嫌な予感は当たるもの
先週はプライベートが忙しく、更新できなくて申し訳ありません。
爆風は落ち着いたようだが、未だ時計塔の壁面はガラガラと音を立てて崩れている。
(一度遠目に確認したほうがよさそうだな)
大聖堂の壁を伝い、最も高い位置まで登ると、時計塔の屋根の上まで目が届いた。しかし、若干時計塔の方が高さがあるため、角度的に死角がある。
大聖堂側から見た時計塔は、爆破されているということ以外違和感はなく、人影もない。
『ここからじゃけっこう距離があるわね』
「うん。外壁も崩れそうだし、爆破があった場所に飛び移るのは難しそうだな…」
『時計塔の中って何か大切なものがあるの?』
「魔法に関する蔵書量が世界一らしいから、珍しい魔法の本なんかは置いてあるかもしれないね。地下深くなるにつれて珍しい本が置いてあるらしいけど、ただ、地下に行くにつれて強い結界が張ってあって、限られた人しか降りることが出来ないんだって」
『犯人は本を盗みたかったのかしら』
リリィのその一言に、ロッカはふと思った。
自分があの中にある本を盗みたいと思ったとき、あれほど派手に爆破させるだろうか、と。
「爆破の瞬間、人影はなかった。なら、目的は…」
『あ、見て。結界を張るのかしら』
何人かの教師が時計塔を囲み、呪文を唱え始めた。途端に、時計塔が淡く光り外壁の崩壊が止まる。それを確認し、数人の教師が中へ入って行った。
「あっちは先生たちに任せよう。たぶんだけど、犯人の目的はこっちじゃない」
今日は入学式で、学園生も教師もほとんどがこの大聖堂近くに集まっている。特に秘匿されている情報でもないから、犯人も容易にその情報を知ることが出来ただろう。それならば、王国有数の魔法使いであるこの学園の教師たちの近くで、わざわざ爆破事件を起こすわけがない。
わざとであったなら、おそらく愉快犯か、あるいは承認欲求の塊だろう。それならばまだいい。護衛対象であるアレクシウスに危害は及ばない可能性が高いだろうから。
それならばロッカは、アレクシウスにとって最も被害が出そうな心配事だけを潰せばいい。
学園に大きな被害が出れば、在籍する王子たちにも被害が出る。ここはアルテミス王国、つまり王族直轄の教育施設だ。何かあった場合、王子たちも責任を取らなければならなくなる。
アレクシウスのためにも、迅速に物事を解決する必要がある。
ロッカは、時計塔とは逆方向に走り出していた。それをリリィが追いかける。
『どこ行くの、ロッカ』
「時計塔が目的なら、教師の対応で事足りる。それ以外で犯人の目的になり得そうな場所を潰していった方が良い」
『確かに…先生たちも優秀だものね』
「この学園で、大聖堂や図書館以上に大切なものが保管されている場所といえば…」
『王宮じゃあるまいし、宝物庫なんてないわよね』
「宝物庫はないけれど、魔法具を保管した倉庫ならある。あとは、特殊な植物を栽培している植物園に、魔法薬の研究棟には貴重な薬なんかもあるね」
『貴重なもの多すぎじゃない! 全部に対応しきれないわ』
「全部に対応する必要はないよ。ほとんどの場所はちゃんと警備兵やガーディアンゴーレムがいる。だけど、唯一今日手薄になる場所がある。私たちはそこに行けばいい」
『それってどこなの?』
今日教わったばかりのさまざまな施設を思い出す。ここは教育施設だが、魔法研究のための研究機関としても名高い場所だ。多くの施設には学生以外にもたくさんの研究者や管理者など、人の出入りがある。そしてそういった人たちは、全員が全員学園の行事に参加するわけではないようだった。
それならば、研究施設には必ず人が残っているだろうし、警備も厳重なはず。
いま、この広い学園内で最も人の手が少ないのは、おそらく…
「寮、じゃないかな」
緑冠、白外套、そして金鈴。
学生たちの生活の場であり、それができるだけの設備も整っている、巨大な三つの塔。
簡単な調べ学習も出来るように、特に緑冠寮の地下には大きな図書館がついていたり、珍しい魔法が施された魔法具も存在している。
『たしかに、寮監もみんな大聖堂にいたものね』
「心配のし過ぎならそれでいいんだけど…残念ながら、そうでもないみたいだね」
何かが寮で起こっている。
まだ少し離れているが、三つの塔の全貌が見える位置に来てすぐ、ロッカはそう判断した。
塔の前に、数人の黒い人影が見えたからだった。




