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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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6.ゴブリンとの邂逅

 それはバックラー領に入ってもうまもなく領都に着くだろうと言う頃。僕たちの馬車の行く先にまたしても魔物の一団が見えた。遠目には旅の一団とも見えなくもないけど緑がかった肌に頭には小さな角を持つそれは、曰くゴブリンと呼ばれる種族だった。

 一般的に知られるゴブリンは主に森や山岳地帯に住み、簡素ながらも人と同じように道具を扱って活動する種族だ。繁殖力が高く、巣が出来ればすぐに数十体から百近くまでその数を増やすという。ただし戦闘力という意味では訓練を受けていない人間の大人よりも弱く、駆け出し冒険者の腕試しの相手として扱われることも多い。

 今僕らの前に見える一団はこちらに背を向けており、まだこちらに気付いては居ない様子。人数は5体程か。その内の1体は怪我をしているのか別の1体に背負われている。

 そこまで確認した僕は馬車を飛び降りて駆け出した。突然の行動にティーラが慌てて手を伸ばすが少し届かなかった。


「お待ちくださいアル様。危険です」

「多分大丈夫!」


 ティーラの制止を振り切った僕はゴブリンの一団に近づき声を掛けた。


「こんにちは、ゴブリンさん達」

「「!?」」


 僕が声を掛ければゴブリン達は驚いて振り返り、そして慌てて武器を構えようとして、しかしそれは1体のゴブリンによって止められた。


「ゴブッ、ゴブゴブ」

「ゴブ……」

「ゴブラ」


 多分この群れのリーダーかな。僕の後ろを指差して他のゴブリンを諫めている。僕の後ろからは馬車をサラに任せたティーラが血相を変えて駆けつけてきていることだろう。ゴブリン5体と完全武装の騎士が1人ならゴブリンに勝ち目はほぼない。って僕は別に武力制圧するために駆けつけた訳じゃないんだけど。


「えっと、驚かせてごめんなさい。それよりもその子は怪我か病気なの?」


 僕はつとめて落ち着いた声で話し掛けながら背負われているゴブリンを指した。こういう言葉が通じない時は身振り手振りと声の雰囲気が大事だ。声って意外と感情が伝わるからしっかりと敵意はないって思いながら話せば意外と何とかなる場合が多い。

 幸い僕の言葉(意思)はゴブリン達にも伝わったらしい。ゴブリンは背負っていた仲間をそっと地面に横たえて話しかけてきた。


「ムスメ、ビョウキ。助ケタイ」

「人の言葉が話せるんだ。良かった。

 病気の症状を見たい。近づいてもいいかな?」

「……ワカッタ」

「って王子、危険です!罠かもしれません」


 追いついてきたティーラが僕を止めようとする。だけどそれは別の人の言葉で思い留まることになった。


「大丈夫よティーラ。そのゴブリン達は敵ではないわ」

「サラ。なぜそんなことが分かるの?王子にもしものことがあったら」

「心配しないで。彼らはきっとゴブリン王国のゴブリンだから」

「ゴブリン王国?」


 後ろでサラとティーラの会話を聞きながら、僕は横たわるゴブリンの手を握りながら反対の手で症状を確認するけど、これは……


「ドウダ?」

「まず間違いなくガンガ病です。それも末期に近い。

 ここまで酷いと多分街に行っても治せる治癒士は居ないかもしれない。僕も病気を治す魔法は苦手だし」

「……無理カ」

「ううん、助けるよ。だって彼女はまだ生きてるもの」


 そう、まだ生きている。なら護る。単純な話だ。

 今の僕は子供だし魔力も全然少ない。それでも知識と経験は過去から受け継いだ。この状況でもやれることは幾らでもある。


「サラ。馬車の荷台に分厚い薬草の絵がいっぱい書いてある本があるから持ってきて」

「はい。……こちらですか?」

「うん、ありがとう」


 サラが持ってきてくれた本を受け取り、急ぎ目当てのページを探し出す。


「あった。ティーラ、この絵を見て。

 この薬草ならこの近くでも沢山生えてるはずだから幾つか詰んできて」

「え、でも私、薬草の見分けなんて付きませんけど」

「大丈夫、似たのを5つも取って来れば1つくらいはあるから。さぁ早く」

「分かりました」


 街道を1歩外れれば雑草だらけだ。その中からお目当ての草を探すのは大変だろうけどやってもらうしかない。なにせ僕は今動けないから。


「コキュウ、落チ着イテキタ。治ッタノカ?」

「まだ全然。今は僕が魔力を流し込んで症状を抑えてるだけ。

 この病気を治す方法を僕は3つしか知らない。うち1つは偶然とか奇跡に頼るものだし、もう1つは治った後が大変だから実質1つだけだ」

「ドウスルンダ?」

「病巣を直接切り落とす」


 それは決して楽な行為では無いけど後遺症もなく安全に処置するにはそれしかない。


「アル様、取ってきました!

 この中にありますか?」

「ありがとう。えっと、違う違う違う……あった」


 ティーラが摘んできた草の中からお目当ての薬草を見つけた僕は、そのまま自分の口に入れて咀嚼した後、ゴブリンの少女に口移しで飲ませる。


「ティーラ、ナイフ貸して」

「へ?」

「ボケっとしない!」

「は、はいっ!」


 どこか上の空だったティーラを叱りつつナイフを受け取ったところでちらっと他のゴブリン達を見た。


「僕の事を信じてくれますか?」

「モチロンダ」

「ティーラ、万が一彼らが暴れ出したら取り押さえて」

「分かりました」


 逆手にナイフを持った僕の姿を見ればこの後何をするかは明白だ。

 僕は少女の様子を窺って呼吸が小さくなったところでひと思いにその脇腹を切り裂いた。


「「!!」」

「グ、動クナッ!」


 切り口から指を入れて石のように固まった病巣を見つけ出し切り落とす。それが終われば治癒魔法をかけて傷口を塞ぐ。この間約10秒。

 少女の様子を改めて確認すれば、少なくとも死んではいない。なら大丈夫だろう。


「助カッタノカ?」

「病気はこれで大丈夫。後は栄養のあるものを食べさせて休ませれば元気になるよ。

 ということでサラ。僕は寝るから後よろしく」

「あ、はい。お任せ下さい」


 そこまで伝えて僕は意識を手放した。



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