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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第3章:錆びついた平和の騎士団
73/131

73.模擬戦という名の蹂躙

 そして1月はあっという間に流れ、模擬戦当日となった。

 ツビーと第二騎士団は昨日のうちに王都を出発しているので今日の模擬戦は見ていない。まぁ見てても面白い事は余りない気がするからいいのかな。

 僕らは今揃って王都郊外の広場に来ているんだけど、少し離れたところには観覧席が設けてある。そこに居るのは父上と近衛騎士だ。


「第一騎士団の皆、日頃の訓練の成果を楽しみにしている」

「ははっ。我らの雄姿、とくとご覧下さい」


 父上の言葉にしっかりと頭を下げる騎士団長。

 僕らは早速東西に分かれて準備に取り掛かる。東は僕が率いる26人。西は第一騎士団長が率いる200、いや300人程だ。それを見て最終の打ち合わせのついでに両軍の中間で騎士団長と話をする。


「そちらの部隊、何か増えました?」

「いえいえ王子。お約束通り全員第一騎士団です。

 先日王子がお越しくださった時は非番だった者もおりますので少々増えた次第です」


 なるほど、それは盲点だった。まさか平時とはいえ騎士団の1/3が訓練もせずに休んでいるとは思わなかったよ。

 

「ところで褒美の件は国王陛下に具申して頂けたのでしょうか」

「大丈夫です。そうですね、先にその話をしましょうか。

 えー、第一騎士団の皆さん。良く聞いてください。

 今回の模擬戦。勝った側の者は全員給料3割アップです!」

「「おおっ」」

「騎士団長は近衛騎士団の副団長のポストを用意しましたが受け取ってくれるでしょうか」

「はっ。この上なき褒美でございます」


 通常の騎士団と近衛騎士では待遇から全て別だからね。騎士団長から副団長になるとはいえ栄転と言って差し支えない。本来なら実力と父上からの信頼が無ければ絶対に就けない職だし。

 そして盛り上がった所で僕は続きを話した。


「そして。

 負けた側の者は全員給料5割減です」

「「ええっ!?」」

「当然でしょう?

 信賞必罰。勝者には栄光を、敗者には苦汁を。

 もし受け入れられない者は今なら離脱を認めます」

「「…………」」


 僕の言葉に黙り込んだり周囲の仲間とこそこそと話始める騎士団員たち。その様子を見て慌てて騎士団長が声を上げた。


「お前達。戦力差は10倍以上だ。これで負ける事など万に一つもないことは明らかだ。そうだろう!」

「「お。おお……」」


 騎士団は何とか返事をするけど、若干不安げだ。多分僕や東軍の自信に満ちた表情を見て困惑しているんだろう。あ、僕たち東軍の騎士団員は給料の話をされてもどこ吹く風だ。むしろそんな話は良いからさっさと始めようと鼻息を荒くしている。


「よしでは始めましょうか」

「そ、そうですな」

「勝敗は自陣に立てた旗が先に倒れた方が負けです。もしくは大将、つまり僕か騎士団長が倒されても負けです」

「ええ、異論はありません」

「では銅鑼の合図で開戦です」


 そうして僕は話を終えて自軍へと戻ってきた。

 仲間たちを見渡せば、サラ達は勿論の事、元第一騎士団の皆も1か月前とは見違えた精悍な顔つきをしていた。そんな彼らを見て僕は告げる。


「みんなこの1か月よく辛い訓練を耐え抜いてくれた。

 僕はこの国の王子として皆を誇りに思う。

 さて、今日の相手は元同僚だ。1か月前であれば互角の相手だったかもしれない。

 しかし今は違う。たとえ100倍の人数差であっても皆が負けることはない。

 それは僕が保証しよう。

 騎士とは、その誇りと実力を持って国と民を護る者の事を言う。

 それを忘れてしまった彼らの目を覚まさせてやろうじゃないか」

「「おおっ!!」」


 気合十分な彼らに頷き、今日の作戦を伝える。


「自陣の防衛には万が一を考えてサラとティーラを除く僕の側近達を配置する。

 騎士団の皆は全員で山形になって突撃。以上だ」

「え、あの。細かい指示とかは無いのですか?」

「不要でしょ。

 魔物の大軍が赤子の群れに突っ込むごとく蹴散らしてこればいい」

「「ははっ!」」

「さて、そこで先頭を走る栄誉は、訓練を誰よりもひたむきに頑張っていたトールに任せる。

 トール。行けるな?」

「お任せください。敵を薙ぎ払い見事勝利を勝ち取って参ります」


 そこへ1度目の銅鑼が鳴る。次で模擬戦開始だ。

 全員素早く大楯を構えて出撃態勢を整えた。対する西軍はといえば、中央に弓隊150、両サイドに騎馬隊30ずつ、残りが歩兵で本軍みたいだ。人については制限つけたけど馬とか武装には言及しなかったからなぁ。

 彼らの先鋒はオーソドックスに序盤は遠距離から弓で相手の勢いを止めつつ、近付いて来たら盾に持ち替えて応戦、その間に騎馬隊が回り込んで包囲するか本陣を攻め落とすかって作戦だろう。たった30人足らずに10倍以上の戦力でする戦法かと聞かれたら違う気がするけど。

 そして2度目の銅鑼が鳴った。戦闘開始だ。


「全員俺に続けぇ!!」

「「おおおっ!!!」」


 トールの掛け声で一気呵成に突撃を開始する東軍。それを見た西軍からはどこか小馬鹿にしたような空気が伝わってきた。そして予定通り矢が放たれる。通常であればこの矢だけで何割かが脱落するだろう。

 だけど西軍の予定通りはそこまでだった。


「団長。敵の勢い止まりません!」

「なんだと。弓隊は何をしている」

「弓隊はしっかり矢を射てます。しかし奴ら悉く矢を避けて走ってきます」

「んな馬鹿な!?」


 驚く騎士団長だけど、事実東軍の騎士たちは飛んでくる矢を避け、あるいは持っている盾で余裕を持って弾いてそのまま西軍へと向かって来ていた。後ろには誰も居ないのだから無理に防ぐ必要もないし。


「くそっ。弓隊を下がらせ剣士隊と入れ替えろ。

 予定より早いが騎馬隊も背後に回り込ませて数で押し潰すんだ」


 騎士団長の指示は、決して悪くは無かったと思う。教科書通りと言えばその通りなんだけど、これが互角の相手ならいい勝負が出来たんじゃないかな。まぁ僕なら騎馬は相手の騎士を無視して本陣に突撃させたけど。

 そして何より騎士団長が見誤ってたのは個々の戦力差だ。


「薙ぎ払えぇーーっ!!」

「「おおっっ!!」」


 双方の軍が正面から衝突した瞬間、文字通り空を飛ぶ西軍の騎士達。武装込みで100キロを超える男達が吹き飛んでいく姿は後ろで控えていた騎士達にも恐怖を植え付けた。


「なんだあれはっ!?」

「くそ、東軍の騎士は化物か!!」

「「ぎゃああっ」」


 藪を鉈で切り払うかの如く、全く勢いを落とさぬままに東軍が攻め上がってくる。そして、その先頭の男と騎士団長は目が合った。騎士団長の記憶ではその男はそう、確か田舎男爵の3男で何のとりえもないクズだと馬鹿にしていた奴だ。その男の顔がニィっと歯をむき出しにする。


「居たぞ、敵大将だ!」

「ひぃぃ、く、来るな!!」


 まるで鬼か悪魔でも見たように恥も外聞もなく悲鳴を上げて背中を向けて逃げようとする騎士団長。本来であれば、彼が少しでも生き延びられるように周りの騎士が間に入って護るのだけど、そこは人望の無さが原因かはたまた敵の姿を恐れてか誰も止めない。

 そして、虫けらのように潰された騎士団長と共に模擬戦は東軍の勝利で終わった。



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