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ロッカの輝石  作者: ゆ
一章
9/25

食えない男に大博打



(魔力のない人間はいない。その価値観で生きてきた人なら…)



逡巡し、視線を目の前の男へ向ける。

薄い唇が小さく弧を描いていた。



「…私は、魔力が無いわけではなく、魔力を隠しているというのが正しいです」



そう言って、ロッカは」自分の手首の皮膚をつまみ、引っ張った。

ほとんど色のない薄い皮が、人間の皮膚とは思えないほど伸びている。



(嘘を吐くときは、真実を少し織り交ぜるのが定石)



「これは特殊な魔法具で、全身を薄く覆っていて、魔力を隠蔽することが出来ます。本来私は、一般的な魔法使いと同程度の魔力を有しています」

「なぜそんな必要がある? 魔力があって損することはないだろう」

「公爵邸に忍び込むつもりだったから、そういう道具を死に物狂いで用意しました。高価でしたけどね」

「ではお前は、公爵邸に掛けられた結界は、空気中に霧散する魔力ではなく、個人がもつ固有魔力を阻害するものだと分かっていたということだな?」

「もちろん、推測では。公爵家に結界をかけなおすときは、魔導士たちが塔の外から力を込めると聞いていたから、魔導士たちは中に入れないか、入っても力を発揮できないかのどちらかだと思いました。それに公爵邸に忍び込んだ人の噂はいずれも平民で、魔力量がそう多くなかったからではないかと思ったのです」



ほとんどが真実の話。ただ、隠しているものが違うだけ。

それから、この薄い皮膚はこの公爵邸に忍び込むために用意したものではない。嘘を吐いたのはこの二点だけだ。納得せざるを得ないはず。


案の定、王子は腑に落ちたくないようではあるが反論も出来ないのか、黙り込んでしまった。



(ここで服を脱げなんて、紳士的な王子様はそんなこと言わないはず…)


「…その魔法具は、魔力を隠蔽するだけか?」

「? どういう意味ですか?」

「魔力を遮断するわけではないんだな?」

「はい。見事に王族の目も欺くことが出来ているので、その価値は本物かと」

「じゃあ、今ここで、魔法を使うことは出来るんだな?」



王子の言葉に、手のひらが一瞬で冷たくなる。

動揺を悟られないよう、わざとゆっくり微笑んで見せた。



「…もちろん」



左手にかがり火を出し、しばらくして握り潰した。

手のひらには何もないことをアピールするように、ひらひらと手を振る。

袖口の暗器も回収されていたので、種も仕掛けもないことは王子自身が最もよく分かっているはずだ。



「これで信じてもらえましたか? 王子様」

「ふん…まぁいいだろう」



バレないよう、心中でほっと息を吐く。



「じゃ、疑いも晴れたみたいなので」



王子が手に持っている本を受け取ろうと手を差し出すと、スッと引っ込められた。



「何を言っている? 私の興味で聞いただけで、お前が罪人であることには変わりないだろう」

「…じゃあ、今から牢獄ってことですか?」

「いや、そういうつもりはない」

「?」


「お前、私の従者にならないか?」


「…は?」



不敬にも程がある返事をしたが、王子はそれほど気にしていないようだった。



「実力があり、且つ、私の周囲の者と所縁のない子飼いの諜報員がちょうどほしくてな」

「なにを、言ってるんですか」

「報酬はもちろん払うし、この本の解読方法も調べてやろう」

「いや、でも…」

「いいのか?」

「……」

「ここは王宮だ。そして第一王子の私室。防音魔法をかけてはいるが、部屋の外には護衛が二人立っている。そして私は今、顔を隠していない。…この意味が分かるか?」


(この野郎…顔を敢えて隠さなかった理由は、このためか)



最初からそのつもりだったのだろう。継承権をもつ王族は全員がその容貌を隠していて、国家機密にもなっているのだ。王子の容貌を知った者がこのまま逃げ出せば、指名手配犯になってもおかしくない。



「もう一ついいことを教えてやろう」

「え?」

「継承権をもつ王族が容貌を隠す理由は知っているか?」

「無用な継承争いを無くすため、ですよね。最も強く始祖の血を引く者が王位を継承できるから、見た目が初代の王と似ていることを誰にも悟られないように」

「あぁ、そうだ。昔から貴族とは派閥を作りたがるものでな」



継承順位が分かってしまうと、母親の出自がどうとか、扱いやすさだとか、そういったことで周囲が継承順位第二位の者を王位へ持ち上げたり、暗殺の危険性が高くなったりする。そういった諍いを避けるため、容貌を隠し、王族だけが判別できる特徴を以って王位継承順を定めることになっていた。



(…ん? だとすると、髪色を公に出したことがあるのはおかしい)



先ほどの王子の言葉を思い出し、ロッカは違和感に気づいた。髪色は隠さないこともある、ということは、判断基準で重要なのは髪色ではないということだ。



「気づいたか?」



ロッカの様子に王子は目を細めた。



「髪色で判断することももちろんある。だが、今代の王子たちは皆白金色の髪。初代のアルテミス王と同じ色だ。その場合、もっと重要な判断基準で王位決定をする。それもなければ生まれ順で決めるんだが、今代はちゃんとその重要な特徴をもつ者がいるんだ」

「いや、言わなくていいです」



怪しげな笑みを浮かべる王子に、ロッカは嫌な予感がした。慌てて静止しようとするが、いたずらっ子のような笑みを浮かべる王子がそれを聞くはずもなく。



「これは国の最重要機密事項なんだが」

「あーあーあー聞きたくない!」



両手で抑えた耳に、パチン、と小さくはじける音が届いた。そして、一瞬で周囲が暗闇に包まれる。

ぐい、と両手をを掴まれ、つい顔を上げると、暗闇に光る、燃えるような真っ赤な双眸と目が合う。



「始祖の瞳は、暗闇だと赤く色が変わるんだ」



だから仮面が必要なんだ、とにっこりと楽しそうに笑うその美しい顔に、唖然としてしまう。

再度パチンという音がすると、水平線から朝日が昇るかのように、ゆっくりと周囲に光が差す。

その過程で目の前の双眸はじんわりと金緑色に戻った。何とも不可思議で、神秘的で。そして―――



「綺麗…」



無意識に呟いた言葉に、その美貌の表情が虚を突かれたかのように変化した。

それを見て、自分が何を言ったかを理解する。途端に、顔に熱が集まるのが分かった。



「は、はなせ!!」

「そう恥ずかしがるな。綺麗なものを見て感想を言っただけだ、当たり前のことだろう」

「うっざ…!」



両手を抑えていた手の力が緩んだので、思いっきり振り払ってやったが、王子の顔は楽しそうに破顔したままだった。それに苛立ちが収まらない。



「お前の髪も綺麗だぞ」



何気なく発されたその一言に、急に心臓が冷える心地がした。空気が変わったのが分かったのか、王子も笑うのを止める。

数秒の沈黙が、部屋の中に落ちてきた。

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