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下:貴女と紡ぐ物語を。

それから時は経ち、あっという間に卒業式。貴族の学生が多いから、卒業パーティーも凄く豪華。パーティーには学生なら誰でも参加できる、だから平民であるクララも当然出られる。


卒業パーティーは、ゲームでも重要な場面。進んだキャラごとのエンディングも、ここでは告白or婚約宣言されるから。でも私は攻略対象と全く関わってないから、そんなシーンは迎えないけれどね。


といっても平民ごときが、着飾るドレスなんて持たない訳で。卒業式で着た少し綺麗めの服そのままで、パーティーに出ることになる。原作でも多くの卒業生が、ドレスを着ずに1人歩く主人公に目をやる描写があったから。何も無くとも、とんでもなく目立っちゃう。



でも私は、それを回避できる。今のレントといるから。



私はレントが用意してくれたドレスを纏い、彼と一緒に会場の端で静かに過ごしていた。着付けも彼の家での使用人が手伝ってくれたから、今日1日は特に、彼に迷惑をかけちゃ行けない感じだね。後で何か奢ってあげよう。


いつも流してばかりだった髪を、今日はまとめて結んでいる。いつものモノトーン制服から一新して、淡い桃色のレースのドレス。こんなに可愛い髪型に色、前世ではなるべく距離を取っていた。だって、似合わないと思ってたから。


「その・・・変じゃない?こんなに明るい色のドレスで、髪型も変えて」


「全っ然。むしろクララ、結んだ髪やパステルカラーが似合うぜ」


髪を結ぶのも、パステルカラーも、全く触れたことがないなぁ。でも・・・レントがそう言ってくれるなら、日常的にも取り入れてみようかな。なんて思っていると、向こうから誰かがやって来る。見慣れない女子で、同じ卒業生っぽい。綺麗だなぁ、なんて他人事のように思ってしまう。


「レント・イベルク様ですね」


その声を聞いて、すぐに気付いた。彼女・・・あの時に嫌がらせした、犯人の1人だ。独特なその声は、あの時かけられた声と一緒だから。貴族の振るまいとかよく分からないので、一礼するレントの影に隠れることに徹する。


「私の実家も、長い歴史を持つ商会でして。是非とも今勢いのあるイベルク商会と繋がるために、レント様との婚約を考えているんです。どうでしょう?」


彼女は礼儀正しく挨拶する一方で、やけにレントに近付いている。気付いたら彼の腕に、そっと両手でしがみつく。あっ、コレ結婚披露宴とかで夫婦がよくやる体制だ!テレビのエンタメで見たことある!・・・なんて、呑気に考えてる余裕もなかった。


原作では死ぬほど見たシーンじゃん、レントに女子学生が近付く様子なんて。私、また忘れていたみたいだ。前はやれやれと呆れて流していたのに、今となってはビクッとショックを受けてしまう。


ま、まぁ、そうだよね。貴族とか権力者はこういう場面で、家や国家の安泰のための婚約者探しするもんね。大規模な商会を運営するイベルク家のために、きっとレントもそういう相手を探しているはず。そしてこの話も、互いに有益なはず。


これから先、お互いの道は違うから。平民の私は邪魔しないように、彼と距離を取ろう。


ありがとう。貴方のお陰で今日まで平穏に、そして楽しく学生生活を送ることが出来たよ。


空気のようにそっと消えようとして・・・ふと、レントにガシッと腕を掴まれる。そのままグイッと引き寄せられれば、「えっ、何?」と思わず声を出してしまった。



「悪いな。俺には既に、彼女をエスコートしている。そういった目的で近付く女性とは、仲睦まじくする訳にはいかない」



レントはバシッと、彼女の手を弾いた。えっ!?とその女子学生は、あんぐりとした顔で私たちを見るばかり。いや、こっちも驚きなんですが!?


「で、ですが・・・彼女、平民ではありませんか!!レント様に近付いては媚びを売るような、卑しく図々しい女ですよ!?」


彼女は慌てたらしく、何故か私への攻撃が始まった。貴族同士の婚約における、家の繋がりやらは何処へ行ったんだろう。


「それは違う、俺が好んで彼女に近付いているだけだ」


「そんな女のどこに、レント様が惹かれるような部分があるのですか!?」


「彼女への侮辱は、俺への侮辱と見なすぞ」


吐き捨てた言葉に、彼女はヒィ!と怯える。守ってくれることが、本当に嬉しかった。でも、このままじゃ本当に騒ぎになるから。レントだけが悪目立ちしちゃうから。ブルブルと頭を振り、これ以上はやめてと訴える。だけど彼は喋るのをやめなかった。


「そもそも俺は、イベルク商会を継ぐ気は無い。家の安泰を目的にするなら、もっと上の権力者に近付けよ。


あぁ確かお前、別の女子学生の婚約者を奪ったが、さらに浮気を重ねた故に婚約破棄されたんだったな。その腹いせに弱い者イジメ、さらにはヤケクソでさらに男に近付くのは・・・本当、最悪だな」


次々に突き出された言葉に、彼女は愕然として、何も言えないみたい。この口の悪さと畳みかけるような物言いは・・・少しだけ、原作のレントを思い出した。でもこの時だけは、とても頼りになる。悪い顔でこんなに安心するなんて、自分でも驚いた。


その後すぐに、私の手を引いてパーティー会場を抜け出していくレント。取り残された彼女には「また別の男を狙って、フラれたのか」「卒業パーティーまでそんなことをするとは、身の程知らずめ」と、その男癖の悪さを冷やかす声が囁かれていた。



「やっぱ影からじゃダメだな。ちゃんと俺のモノだってことにさせないと、2人で幸せになれねぇ!


クララ、堂々と俺と一緒にいてくれ!お前の作品も、お前の優しさも、全部大好きだからさ!!」



逃げつつも零れ出た彼の告白に、彼の手を握りしめて返事をした・・・。





5年後、国には小さな出版社が出来ていた。まだまだ規模は小さいけれど、最近出した本の売れ行きは好調みたい。そんなことを聞くと、作者の私は嬉しくなる。


学生から書いてた経験を買われた私は、レントが立ち上げた出版社にて、小説家として生計を立てている。まだまだヒヨッコだけど、ファンタジーが好きな読者さんから一定の人気を得られている。


「幼い頃から、大好きな本を作るのが夢でさ。あの頃は周囲の意見で、イベルク商会を継ぐために生きていたんだ。でもあの時、クララが楽しそうに作品を作ってるの見たら・・・やっぱり、諦めきれなくて。そういう奴らの作品を、もっと見てもらいたくてさ!」


「やっぱり、編集長のレントが敏腕だね。私も安心して、創作活動に取り組めるから。ありがとう」


「ななっ、何を言ってんだ!作家が作品を作るのをちゃんとサポートするのが、俺の仕事なんだからな!」


私の作品だけ欲しいの?と、意地悪に質問してみる。


「ななななっ、んな訳無いだろ!?お前の作品も、お前が楽しそうに作品作ってるのも、俺が幸せになるんだからなっ!!だからこれからも、ずっと一緒にいてやるよ!お前が嫌がっても、絶対に離さないからなっ!!」


顔を真っ赤にして叫ぶ彼に、クスリと笑ってしまう。彼の素直さが愛おしい。パートナーとして一緒にいられて、こっちが幸せ者なんだから。


私は、これからも彼と共にいる。彼と、幸せな物語を作り続けるために。


fin.

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。


次回作は相変わらず未定です。日程調整ミスってた・・・!

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