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ロッカの輝石  作者: ゆ
一章
5/25

運命


『ロッカ!!!』



見張り台に繋がっている壁が崩壊し、その土埃の中から現れた太刀筋を、短剣でいなす。


キンッと音を立て、火花が散った。



(人を刺すことに特化した剣だな。高価だろう)



なんて、場違いなことを考えながら、止まらない連撃に応酬する。


あちらは両刃の細剣。こちらは二本の短剣だ。

数で言えば、こちらの方が多く入れているはず。


だが、まるで相手には効いていない。

ロッカの体格は細身だが、別に華奢でも小柄でもない。しかし、相手は頭一つ分ほど背が高く、手足も長い。隊服の上からでも分かるほどしなやかな筋肉がついており、腕力も上のようだ。



(もともとこっちは真っ向勝負が得意なタイプでもないんだよ!)



まっすぐ喉元に貫かれた一撃を、体勢を低くし下から短剣でいなす。



(これだけリーチが違えば、懐に入り込む隙がない…どうすべきか)


「随分と余裕があるな」

「!」



休む間もなく叩き込まれた剣を弾き、お互いに距離を取る。

低い、首筋を這うような声が、静かに響いた。



「…これが、余裕に見えるなんて。その目は節穴なのかな」

「節穴はそちらも同じようだが?」



目だけをくりぬいた面を、揶揄するように喉で笑った。


白と金を基調とした王国騎士団の隊服。襟章を見れば、金の六芒星が三つ。

騎士団に詳しくない者にでも分かる。三つの星を持つことが許されるのは、一部隊の兵などではない。

ただ、非常に若く見えるのが気にかかる。若くして隊長を勤め上げるほどの実力者であれば、ロッカも少なからず知っているはずだった。悪いことをする時は、事前調べを入念にするタイプである。


(もしかして、騎士団に属している大貴族の三男坊とか?)


そこはとかない品のある様子に、貴族ではないかと疑いをもつ。そうであるならば、目深に被ったフードや目元を隠す仮面も、無暗に顔を晒して危険に巻き込まれないようにする工夫とも取れる。それに大貴族であれば、若くして人の上に立たされることも理解できた。ただその場合、大抵は実力不足で取るに足らない人物だ。数回剣を交えただけだが、そうではないことは確信をもって言える。

それに、仮に大貴族なら、そのように高貴な人がなぜ騎士団の隊服を着てこんなところに一人でいるのか。疑問は尽きないが、勢いよく撃ち込まれる回し蹴りに思考を止めた。


(ずいぶん荒っぽい戦い方だ。騎士らしく見えるが、手段は択ばない性質か)


確証のない想像なんかより、とにかく最悪の状況に陥る前になんとかここを逃げ切らなければ。捕縛されれば、侵入した理由を吐かされ、見つけた日記は没収。拷問され服でも脱がされてしまえば、さらに状況は悪化する。



「どうやってここに入った。答えようによっては、処罰は免れん」

「へぇ、問答無用で牢獄行きだと思ってたよ。滅びたとは言え天下の公爵邸に忍び込んだんだから」

「望むならそうしてやらんこともないが…興味があるのだ」

「……?」



じりじりと距離を測りながら、言葉を待った。


一瞬のうちに距離を詰められ、至近距離で切っ先が交わる。

受けるのが精一杯だった。見上げれば、仮面越しに目が合った。見えた瞳は、薄い金緑色に見える。

戦いの最中に乱れたのか、フードがずり落ち覗いた髪は、朝日に照らされ白金色に輝いていた。



「私の剣を防ぎ、天下の公爵邸の結界の中に侵入できる、お前の力量に」

「…ハ、戦闘狂ってわけね」



かなり厄介な相手のようだ。

突き刺すように打ち込まれた細剣の力の向きを少しだけ変えてやると、ガキンッと激しい音を立てて相手の剣先が逸れる。その勢いでお互いの位置が入れ替わった。


今私は、男が侵入してきた側の瓦礫に背を向けている。じんわりと温かい朝日を背中に感じた。



「なんて馬鹿力だ」

「そちらこそ、身体強化も使わずそのスピードが出せるとは、風の精霊の加護でも受けているのか?」

「冗談。加護なんて普通の人が持っているわけないでしょ」

「くく、この私と同等にやりあえる女が普通だと?」

「!」



女、と言い当てられ僅かに動揺する。

背も低い方ではないし、認識阻害効果のある面を使っているため、脳が誤認するはずだった。



「なぜ女だとわかったって顔だな?」

「透視でもできるって言うわけ?」

「まぁ、似たようなものだな。何人であろうとこの私に偽りごとは出来んよ」

「?」

「視える者に対してだけ、魔力というのは雄弁にものを語る。…不思議だ。世の中には私も知らないものがたくさんあるのだな」



まるで、魔力と意思疎通を図ることができるかのような、そんな口振りだった。



「魔力を持たない人間とは」



その言葉に、ロッカは驚愕する。今まで誰一人として、自分のこの特性に気づいた者などない。魔法が使えないとしても、誰しもが必ず魔力を持って生まれてくる。そういう世の中なのだから、それがバレたことなどないのに。

そこで、ロッカは過去に聞いた話を思い出した。

女神の加護をもつという、この王国が世界一の魔法王国たる所以。単なる神話の中の伝説だと思っていた。


フードから覗くのは、白金色の髪

おそらくだが瞳の色は、明るい金緑色

魔力を視て、声を聴く人


それは、紛れもなく、この国で最も尊い立場の証。


これ以上やりあうのは危険だと警鐘が鳴る。

そのわずかな焦りを感じ取ったのか、かすかに男が微笑った気配がした。


しまった。


そう思った時にはもう遅い。


急所を狙った一撃が放たれた。


間一髪


切っ先が耳を掠めていく

寸でのところで、反射的に顔を傾けていた。

男に本気で殺す気があれば、避けきれなかっただろう。

かすかな痛みを感じると同時に、咄嗟に掠めたところを隠していた。



(見られたか…?!)



間合いを取りながら相手を窺い見るが、動揺しているようには見えない。

その瞬間だった。



「!」



ガラガラと音を立てて、足元が崩れ始める。逃げようにも、手ごろな足場が近くにない。



「悪いな、女神は大抵私の味方をしてくれるんだ」



閃光が目の前に迫っていた。


男は仮面の下で不適に笑んでいた。



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