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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第3章:錆びついた平和の騎士団
58/131

58.そろそろ帰って来い

いつもお読みいただきありがとうございます。

実は最初、年を計算し間違えていて病気のすぐ後に繋げるように書いていました。

なので話の流れがどこか変かもしれません。

(見つけたら教えて頂けると助かります)


 忙しいと時の経つのは早いものだ。気が付けば僕がここバックラー伯爵領に来て5年が経とうとしていた。あの黒斑病以来、特に大きな事件も起きず。逆に言うと小さい事件はいくつも起きてて頻繁に領内を走り回ったり事後処理の事務仕事を伯爵と一緒にして過ごしていた。

 その日も南の国境付近の森で魔物の群れが発生したということで僕たちは少数の騎士の人達と1週間ほど遠征に出ていた帰りだった。

 領都に戻ってきた僕らを出迎えたのは、万を超える民衆だった。もしかしなくてもこれ、領都の住民がほとんど集まっているんじゃないかな。

 その民衆の先頭には当然のように伯爵本人が立っていて、僕が近くまで来たところで膝を折って深々と頭を垂れた。まるで目上の相手を持て成すかのように。


「おかえりなさいませ。アルファス王子。

 無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます」

「「わあああぁぁーーー!!」」


 伯爵の言葉を聞いて集まっていた人達から歓声が上がる。一体どういうことなんだ?

 領民総出で出迎えてくれたことも、伯爵自らが門の所までやってきたことも、そして僕のことを王子と呼んで頭を下げたことも何一つ分からない。

 けど1つだけ確かな事がある。それは伯爵が考えもなしにこんなことをする人ではないってことだ。だからきっと何か事情があるのだろうとは思う。

 よってここで僕がすべきことはこれだろう。


「出迎えご苦労、伯爵。

 街の皆も忙しい中よく集まってくれた。とても嬉しく思う」

「「おおぉぉ~~」」

「アルファス王子~」


 笑顔で手を振りながら民衆に応えれば再び歓声が沸き起こる。

 それに混ざって噂話も聞こえて来た。


「いやぁしっかし、最初聞いた時は耳を疑ったがな」

「あたしは最初からやんごとなきお方だって分かってたよ」

「子供ながらに堂々とした姿。実に素晴らしい。

 しかも驕ることなく影ながらずっと私達を支えてくださってたなんてねぇ」

「一時期は病気で亡くなったって噂も流れてたけど全部嘘だったんだねぇ。

 だってほら、あんなに元気そうで。本当に良かったよ」


 いったいどこからどう話が伝わってるのかイマイチ分からないな。

 ともかく僕たちは伯爵の後に続いて領館までの道をゆっくりと進んでいった。

 そうして僕たちは旅の汚れを落とすためにまずは皆でお風呂に入り、さっぱりしたところで伯爵に何が起きてるのか問い詰める為に集まった。


「それで。どうしてこうなったの?」

「はい。まずはこちらをご確認ください」


 そういって1通の手紙を渡してきた。封は王家のもの。ということは父上からの手紙か。それだけで重大な内容であることが窺える。

 僕はさっと内容を確認し、小さくため息をついた。


「えっと、伯爵の元にも別途連絡が行ってるってことで合ってる?」

「はい、私への手紙には王子の手紙にも同じ事が書かれているとありました」


 手紙の内容は簡単に言えば帰還命令。元々は2、3年のつもりが5年近く王都から離れていたし、そろそろ一度城に戻ってくるようにとのことだ。こっちでの生活はしがらみも少なくて伸び伸びと活動出来てたから結構気に入ってたんだけどな。

 とはいってもこれでも第1王子だ。その責務を簡単に放棄する訳にもいかないか。


「この手紙はいつ届いたんですか?」

「王子が今回の件でここを出たのと入れ違いにです」

「ふむ」


 つまり1週間前か。時間が経ってしまっているのは、まぁ仕方ない。そもそも子供の使いじゃないんだから帰って来いって言われて次の日にさっさと帰れないのが貴族っていうものだ。

 だから急ぎで何かが起きているのでもなければ1月くらい遅れてもどうという事は無い。むしろ早過ぎたら向こうだって準備が間に合わなくて困るだろう。


「だけどこれとさっきの騒動と何の関係があるんですか?」


 僕がそう聞くと伯爵はやはりと頷いた。


「王子は幼少より聡明で在らせられましたが、こと貴族関係の権謀術数には疎いようですね」

「まぁ、そうですね。自覚はあります」


 200年前だって王子だった筈なんだけど、魔物討伐だなんだと国中を駆け回り、晩年は邪神龍討伐のために全てを費やしてた。

 国のことはめっきり弟に任せていたからな。ってそれは今も同じか。ということは全然成長してないんだな。


「あまり政には近づきたくないというのが正直なところです」

「理由をお聞きしても?」

「悪意は盾で防げませんから」

「ぷふっ」


 あっけらかんとした僕の答えに思わず笑いそうになる伯爵。

 でも実際そうなんだ。魔物であったり他国からの侵略だと言うなら盾で持って弾き返せば済む。病気も災害も盾でとはいかなくても過去に培ってきた知識で対処できる。だけど政はそうはいかない。

 人という生き物はなぜか富と権力には貪欲だ。その為なら家族や大切な人であっても簡単に見捨ててしまう事がある。うん、事実としてあるんだけど残念ながら僕にはどうしても理解できない考え方なんだ。

 そんな彼らとは話が合わないし一緒に居ても楽しいとは思えない。だから関わらなくて済むならそれに越したことはないんだけど。


「でもそうも言ってられないんですよね」

「王子として生まれた以上は逃げることは叶わないでしょうな。

 ですがその為に私のような存在が居るのです」

「伯爵がなにを?」

「先ほど王子は盾では防げないと仰いましたが、貴族社会にはそれ用の盾が存在するのですよ。

 後ろ盾という名の盾が。

 といっても私は辺境の1領主に過ぎませんからどこまでお力になれるかは分かりませんが。

 それでも王都に戻ってからも少しくらいは支えになるでしょう」

「いえ、凄く心強いです。あ、ということは僕を派手に出迎えたあれも?」

「はい。王子が遠征に出ている間に王子がこれまでしてきたことを噂で流しておいて私自らが出迎えたことで噂は全て本当だったんだと周知させたのです。

 これでバックラー伯爵領は領民領主含め全員が王子の味方です」


 確かにあの歓迎っぷりを見ればそれは頷ける話だ。むしろ何をどうしたらあんなに歓迎されることになるのか。


「もしかして誇張や捏造した噂を流したの?」

「いえ、むしろそう思われない様に事実を抑えて伝えるのに苦労しましたとも。

 考えてもみてください。この5年間、毎日のように街の視察に出ては積極的に街の困りごとを解決して回る子供が、それも貴族だとしか思えないのに誰にでも分け隔てなく偉ぶることなく親身に関わってくれていた子供が、実はこの国の王子だったというのです。

 民はいつだって強き王を、賢き王を、そしてなにより自分たちを幸せにしてくれる王を望んでいるのです。

 王子はその皆の期待に応えていたのです。

 私としてはむしろ本人に自覚なくそうしていたという事が驚きです」

「うん、まぁ。僕としては当たり前のことをしていただけだし」

「ええ。王子はそれで良いのですよ」


 そうか。僕はいつの間にかちゃんと王子をやれていたんだな。優しく頷く伯爵を見ていて少しだけ肩の荷が降りた気がした。



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