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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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55.怪しい研究施設

 キメラを倒し戻って来た僕たちを騎士団のひとりが迎えてくれた。


「アル坊。無事だったみたいですね」

「うん。ティーラ達が優秀だから」


 さっきの戦闘は、多少離れてたとは言えそれなりに音も衝撃も出てたからこっちまで聞こえていたんだろう。それでも慌ててこちらの救援に駆けつけようという話にならない辺り、僕らの実力が認められている証拠だろう。


「それで。こっちは何か見つかった?」

「はい。地上には4人分の白骨体と実験資料の一部が残っていました」

「一部?」

「約1か月分のみで、それ以前はありませんでした」


 つまり定期的に資料はどこかに運び出していたって事か。まぁこんな山奥では独立して活動し続けるというのも難しい。食糧その他、生活に必要なものや実験に使う材料などをどこかから調達しないといけないし、その際にそれまでの資料を協力者に預けていたんだろう。


「それで地上にはってことは地下にも?」

「はい。そちらが実験施設の本体のようです。……ご覧になられますか?」

「もちろん」


 若干、躊躇って聞いてきたのはあまり僕に見せたくないものがあるんだろう。それはキメラが出てきた時点でそうだろうなとは思ってた。


「みんな、地下にはきっとさっきのキメラの元とか造りかけとかありそうなんだけど行く?

 別に待っててくれてもいいけど」

「アル様が行くのであれば付いていきます」

「う、あたしは……いやでもオババが良く知らないことほど怖いものは無いって言ってたし」

「そうね。まぁ大体何があるかは分かってるけど私もいくわ」


 そんな訳でみんなで地下へと続く穴から飛び降りた。この穴はきっとさっきのキメラが出てきた時に空いた穴だな。別に階段もあったらしいし。

 そしてまず目についたのは空になった大きな石台。砕かれた鎖も落ちていてここにキメラが居たことが窺える。そしてそれ以外はと言えば。


「うん、予想通りだね」

「うげえっ」


 城の地下にあるとうわさは聞いたことがある拷問部屋かな? 何をどう使うかは分からないけど沢山の棘が付いた道具だったり鋸や槍のように太い針などが、どれも血まみれの床に無造作に置かれていた。

 また他には最初の石台程ではないにしろ大きな台の上に鎖で繋がれた歪な魔物が何体も死んでいた。犬の頭をした鳥とかの他に人の身体に牛の頭を付けたものなどもある。どこまで行っても自分たち以外は道具としか見ていない奴らだったようだ。


「あ、アル坊。ちょっとこっちに来てください」

「何かあった?」


 小隊長に呼ばれて隣の部屋へと移動した。その部屋はさっきのとは違い被害はほとんど無かったようだ。研究室っぽく薬瓶がずらりと並んでいた。


「いったい何の薬でしょうか」

「見つかったって言う実験資料を見れば分かるかもだけど碌なものでないのは確かだろうね」


 間違っても病気を治す為の薬の研究をしていたとも思えない。


「幾つかはラベルのようなものが付いていますが、これ何語でしょう」

「ん? あぁ古代語だね」

「読めるんですか?」

「まぁ、ね」


 古代語と言いつつ300年前には普通に使われた文字だし。どうやらここで実験を行ってた奴らはそんな昔の文字を理解していたらしい。それだけ教養の高い連中だったのか、それともその時代から生き続けている長命種なのか。確かエルフの最長老は500歳くらいだったはずだし、エルフ以外にも長命種は幾つかいる。

 っと、そんな今ここに居ない者の考察は後回しで良いか。それよりここにある薬は何なのか。僕は1つ1つラベルを読んでいく。


「『麻酔薬Ver.3』『蘇生薬Ver.7』『鬼人化薬Ver.5』……」

「蘇生薬ですか!? まさか伝説の。それがあれば」


 僕の言葉に喜色を浮かべる小隊長。確かにもし本当に死んだ人を生き返らせるような薬なら誰もが欲しがることだろう。だけどそんなものがある筈がない。

 以前バックラー領を襲撃してきたあいつらは騎士団からの脱走者を殺したうえで鬼人化させて操っていた。恐らくこれらの薬を使った結果があれだったんだろう。


「小隊長はゾンビになっても生き永らえたい?」

「ぞぞ、ゾンビですか!? そんないえまさか」

「だよね」


 慌てて首を振る小隊長を横目に続きを確認していった僕は1つのラベルで手を止めた。


「『魔物活性薬Ver.3』」

「なんですかそれは」

「名前からしてこれを投与すれば魔物が強化できるのかな。

 例えばウェアウルフに与えれば強化ウェアウルフが作れたりとか。

 それ以外にも黒斑病の病原体だって魔物なのだから、これを使えばこの一帯を黒斑病で満たす事だって出来るかもしれないね」

「なんて危険な」


 うん。どれもこれも危険な薬ばかりだ。ここでこれらの薬の生成実験をしていたのかと言えば多分違うだろう。誰だって危険な実験を同じ場所でやろうなんて思わない。現にここは実験中のキメラによって破壊されたのだろうし。

 だからこれらはそのキメラを作る為に持ち込まれたもので、この部屋は恐らく保管庫。薬品の製造場所はまた別の所にあるんだろう。


「サンプルを持って帰りますか?」

「いや、止めておこう。悪用する以外の使い道が思い浮かばない」

「分かりました」


 小隊長を伴い部屋を出た僕はこれ以上この地下にめぼしいものが無い事を確認して撤収を指示した。

 地上に上がって来て周りを見ればティーラ達は嫌なものを見て気分が悪くなったのか外れの方で休憩していた。


「小隊長、点呼を。居ない人は居ないね?」

「えっと、はい。大丈夫です」

「よし。なら皆、森の方まで下がってて」

「は、はい。何をするんですか?」

「……証拠の隠滅?」


 一人廃墟の中に残った僕は、地面に盾を押し当てた。


「『圧壊』」

ズドドドドドッ!!

「「うおおっ」」


 激しい揺れと共に廃墟を含む剥き出しになっていた地面が大きく陥没した。よし、これで地下施設は完全に土に埋もれたことだろう。あとは雨が降ったら池になって良い感じじゃないかな。仕上げに。


「キャロ。あの薬ってまだ残ってる?」

「うん。少しだけなら」

「よし、残り全部この辺りに振り撒いておいてくれ。

 ドリアード達なら地下に残った毒も良い感じに吸い上げて浄化してくれるだろう」


 そうして一通りやることをやった僕達は山を下りて村へと戻って行った。



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