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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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57.閑話~あの人はどこに~

~~ フィディ Side ~~


 今日、私は一人で森の奥深くへと来ていた。

 ここは私が生まれ育ったところからはだいぶ離れており、植生などにも違いが見える。人間で言えば異国の地だ。それでも関係なく私を歓迎してくれている辺り、人間などとは器の大きさが違うと言える。きっとここで暮らしたいと言えば静かに受け入れてくれるだろう。


「ま、今の暮らしも気に入ってるから当分森に帰る気はないけど」


 ひとり呟きながら歩いて辿り着いたのは小さな祠。エルフに限らず大きな森であればそこに暮らす者たちが居て、彼らは例外なくその地に祈りを捧げ、精霊やその土地そのものを護っている。

 ここはゴブリンの森とも呼ばれる場所だし、さしずめここもゴブリンの祠と呼ぶべき場所なのだろう。既に何度か来ているけど、常に綺麗に掃き清められている。キャロを見ていても分かるけどゴブリン王国のゴブリンはかなり理性的だ。


(とてもゴブリンらしくないのよね)


 ここ以外の場所にもゴブリンは生息していて何度も遭遇したことはあるけど、まともに会話が成立したことはない。上位種のハイゴブリン、エルダーゴブリンだってそれは同じだ。独自の巣を造るゴブリンキングならばそれなりの知性を持っているだろうけど、彼らが他の種族と交流を持ったという話は聞いたことが無い。

 ならここのゴブリンはゴブリンと呼ばれているだけで別の種族なのか。そう考えた事もあったけどそれはキャロに否定された。なんでも野生のゴブリンであっても極稀にだが帰依することがあるのだという。そうなると1週間と経たずに元からゴブリン王国の者と見分けがつかなくなるらしい。


「ゴブリン王国。今度調べてみるべきかしら」


 元々大精霊からの依頼は単純に人だとしか聞いていない。精霊にとって人間族も魔族も多少姿かたちが異なるだけで等しく人と呼ぶだろう。ならば探し人はゴブリンだという可能性もある。

 ただ。同じ森に住む生き物ではあってもエルフとゴブリンに良縁はまずない。むしろ犬猿の仲どころかここ以外ではゴブリンは見つけたら即倒す魔物としか認識されていない。ゴブリン王国の民はエルフ以上に森から出ないようなので私とは接点がないのだ。だからほぼ有り得ないと言って良い。

 それでも万が一を考えて今日ここに来てみた。


「この地に宿りし精霊よ。どうか私の声にお答えください」


 そっと祠に向かって祈りを捧げる。すると私の声を聞いた精霊がそっと私に応えてくれた。


『絡み合う縁を受け継ぎし森の子よ。よくぞいらっしゃいました』


 声と共に森の緑がぎゅっと集まって行く。少ししてそれはゴブリンの姿を形作った。多くの精霊は特定の姿を持たない。ゆえに姿を現すときはその地に最も縁のある姿を模することが多い。ここの精霊も例に漏れずゴブリンの姿になったという訳だ。


「呼びかけに応じて下さりありがとうございます。

 私は森の大精霊ユグドラ様から依頼を受けてこの地にやってきました」

『ええ。風の便りで聞いております』


 風の便り。この場合は文字通りの意味だろう。この世界に存在する全ての精霊は何かしら接点があるものだ。なので私のことも私がバックラー領に着くころには伝わっていたのだろう。だから特に説明はいらない。


「精霊様は私の探し人について何かご存じないですか。

 私はどうすればよいのでしょうか」

『(ふるふる)何も』


 私の問いかけに静かに首を振る。まさか精霊にすら知られていない存在だというのかしら。ということは相当な魔法の使い手か。隠密のプロか。

 だけどそうではなかった。


『特別な事は何もする必要はないわ』

「え、それじゃあ私は何のために来たのですか?」

『何のために……そうね。幸せになるためかしら』

「幸せに?」

『あの人の望みはきっと、自分に関わる人が幸せになってくれることだと思うの。

 少なくとも私はあの人を見ていてそう感じているわ』


 自分の事よりも他人の幸せを望むなんて、そんな聖人君子が世の中に居るだろうか。仮に過去に居たとすれば200年前の6英雄のひとり、癒しの勇者と呼ばれた人物くらいではないだろうか。

 そこでふと、一人の少年の姿が思い浮かんだ。先日自分とは無関係な村人を救うために毒薬を飲んで見せた彼は、なるほど自分を顧みずに他人の幸せを望んでいるのかもしれない。

 彼には色々と不可解な点が多すぎる。人間の、しかもまだ10歳にもなっていない子供では到底知り得ない知識を持ち過ぎている。黒斑病の治療法もそうだしドリアードを始めとした植物系の魔物を活性化させて自然を浄化する方法だって200年以上前にエルフの国で発明された秘術だと母から聞いたことがある。

 いや、今はそれを考えている場合ではないか。何度思い返してみても私と彼ではあそこから助け出されるまで何の接点も無かったのだから。


「その『あの人』とはどなたなのですか?

 まるでよくご存じのような口ぶりですが」


 精霊が人にここまで固執するというのも珍しい。やはり私が知らないだけで英雄クラスの傑物がどこかに居るのか。

 だけど精霊は首を振るだけだった。


『ええ、よく知っていますよ。もう、ずっと前から。

 ですがだからこそあなたに伝えることはできません』

「なぜですか?」

『知ることであなたがあの人への態度が変わることは望ましくありません。

 それにあの人ならこう言うでしょう「それじゃあつまらない」と』


 つまらないって。それじゃあ私はその人の気まぐれに振り回されているのだろうか。

 と、そこで森の奥から足音が聞こえて来た。


『あらお客様ね。それじゃあまたね』

「あ、まだ話は」

『幸せになりなさい。これこそがあの人の想いに報いることになります』


 それだけ言って精霊は姿を消した。

 入れ替わる様に現れたのはゴブリンの集団。といっても敵意は感じられないし頭にバンダナも巻いてるからゴブリン王国のゴブリンね。


「コノ森ニ、エルフ。珍シイ。何ヲシニ来タ?」

「森の精霊様に挨拶をしに寄ったのです」


 片言で共通語を話すゴブリン。これを聞くといかにキャロが頑張って共通語を憶えたのかが分かるわね。


「ドコカラ来タンダ?」

「東のバックラー領から、と言ったら分かるかしら」

「アア、勿論ダ。

 ソウカ、ゴリアンハ元気カ?」

「ゴリアン?」


 確かキャロもゴリアンを探しているって言ってたっけ。まだ見つかっていないようだしあの子もそのうちアルの元を離れてゴリアン探しの旅に出るのかしら。


「知ラナイナライイ。最近ハ魔物ノ動キガ活発ダ。

 気ヲ付ケテ行カレヨ」


 それだけ言ってゴブリン達は去って行った。恐らく森の巡回中なのだろう。

 でもそっか。キャロも私と同じように人探しをしてるんだものね。私のと一緒に探してみようかしら。



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