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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第4章:混沌に蠢く求道者
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96.諫めないと血の海だった件

いつもながら当初のプロットをガン無視で進んでくれるのが頼もしい。


「奴隷なら多少傷を負っても問題ないでしょう」


 そう言って騎士は抜き放った剣をキャロの右肩目掛けて振り下ろした。


パシッ。トン。

「なっ」


 横に伸ばした僕の腕に騎士の剣がぶつかった。まさか僕がキャロを庇おうとするとは思っていなかったのだろう、騎士の顔が驚愕に染まる。

 僕としては騎士の事はどうでもいいんだけど、それよりみんなを止めないとまずいな。


「はいはい、みんな落ち着いて武器を下ろして。

 エンジュも戻っておいで」

「あなたも剣を納めなさい。

 彼が止めていなければその首、既に胴体と切り離されていましたよ」

「は、はい」


 騎士が剣を仕舞うのを見て、ようやく僕も抑えていたキャロのポールアックスから手を離した。また、馬車の上に飛び上がって弓を構えていたエンジュも静かに降りて来た。

 状況を理解するのに1テンポ遅れた相手方はその時になってようやく自分達が襲われそうになった事を理解して緊張したが、代表の魔導士が頭を下げたことで武器を抜くまでには至らなかった。


「うちの者が大変失礼いたしました。

 切られた腕は大丈夫ですか?」

「腕の方は何ともありません。きっと寸止めしてくれたのでしょう。

 しかし。女性をみだらに傷付けるのが魔法の国の騎士の在り方なのですか?」

「それについても大変申し訳なく。

 普段はそんなことはしない者なのですが、連日の魔物との戦いで疲れていたのでしょう」


 苦しい言い訳だけど、別に彼らと喧嘩したい訳じゃないし受け入れるか。幸いキャロにも怪我は無かったし。

 そう思っていたのに再びあの騎士が邪魔な横やりを入れてきた。


「ダルク様。なにもダルク様がたかだか行商人にそこまで下手に出なくても」

「『インパクトショット』!」

「ぐぼあっ」

「お黙りなさい、この馬鹿者が。

 あなた一人のせいで私達全員が死ぬところだったとまだ分からないのですか」


 魔導士の放った魔法により殴り飛ばされる騎士。手加減したのだろうけど今の一瞬であの練度はなかなかだ。さすが魔法の国の魔導士と言ったところか。


「アルファ商会の噂はこの魔法の国にも聞こえています。

 確か北の盾の国を中心に活動してるのですよね」


 まるで何もなかったように話を続けるので乗ることにした。


「はい。最近は魔物による被害が増えてますから、騎士団や魔物ハンターを中心に贔屓にさせてもらってます」

「盾の国は他の国に比べて魔物が少ないと聞きましたが?」

「え、そうですか?

 魔物はどこでも居たように思います」


 僕の元に届いた報告書でも別に盾の国でも魔物の増殖は確認されているし、各地の騎士団や魔物ハンターも忙しく活動している。その分、魔物素材が豊富に手に入るんだけど、若干供給過多で値崩れが心配だって話があるくらいだ。

 そんな状況なので別に盾の国だけ魔物が少ないって事は無いと思う。


「僕は一介の商人ですから、国全体の事まではよく分かりません」

「一介の商人……その戦力でですか。

 アルファ商会というのは彼女らのような存在を多数雇っているのですか?」

「?? どのことを言ってるのかよく分かりませんが、以前に比べてゴブリン王国の傭兵が増えているという話は聞いたことがあります。

 その中にキャロと肩を並べられる武人が居るかは分かりませんが」


 実際の所、居ても1人居たら凄い方だ。進化する前ならともかく進化した今は僕でさえ本気で相手をしないと攻撃を防ぎきれない程だからね。


「さて、随分と話し込んでしまいましたが、特に何もなければ僕たちはこれで。

 急ぐ旅ではありませんが、日が暮れる前に休める場所に辿り着きたいので」

「え、ええ、お気をつけて。引き留めてすみませんでした。

 あ、この先であれば林を抜けて道なりに南西に向かえばドリュッセルの街がありますよ」

「ありがとうございます。

 では皆様に魔天の導きがありますように」

「!!」


 僕たちは彼らに挨拶をして馬車を動かした。と言っても街道を彼らが塞いでたので仕方なく街道を逸れて走らせる。それでも問題なく走れるのは僕が魔法で車輪の下に平らな盾を敷いてるからだ。やろうと思えばその応用で空中を走らせることだって出来たりする。まぁ流石に目立つからやらないけど。



――――――――



 行商人の馬車が去って行くのを見送ったダルクはいつの間にか強く握りしめていた拳に気が付き深い息を吐いた。


「ダルク様。行かせて良かったのですか?」

「何ら犯罪を犯した形跡の無い者たちを無実の罪で拘束する訳にも行きません。

 それに。そんなことをしようものなら彼らは抵抗したでしょう。

 その場合、恐らく私達は誰一人逃げることも出来ずに全滅です」

「そんなまさか。

 宮廷魔術師第3席のダルク様に敵う者など早々居ないでしょう」

「その早々居ない者があの4人です。

 ボックの剣がアルと名乗った少年の腕に触れた時、少年が止めていなければ私が魔法を発動する暇もなく全員殺されていたでしょうね」


 剣を抜いた騎士ボックは大した魔力を籠めてもいなかったので本気では無かったのでしょうが、それでも何の防具も付けてない腕で受け止めるなど正気とは思えない。いや、彼からしたら剣を受け止めるのはおまけで護衛のポールアックスを止める方が本命だったのだろう。

 それよりなにより、あの瞬間に放たれた殺気。他の者たちが気が付いてないところを見ると私のみに放たれたようですが、確実に背後から心臓を一突きされていました。


「誰かに後を追わせますか?」

「無駄でしょう」


 恐らく後をつけてもすぐに気付かれて巻かれるか消されるか。

 あと気になるのは別れ際の挨拶。あれは随分昔に使われていたものだったはず。私でさえ古い歴史書に書かれているのを見たことがある程度だ。それをさも当然のように言うなんて何者なのか。アルという名前は偽名かもしれませんが調べておいた方が良いかもしれません。


「それよりも周辺の探索を行った後、急ぎ皇都に戻ります。

 私達が検知した魔力反応は彼らの内の誰かでしょうから何もないかもしれませんが」


 ともかく盾の国にあんな化け物がうじゃうじゃ居るのだとしたら先日聞いたあの話は必ず止めなければならない。そうでなければ最悪我が国が滅びる。

 程なくして魔物が大量に倒されている現場を確認した私達は皇都に向けて急ぎ帰還するのでした。



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