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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第4章:混沌に蠢く求道者
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94.遠方からの便り

 目が覚めてから1週間が過ぎた。

 その間僕は騎士団の朝練で身体を慣らし、同時に国中に展開しているアルファ商会からの報告書を読むことで現在の情勢を確認していた。中には国境を越えて隣国に行っている者たちからの報告書まである。


「ふむ、どうやらこれが父上たちが僕の使命云々って言ってたことに関係がありそうだな」

「ご主人様、何かありました?」


 僕の呟きを聞いて、お茶の用意をしていたエンジュが声を掛けてきたので丁度今読んでいた報告書を見せてあげた。


「城の中に居ると自分の国の事を正確に把握するのも難しいけど、他国の事はもっと分からないものだね」

「えっと、なになに?

『槍の王国では魔物による被害が増大し幾つかの村や町が壊滅している模様』ですか。

 こっちの報告書は剣の国。弓の国や魔法の国も。どこも魔物の被害が拡大してるんですね」

「うん、そうみたいなんだ」


 どうやら近年の魔物の狂暴化と増殖は、別に我が国に限った話では無かったようだ。他の国や地域でも同様に発生している。魔物以外にもそれに関連した疫病なども起きてるのだとか。

 ただ僕らはそれが自然発生したものではなく、何者かが裏で糸を引いている事も知っている。バックラー領でウェアウルフを指揮しながら自らも鬼人薬を飲んだ男しかり、キメラが居た研究所だって薬は別の所から持ち込んでたようだし奴らの仲間は他にも居るはずだ。

 奴らは歴史の影に隠れながら着々と計画を進めているのだろう。6年、いやもしかしたら10年20年と長い時間を費やしてまで行っている活動の行きつく先は一体どこなのか。残念だけど今ある情報だけだと分からないな。

 そして、結果だけを見れば似たような状況は過去にもあった。200年以上前の邪神龍が生きていた頃がそれだ。もっとも、今はまだあの頃よりましだけど。


「アル様。国王陛下から手紙を預かってきました」

「うん、ご苦労様」


 部屋に戻ってきたサラが僕に1通の手紙を持って来た。

 僕宛ての手紙か。それも父上から回って来たってことは僕個人の知り合いからって事では無さそうだけどさて。

 手紙の裏を見ればそこに押してある印はとある国の刻印だった。


「父上は何か言ってた?」

「はい。『これはどうやらアルファス宛てのようだ。どうするかは任せる』と」

「僕案件、か。癒しの国の王家直々の手紙がねぇ」


 少なくとも僕は今の癒しの国とは何の接点もない。なのに僕宛てというのも謎だな。

 まぁ読んでみれば分かるか。

 手紙の冒頭部分は時世の挨拶だったりがつらつらと続き、どうやらこの手紙は元々は父上宛てだったことが読み取れる。


『さて近年の魔物による被害は世界共通の悩みの種ではないでしょうか。

 癒しの国としましても各地へ治癒魔法使いを派遣するなど支援の手を広げていますが、このままでは近い将来治療が間に合わなくなることは目に見えています。

 そこで最近そちらの国で薬を専門に扱っている商会があると聞きました。

 ぜひともその商会長に一度我が国にお越し頂き製薬の知識を披露して頂けないでしょうか。

 そうすれば今よりも多くの民の命を救えるようになると思うのです。

 もちろん商会長殿には相応の対価をお約束するので検討いただけないでしょうか』


 ふむ。確かに僕案件だった。

 アルファ商会の会長っていうのはつまり僕の事だし、薬のノウハウを持っているのも僕だ。商会員には薬の販売だけでなくその製法も伝えてはあるけど、この国で取れる薬草を中心とした製法だから、この国から遠く離れた癒しの国では同じ薬草を見つけるだけでも一苦労だろう。

 ただまぁ問題は。


「癒しの国とは国境を接してないんだよね」

「剣の国の更に向こうになります」

「うん。そして、我が国は剣の国とはあまり仲がよろしくない」


 剣の国とは過去に色々あって仲が良くないどころか向こうから一方的に敵視されていたりする。

 盾の国の使節団として癒しの国に向かおうと思えば剣の国を通るか大きく迂回して他の国を2つ通り抜けて行くことになるんだけど、当然国境を越えるのは色々と手続きと交渉が必要になるしそんなことをしてたら年が明けるな。


「それでどうなさるのですか?」

「ん?ああ。招待には応じようと思う。

 僕としてもこのまま自国に引きこもっていては気が付いたら他の国は全部魔物に滅ぼされてて国境線が魔物で埋め尽くされている、なんて事態にもなりかねないしね」


 他国と連携を取って魔物やその後ろに隠れている組織に対応することは必要になってくるだろう。その第一歩として近隣の国家で最も平和主義な癒しの国と面識を作ることは悪くない。


「大々的に動くと大変だからお忍びで、僕とサラとキャロとエンジュの4人で行こうか」

「ティーラさんは連れて行かないんですか?」

「ティーラは新婚さんだしね。

 なにより、国内の魔物の被害だって無い訳じゃないんだし、ティーラには引き続き騎士団を任せることにしよう」


 さて、思い立ったが吉日ともいうし、父上に癒しの国に向かう事を告げて、ティーラにも僕が戻ってくるまでの留守番をお願いして、あ、そうだ。アルファ商会として行くんだから行商人の格好したり商品の治療薬とかも用意していった方が良さそうだな。



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