。
結果的に、彼らはそのまま『迷いの森』へ挑むこととなるのだった。
◇◆◇
――しかしその直後、彼らを待ち受けていたのは予想外の惨劇だった。
「な、なんだこれは!? こいつら、俺たちよりレベルが低いはずなのになんでこんな強いんだ!?」
土村たちの平均レベルは25。
それを下回る魔物の群れが、なぜか彼らを圧倒するほどの力を見せつけていた。
いつもなら、この程度の相手一蹴できたはず。それどころか格上相手でも難なく倒してきた。
それに戦闘が始まってすぐだというのに、まるで普段、体力を使い果たした時のような手応えのなさを感じていた。
「な、なんでこうなるんだよ! 足手まといはいなくなったはずなのに……」
戸惑いながら動きを止める土村に、メンバーの声が届く。
「ちょっと、どうするのよリーダー!」
「知らねえよ! お前ら、手を抜いてるんじゃねぇだろうな!?」
「はあ!? それを言うならお前だろ! 『迷いの森』の魔物くらい、楽勝で倒せるんじゃなかったのかよ!」
「っ、うるせぇ!」
戸惑いは焦燥を生み、焦燥は喧騒を過熱させる。
もはや戦いどうこうの状況ではなくなってしまっていた。
「くそ、いったん撤退だ! こんなところで全滅なんてごめんだぜ!」
「ちょ、リーダー!? いきなり一人で逃げるなんて最低! というかそもそも、そっちで合ってるの!?」
攻略を諦めて逃走を試みる土村たちだったが、彼らはすぐ道に迷ってしまった。
『迷いの森』の名は伊達ではない。
魔物の強さ以上に厄介なのがマップの複雑さであり、経験の浅い冒険者が挑むべき場所ではなかったのだ。
必死で魔物との戦闘を避けながら、土村たちは森を駆け回った。
そしてようやく、木々の生えていないエリアにたどり着く。
「で、出口だ! やっと安全地帯に出られる!」
「よかった! ようやく逃げ切れたのね」
安堵に胸を撫で下ろす土村たち。
だがそれは、とんだ勘違いだった。
そこは出口などではなく、むしろ逆であり――
「ァァァァァアアアアアアアア!」
「嘘、だろ……?」
――このエリアの主、レベル40の【蔦鎧の守護者】が君臨する、まさに魔窟だったのだ。
「ば、バケモノだ……こんなの、勝てるわけない……! くそっ、くそっ、くそっ、なんでこんな目に遭わなくちゃいけねえんだよぉ……!」
絶望と恐怖に打ちひしがれる土村たち。
そんな彼らに手心を加えてくれるはずもなく、【蔦鎧の守護者】はゆっくりと土村たちに迫っていく。
「ガァァァアアアアア!」
「「「う、うわぁぁぁぁぁああああああああああ!」」」
突如として身に迫る死の危機に対し、土村たちは涙を流しながら、無様な逃走劇を繰り広げることになるのだった――――
土村たちのエピソードについてはもう少し後に執筆する予定だったのですが、追放シーンから思ったより話数が増えてしまったので、前半部分だけ先にお届けすることにしました。
後半部分については少し先の投稿となりますので、ぜひ楽しみにお待ちください!
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