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ロッカの輝石  作者: ゆ
一章
1/25

呪いの公爵邸

今にも雨が降り出しそうな夜空だった。

不気味に佇むシャンタン城の夜番をする男は、どんよりと湿った空気に煙を吐く。

何度咎められても、暇なこの仕事の供には、煙草が一番だとつくづく思う。



「相変わらず薄気味悪ぃな…」



ぼそり、人気のない城をちらりと見やる


魔法こそ至上というこのローザ大陸にあって、至高と名高いアルテミス王家。

その名声は大陸の外を出て、世界中にも影響を及ぼすほど。

アルテミス王家がなぜそれほど力を持っているかと言うと、それは王家に与えられた女神の加護によるものと言われている。


女神の加護により、王家の人間は特別な力と容姿をもっている。王国の名を冠した王の一族は、この国において絶対的な存在だった。神格化された王家の血筋は、建国後二千年が経つ今でも、一度も途絶えることなく王国を支配し続けている。


その長い歴史の中で王家の血から派生し、かつては王をも生んで繁栄したのがこのシャンタン公爵家。だが今では、主をなくし輝きを失っていた。


だと言うのに…。いや、だからこそ、建造物や庭園に高い歴史的価値があるらしく、森に覆われた裏門ですら二十四時間体制での警備がなされている。


門を守る男には、その価値が分からなかった。

あまりにも古く、数奇な運命を辿った一族の屋敷というだけで、自分の一生分の給料よりも値打ちが付くただの建築物にも、それを決めた過去のお偉方の考えも。そもそも、結界まで張っているいわくつきの屋敷に忍び込もうという愚か者など、生まれてこのかた数十年、見たことも聞いたこともない。

本心ではそう思っているからか、夜番の男は禁煙である邸内で煙草を吸うし、組んでいるもう一人の夜番はうとうとと緊張感無く寝ぼけている。

時には、酒が入った状態で警備をすることすらあった。



(ま、いいさ。こんなんで破格の給料がもらえるんなら安いもんだ…)



ほいっと軽薄な掛け声をつけ、見辺りの悪いところに煙草を捨てる。そのまま二本目の煙草に火をつけた。

呪いにより没落した公爵家だが、そのためかいわくが多く、ほとんどの場所は日中でも人が入ってくることすら許されない。つまり、ばれないところを少しばかり汚しても、問題ないということだ。

それに、厳密にいえばここは門の外なので、公爵邸内ではなく、公爵邸前だ。


そんな屁理屈を脳内で言い訳しながら、鼻歌交じりに煙草を吹かせふと見ると、森の中に黒い影が見えた気がした。



「……?」



夜行性の鳥だろうか。それにしては、羽音が聞こえない。

働き始めて二年になるが、初めての緊張感に煙草を持つ手が止まった。

燃えカスが、足元でうずくまりながら寝ている相棒のうなじに落ちる。



「っあっつ!!!」


「うるせえ!」



跳び起きた相棒の頭に拳骨を落とす。

甲冑を着ているのでダメージは双方にあった。

涙目になりながらも先に正気を取り戻したのは煙草の男だった。



「おい、森の奥になんかの影が見えた気がするんだ」

「影だぁ?」



いてて、と頭を押さえながら男の指さす方を見る。

公爵家に隣接した森は、雲が厚いとより一層おどろおどろしく見える。

いつの間に霧が立ち始めたのか、ぼける視界をこらしながらじっと見るが、何も問題は無いようだった。



「動物じゃねぇのか?」

「動物がむやみに火に近づくかよ」

「そう言ったって、この屋敷には結界が張ってあるんだろ? 人間はまず近づかねえよ…それに、無理に入ろうとすれば結界が反応するさ」



目に見えないものは信じない性質のようで、男は伸びをしながらあっけらかんと言った。だが、煙草の男は存外気が小さいようで、相棒の言葉はあまり耳に入っていないようだった。



「…あの噂が本当なのかも」

「噂?」

「大昔、この屋敷で起こった事件のことは知ってんだろ?」



煙草の男は、森を見つめたまま神妙な声で話し始める。

この国の人間なら一度は聞いたことのある、あまりにも有名な公爵邸での事件。

望まれなかった公爵家の不義の子が、嫡子を呪って起こった出来事だった。



「なんでも、呪いってのは、魂を穢す魔法なんだと」

「あぁ、そういや子供の頃そんなこと習ったな」

「呪いは、唯一世の理から外れた魔法…。あまりにも理不尽に、魂すらも穢す。穢れは更なる不浄を呼び、恨みや怨念の吹き溜まりとなる」

「どうしたよ急に、変な奴だな」



かつて、絶対にやってはいけない禁術について学習した時、信心深い魔法史の教師が言っていた言葉。

今の今まで思い出したことなどないが、なぜ急に頭に浮かんできたのか。



「…魂ってのは、穢れてしまうと、天に昇れないんだ」

「……?」

「つまり、女神様の元には行けず、永遠にこの現世に留まることになる」



ザアッと、一陣の風が吹き抜ける。



つ、と男の喉を汗が伝った。



「…や、やめろよな。こんなとこでそんな冗談…」

「冗談なんかじゃない、実際、過去に屋敷に忍び込んだ奴らは誰一人屋敷から出て来られなかったって話だ」

「どういうことだよ…?」

「…代わりにされてるんだと」



ゴクリ

どちらかが、あるいは両方が、生唾を飲み込んだ



「自分が天に昇って生まれ変わるには、自分の代わりに穢れを引き継ぐ奴が必要なんだ」



二人は青ざめた顔で目を合わせた。

そして、ゆっくりと森を振り返ろうとした…その時。



ガサガサッ



「「ぎゃあああ!!!!」」



突然の物音に、二人は手を握り合ってすくみ上る。

物音の方を見れば、森から黒い鳥のようなものが飛び立ったところだった。



「…なんだ、鳥か」

「まったく、脅かすんじゃねぇ! 屋敷の外だから安全とは言え…」

「いや待て、そういえば」



言いかけて、頬に落ちた滴にはっとする。



「…? どうした?」

「いや。なんでもない。それより、雨が降ってきたな」



霧も濃くなり、ついには雨も降ってきた。

男は、以前に夜番を務めていた先輩から聞いた話を思い出していた。


『儀式が行われたのは、霧の深い真夜中のことだったらしい』


その先輩は、洞窟を抜けるような風の音を聞いたことがあると言っていた。その音は、死者の叫びと形容してもよいほどの不気味さだったという。

そして、音を聞いたと興奮気味に話してくれた翌日、原因不明の病に倒れたのである。

つい先月のことだが、先輩は未だ回復していない。



(……いや、きっと、まったく関係のない話だ)



妙に冷える背筋に気づかないふりをして、かぶりを振った。



「もしかしたら野犬が出るかもしれん。とりあえず守衛室へ入ろう」



ランタンを取り、守衛室の鍵を開ける。

一つの考えを誤魔化すように、わざと音を立てて扉を開けた。


霧に隠れた黒い影が、じっとこちらを見ているとも気づかずに。

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