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ロッカの輝石  作者: ゆ
一章
2/25

変わった落とし物

バタン


静かな空気に似つかわしくない大きな音が、周囲に響く。

その音に合わせ、黒い影が門の塀を超え、守衛室近くの物陰に隠れた。


黒いローブに、黒い面。

面は目の部分だけがくり貫かれ、怜悧な薄紫の瞳が守衛室の様子を伺っていた。


黒い影は、慎重に公爵邸の門へと近づいていく。


守衛室のガラス窓から覗けば門周辺の様子は丸わかりだが、濃い霧の中で黒装束は見えにくい。

警備に集中していなければなおさらだ。


守衛室の中では、冷たい夜の空気から逃れようと、温かい飲み物に口を付ける男が二人。

こちらを見ている様子はない。


不用心だと呆れる気持ちもあったが、こちらとしてはそれがありがたい。

音を立てぬよう、できるだけ影の濃い場所を選びながら屋敷に向かって移動する。

守衛室からは死角になっている壁を選び、鉤をかけて難なくそれを上っていく。

守衛室の周りにだけかかった濃い霧を抜けると、薄雲に隠れた淡い満月が周囲を照らしていた。

月明かりに浮かび上がる屋敷は、数々の不気味な噂を裏付けるような雰囲気を醸している。

公爵邸は古い。嘘か真実か、この屋敷の中に入ると、不自然な事故をしたり原因不明の病に倒れたりすると言う。

そのためなのか、劣化して腐り落ちた場所もそのままになっているところが多かった。



カチン



小さく音を立て、上階の窓が外れる。

ローブに隠れているが、人のそれよりも華奢な体を、するりと小さな小窓に滑り込ませた。


鼻奥につんとしたカビの臭いが充満する。

むせかえるような古い空気に眉を寄せながらも、首巻を鼻先まで上げ、目的の場所まで歩を進める。

何日もかけて外観から公爵邸の内部を推測し、ある程度の目星をつけていた。そのため、その歩みに迷いはない。

いくつかの扉を開き、痕跡を残さぬよう部屋を物色する。

公爵の書斎、公爵夫人の寝室、応接室…

呪いによって滅びた一族の城らしく、経年劣化によるものではない綻びや、不自然な染みも多かった。


ある程度居室を物色し終えて、本命の場所を見やる。

さきほど怠惰な門番たちが話していた、件の儀式が行われた西の塔。

そこに渡るには、一度外に出る必要があった。

塔の前まで来て、古くなって錆びた扉を開ける。あまりにも古くなっていたため、自然と壊れてもおかしくはない状態だった。



「…?」



鍵を開け、扉に手をかけたとき。かすかに物音が聞こえる。

ほんの小さな音だったが、たしかに西の塔の中から聞こえた。

甲虫が壁にでも当たったかのような、本当に僅かな音だった。

不審に思いながらも、警戒を緩めることなく塔内に進入する。

近くに窓がないことを確認し、ランタンに灯を点けた。


儀式が行われたと言うのは、塔内部の地下。

嫡子である弟を妬み、公爵家を呪った妾腹の子による犯行だったと言う。


ゆっくりと階下へと進む。

地下三階まで来れば、螺旋状に続いていた階段が途切れる。

ここが最下層らしい。

文献の内容とも相違ないので間違いないだろうが、何よりも未だ強く残る鉄錆の匂いが証拠だった。

ここが、儀式の現場であったのだろう。



「っ」



強く、ねっとりとした重い空気を感じ、自然と足が立ち止まる。

せりあがって来るものを抑えつつ、灯で周囲を照らす。

元は地下牢だったようで、石造りの壁で仕切られた鉄格子の檻が浮かび上がった。

壁は、暗く赤黒い染みが壁全体に広がっていて、ところどころに波打つようになっている。足元に敷き詰められた黒い砂利も、おそらくこれは後からついた色なのだろう。

胸が悪くなるような思いで、息を浅くし牢内を探った。



数十分ほど、広い地下牢を探索したが、目ぼしいものは見つからない。

さすがに、そういった類のものは処分されているのだろうか。


西の塔は、いわくつきの公爵邸で最も危険だと言われている。

実際に呪いの儀式が行われた場所でもあり、塔内に入っただけで具合の悪くなる人間もいて、特に神聖力の強い神官などは近くにも寄れないらしい。


一通り探ってみたが、不自然なものは無いように見える。

ため息をつきたくなる気持ちを押し殺して、踵を返そうとした時。



「…?」



ふと、暗い床の中に白っぽいものが見えた。

手に取ってみると、何かの骨のようだ。

儀式に使われたという使用人たちの遺体は、どれだけ探しても骨一つ見つからなかったと伝えられている。


魔力を探ってみるも、特に何も感じない。

魔石などでもないようだ。

単に砂利の中に混じっていただけかもしれないが、一面真っ黒になった床に一つ、これだけが白いままなのは不自然に思えた。ただ単にそう理由づけをしたいだけかもしれないが、とにかく気になった。そっと骨を懐にしまい、今度こそ踵を返そうとした時。



『なぁに、それ』



気配も何も感じなかったというのに、その声はすぐ近くで囁かれた。

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