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ロッカの輝石  作者: ゆ
一章
3/25

とある少女との出会い

脳に直接呼びかけてくるような、遠くもない、近くもないところから声をかけられる感覚。

周囲には一切気配や魔力を感じない。

暗く静まり返った地下室には、極限まで押し殺した自分の息づかいしか感じられなかった。


声のした方から距離を取りながら振り向くと、そこには人の形をした白い靄が浮いていた。この特徴は、ある魔物と一致する。しかし、それにしてはおかしなところがある。



(人語を話せるゴーストなんて、聞いたことがない)



その場から離れる様子のない白い靄を、じっと観察する。

白い靄は、何故か戸惑うようにもぞもぞと体を揺らした後、恐る恐ると声をかけてきた。



『あなた、私が見えるの?』



その質問に、仮面の下で眉を顰める。



「どういう…」

『すごいわ!』

「!!」



ぐっと身を乗り出すように体を近づけてくる靄を警戒し、僅かに仰け反った。



『あ、驚かないでほしいの。私、悪さをするような魔物じゃないわ。というか、そもそも魔物じゃないの』

「……」

『待って待って、魔法で何とかしようとしないで。ていうか魔法じゃ…』



パチンと音がして、浄化の魔法が発動した。間違いなく発動したはずなのだが。



『…私、魔法が効かないのよ。実体もないしね』



本来、魔物というのは体のどこかにコアがあり、そこが生命を維持する装置のような役割を持っている。人間でいう、いわゆる心臓だ。ゴーストも実体のない魔物ではあるが、中心にコアがあるためそれを破壊すれば倒すことが出来る。…はずだが、一切反応がない。コアがない、ということは、魔物ではない可能性が高い。



「イレギュラーな魔物…?」

『違うわ! 私、元々人間よ。ほら、どこかの国では幽霊とかいうあれね。時々絵本とかにも出てくるでしょう。まさか自分がそうなるとは思っていなかったけど』

「幽霊、ね。私、霊感は強い方ではないのだけど」

『どうして目に見えたのかは分からないけれど…私たち、相性がいいのかもしれないわ』



幽霊と相性がいいなどという話は聞いたこともないが、それ以外に今は説明もつかないので思考することを止める。



「あなたはいつからここに?」

『さぁ、ずっと昔からの気がするけれど…ずいぶん長い間ここから出られないから、よく分からないのよ』

「生前は何をしていたの? この屋敷に所縁のある人?」

『それも分からないわ。自分の姿も良く思い出せなくって。ただ、ここがすごく嫌な場所だっていうことは思い出せるの』



もしかして、この塔で亡くなった人の幽霊なのだろうか。死ぬ時のショックで、思い出せないのかもしれない。

何にせよ、コアがどこにあるのか分からない以上、目の前の物体を倒すことはできない。何も情報が得られないのであれば、この場から避難するのが一番である。この幽霊がいつまでも落ち着いているとは限らないし、油断させて襲われる可能性もある。



「そう。それじゃ、私はこれ以上ここに用はないから、失礼するよ」

『え、待って! もう少しお話ししましょうよ!』

「急いでいるんだよね。あと数時間で朝が来てしまうんだから」



背後を警戒しながらも幽霊に背を向け、塔の上部へ向かうため階段に足をかける。

すると、目の前に白い靄が移動してきた。



「どいて」

『ねぇ、お願いよ。私ずっと一人ぼっちで、久しぶりに人と話せたの。ここから出ることも出来ないし、時々来る人も私のこと見えないし…』

「気の毒に。でも、私も暇じゃないんだ」



ぐだぐたとまとわりつきながら、共に階段を上がってくる幽霊に、喉の奥でため息を押し殺す。

塔の中腹ほどまで来たところで、ぐっと腕を引かれた。



「もう、いい加減にしてよ」



そう言って手を振り払うと、幽霊は硬直した。

言い過ぎたのかと少し罪悪感を覚えたが、心を鬼にして無視することにした。


不思議と、幽霊は大人しい。

疑問に思って振り返ると、幽霊は自分の指先をじっと見つめながら立ち尽くしていた。



「…何?」

『……私、あなたに触れたわよね?』

「そうだね。それがどうしたの」

『………ここって、何階?」

「? …大体塔の中腹くらいかな」



怪訝に思いながらも、動かない幽霊にしびれを切らし、再度階段に足を掛ける。

その瞬間だった。



『すごいわ!!!』



ドンっと背中に衝撃が走り、腕のようなものに後ろから抱きすくめられていることを感じる。



「なんなの!?」

『わ、わたくし、人に触れたのって初めてよ!!』

「え?」

『それに、いつもは地上に出ることは出来なかったの。ちょうど地面より上に上がろうとしたところで、よく分からない強い力に弾かれてしまっていたのよね』



存外に強い力で抱きしめられ、咳き込む。すると、ごめんなさい、と言って幽霊が離れて行った感覚があった。

息を整え振り向くと、そこには誰もいない。



「…?」

『ばあっ』

『!?』



突然壁から人の顔らしき靄が飛び出し、驚いて腰の短剣に手を掛ける。

だが、よく見ればそれは先ほどから付きまとっている白い幽霊だった。



『あなた、すごいわ。何者なの? この塔の壁をすり抜けることが出来るなんて! 久しぶりに外の空気を吸ったわ』

「し、知らないよ…」



興奮する幽霊に少しだけ引き気味で返事をする。



『ねぇねぇ、これからあなたについて行ってもいい?』

「嫌」

『そんなこと言わずに! あなた、きっと訳ありなんでしょう? こんな雰囲気の悪い塔にわざわざ入ってくるなんて、正気の人間とは思えないわ。私、見ての通り壁をすり抜けたりもできるし、きっと役に立つわよ!』



その言葉に、少しだけ考え込んだ。悪くない提案ではある。しかし、本当にこの幽霊は誰からも認識されないのだろうか。それが気にかかる。壁をすり抜ける能力に関してもそうだし、もし今後この塔のことについて思い出すことがあれば、情報源としてとても有用だというのは間違いないが…。



(…どうせ、こんな体だ。それに、幽霊が見える人の方が少ないのは間違いない。この能力を見逃すよりはいいかもしれない)



「…好きにして」

『嬉しいわ! これからよろしくね。ねぇあなたのこと何て呼んだらいい?』

「私は、ロッカ。これからよろしく」



すっと右手を差し出すと、白い指先がその手を握った。実際の人のような感覚ではないが、じんわりと温かい。



『ロッカね! 私はリリィよ』

「自分の名前は覚えているの?」

『えぇ、名前だけはね。記憶の中でそう呼ぶ人がいるのよ』

「そう…ほかに何か覚えていることはある?」

『そうねぇ、断片的になら思い出せることもあるけれど…』

「小さなことでも構わない。後で聞きたいことをまとめるから、とりあえず上に移動しよう」



時計を確認すると、今は朝の4時を少し過ぎた頃。

人によっては目覚めて活動し始める人もいる。


ロッカはリリィの返事も聞かず、歩を進めた。



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