上:思ったより、気が合うようです。
趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。
乙女ゲームというか、恋愛ゲームすらやったことない人間が通りますよっと。
色々と終わったはずだった。
前世の記憶から色々妄想した創作小説を、このゲームの嫌がらせキャラに見られた。
彼の性格から、絶対に馬鹿にしてくる。そう思っていたはずなのに。
「これ、スッゴく面白いな!」
そう言って笑う彼に、私は前世と合わせて最初の恋をした。
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物心ついた頃から、人付き合いが苦手。鈍くさくって弱気で、学生時代は一部から目をつけられて、嫌な目に遭ってばかり。けれどアニメや漫画、ゲームにネットと二次元を生きがいにして、そんな学生生活を乗り越えた。その後も自分で稼ぐようになってから、自分の好きにドンドン特化していって。死ぬ直前までも、創作大好きなオタクだったと思う。
でも心のどこかでは、もっと誰かと楽しく過ごす学生生活に憧れた。映画やドラマみたいなキラキラはいらないけど、気の合う友達は欲しかったのかもしれない。
そんな思いが、学園が舞台の乙女ゲームに私を導いたのかは、分からないけれど。
【ラピスラズリの煌めき】。平民でありながら貴族も通う学園に入学した女子学生が、メインヒーローである王子やら美男子を攻略していく、王道の乙女ゲーム。キャラクターのファンアートからゲームを知った私は、一応このゲームを全ルート攻略している。そのためか私は学園入学時に、ゲームの主人公クララ・コフィンに転生していると気付いた。
でも正直、喜びよりも驚きと焦りしか感じなかった。何せクララにはゲーム中、普通の学生とは思えない事件に巻き込まれまくるから。王子ルートだと誘拐されるわ、公爵ルートだと凶悪事件の容疑者にされるわ、問題児ルートだと闘争に巻き込まれるわ。
そして全ルートに共通するのは、彼女は他の学生から嫌がらせに遭うこと。最初に地位の高い王子と色々関わって仲良くなってしまい、一部の女子学生から「平民のくせに」と色々目に付けられちゃう。
特に目立つキャラはレント・イベルク、当て馬ポジションにいる男子学生。実業家の親の七光りで、平民で立場が低いのになびかない主人公を、取り巻きと共にとにかく虐めてくるんだよね。
常に上から目線で、暴言は当たり前。宿題の押しつけやら根も葉もない噂を流すやら、現実にいたら本当に嫌。最終的にはルートに入った攻略対象がクララを守ることで、彼女への固執な嫌がらせが明らかになり、取り巻きと共に退学させられる。
そんな「ざまあみろ」なキャラだけど、彼を「極度のツンデレ」みたいに捉えて、クララと結ばせる救いのある二次創作が量産したような・・・。
いやいや、それより!また学生生活で虐められるなんて、絶対に嫌。全ルートがハッピーエンドとはいえ、嫌がらせも事件も経験したくない!
だったら、誰とも関わらず1人で過ごそう。幸いストーリーの流れは知ってるから、フラグは全て回避できるはず。前世とほぼほぼ同じになるけど、嫌な目や事件に巻き込まれるよりマシ。学園ではなるべく、1人で過ごそうと決意した。
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教科書とか小説とか本にのめり込めば、自然と1人でいられた。話しかける人もいなくて助かった。意外とコッチの世界の本も面白い、気付いたら私はすっかり本の虫になっている。やっぱり小説好きなのは、今も変わってないみたい。
勉強に慣れてきて、本を読むだけじゃ物足りなくなったのか、私は創作活動をこっそりするようになった。ネットがないから誰も見てくれないけど、まぁ自己満足ってことでね。前世で好きだったゲームや漫画などを思い出して、今読んでいる本と重ねながら創作をする。これが楽しいこと楽しいこと!
次第に調子に乗って、攻略対象をモチーフにした創作でもしようと、創作用の手帳を学園にまで持ち込んでしまった。で、その手帳を机に置き忘れてしまって。慌てて取りに戻ったら、レントが丁見ていたところだった。
せっかく今までフラグを立てずに過ごしていたのに!よりによって対立する、いじめっ子キャラにバレるなんて!!恥ずかしくて今すぐ手帳を奪いたいところだけど、そんな度胸なんてない。下手したら「不敬」と言われて、学園中からバッシングを受けるかも・・・!
何も言えずに何も出来ないでいると・・・レントはゲームでのいじめっ子キャラらしからぬ、落ち着いた声で話しかけてくれた。
「・・・これ、お前が書いたの?」
「えっ、あ、はい」
前世と同じ辿々しい返事をすると、彼はクスッと微笑む。でもそれは悪いことを思いついたようなモノじゃなくて、ただただ嬉しそうな顔。レントが優しそうに笑う顔は、ゲーム内では見たことがない。
「これ、スッゴく面白いな!読んでてワクワクしたぜ」
「・・・え?」
そんな感想を言われたのは、ネットでもほとんどなかった。本当に?からかって言われてるんじゃないの??不安で追いつかなくて何も言えないでいると、彼は楽しそうに話し出す。
「この顔と性格して恥ずかしいけどさ。ファンタジー小説、大好きなんだ。最近は『宝石冒険』っていう本ばっかり読んでんだよな」
「あ、それ私も読んでます!魔法の描写とか主人公が凄く格好良くて、何度も読み返してるんですよ。そろそろ最新刊が発売されますよね」
好きな作品が出てきて、思わず食い気味に答えてしまった。レントは一瞬驚いていたけど、また優しく笑ってくれる。
「俺も買おうと思ってたんだ。確か今週末だっけ?」
「は・・・はい。授業が終わったら、早速買いに行こうかと」
「なら、俺も一緒に良いか?1人だと入りにくくて」
良いですよ、と流れに乗るように返事をして、ふと「あれ?」となった。でも気付いた時にはもう、約束は成立していて。じゃあ当日に玄関で会おうぜ、とレントは教室から出て行った。
私、嫌がらせキャラとのデートの約束をしちゃった!?立場が上の人からの誘いだから、断れないというのはあるけど。もしレントが原作通りに動き出したら・・・そう思うと、不安しかない。
今回ばかりは仕方ないから、言うとおりにしよう。でも次は、変にフラグを立てないようにしなくちゃ。ゲームキャラクターとのフラグは折りまくって、静かな学生生活を過ごすんだから!!
読んでいただきありがとうございます!
楽しんでいただければ幸いです。
「中」は本日夕方に投稿します。