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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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54.黒斑病の発生源

 緑のカーテンを抜けたらそこは……なんて詩的な表現をしている場合ではない光景がそこには広がっていた。まるで巨大な何かで山そのものを抉り取ったかのようにその場所には草1本生えていなかった。あるのはむき出しの地面と崩れた石の建物だった残骸。


「これはまた酷いね」

「そうですね。大型の魔物の襲撃でも受けたのでしょうか」

「いや、それは違うと思う。

 普通外から攻撃を受ければ壊れた屋根の部分とかはそのまま下、ないしは攻撃を受けた反対側に吹き飛ぶはず。

 だけど見たところ屋根だった部分も含めて建物の残骸は建物を中心に広く飛び散っている。

 そこから考えられることはただ一つ」

「内側から破壊された、ですか?」

「そういうこと」


 いったい誰が、何の目的でこんな人の寄り付かない山奥に居たのかは知らないけど、建物の中で誰かが暴れたというのは間違いないだろう。


「騎士団の皆は廃墟の調査をお願いします。

 もしかしたらここをこんなにした原因がまだ残っているかもしれないので慎重に」

「「はいっ」」


 この場は彼らに任せて僕らは森との境界に沿って歩いていく。


「何かあるの?」

「うん。僕の予想が正しければね。と、ここか」


 僕らが来たのとは反対側、山頂に向かう側の木が数本薙ぎ倒されていた。皆にはああ言ったけど、建物を破壊した存在は折角外に出れたんだ。間違いなくどこかへ行こうとするだろう。つまりこの先にそれが居る。

 よし行くぞ、と思ったところで僕の前が塞がれた。


「アル様は私の後ろに」

「ティーラ。でも盾士が仲間の後ろに立つってどうなんだろう」

「それを言えば私も盾の国の騎士です。

 アル様はもう少しご自分が貴人であることを自覚してください」

「仕方ないなぁ」

「キャロは私と一緒に周囲の警戒を。私よりも森の探索には優れているでしょう」

「うん、わかったぞ」

「フィディは後ろをお願いします」

「ええ」


 テキパキとティーラの指示の元、隊列を組んで僕たちは森の中へと入って行く。

 鳥の1羽も飛んでいない不気味なほど静かな中を進んだ先に、それは居た。馬の頭に鹿の足。


「えっと、馬鹿?」

「頭と足だけならね」

「ガルルルッ」


 僕らに気付き歯をむき出しにして威嚇した口からは明らかに肉食獣の牙が見える。それに単純に鹿の胴体に馬の頭が付いてるのではなく、ケンタウロスのように背中に相当する部分に熊の上半身が乗り、頭は馬だけど口元は狼っぽい。更に熊の背中には鳥の羽が付いてるし尻尾は蜥蜴っぽい。そして全身を黒い靄のようなものが覆っている。

 間違いない。こいつが今回の黒斑病のキャリアーだ。


「なんなのだあれは。あんなの見た事無いぞ。魔物にしても変過ぎる」


 キャロがそういうのも仕方がない。多くの魔物はその地に住む動物の姿に似る傾向にある。例えばウェアウルフは野犬や狼をベースに四肢を発達させて二足歩行が可能になった魔物と言える。時には2種類の動物が合体したような姿のグリフォンなどは存在するがそれは進化の結果だと考えられている。

 あ、余談だけどホースディアと呼ばれる馬と鹿が合体したような魔物も存在している。険しい山岳地帯では下半身が鹿になっていることが多く、なだらかな草原地帯では逆に下半身が馬とその土地に合わせて進化の方向性が変わる。

 そこから考えても目の前の存在は変としか言いようがない。


「まるで色んな生き物のパーツを無理矢理継ぎはぎして1つに纏めたみたいだな」

「みたいというか、そのままだね。あれは人造の合成魔獣(キメラ)だ」

「合成ってそんなこと出来るんですか?」

「不可能ではない。けど生命を冒涜する行為だからいつの時代でも禁忌とされてたはずだ。

 って、来るよ!」

「グオオオッ」


 雄叫びを上げて突撃してくるキメラ。慌てて左右に避けた僕たちの間を猛スピードで抜けて行った。


「ぐっ、速い!」

「鹿の足の癖に。って跳んだ!?」


 キメラはなんと正面の木の幹に跳び上がり三角跳びで急反転してキャロに飛び掛かった。


「このっ」

「ダメだキャロ。避けろ」

「え、うわっ」


 迎撃しようとしたキャロを突き飛ばし一緒にその場を離れた直後、キメラの熊の拳が地面を叩き割る。物凄い腕力だ。あの石の建物を破壊しただけはある。


「『ファイアランス』」

「グラァッ」


 フィディの放った炎の槍をキメラの纏っていた黒い靄が撃ち落とした。


「ならばっ」


 グサリとティーラの槍がキメラの心臓に突き刺さった。一瞬動きを止めるキメラ。しかし次の瞬間には胸の傷がみるみる再生していく。

 足も速い。腕力もあれば魔法も効かない。心臓を破壊しても瞬時に回復する。まさに怪物だな。こんなのと正面からやり合うのは得策ではない。


「キャロ。近くにあれの狩場はある?」

「あるぞ。こっちだ」

「よし。みんな、場所を移すよ」

「分かりました」

「おっけー」


 フィディの魔法とティーラの槍で牽制しつつ僕らは森の中を逃げる。そうして向かった藪の先で先頭を走るキャロが叫ぶ。


「みんな跳べ!」


 キャロの示した木を目印に大きく跳躍する僕たち。それを追うようにキメラも突撃してきたけど。


「『スタンプ』!」

「グオオオッ」


 一足先に跳んでいたキャロが振り下ろしたポールアックスがキメラを叩き落した。そこは狭い谷間。機動力のある獲物なら動きにくい場所へ誘導すればいい。


「フィディ。焼き尽くせ!」

「任せなさい。『ファイヤーアロー』連射!!」


 連続して放たれる炎の矢がキメラの靄とぶつかり合う。一瞬だけ拮抗したそれは、しかし軍配はフィディに上がった。靄ごと炎に包まれるキメラ。だけどまだだ。靄は燃え尽きたっぽいけど本体はこの程度の熱量じゃ倒しきれない。なら止めは任せよう。


「ティーラ。再生する暇もなく消し飛ばして」

「畏まりました」


 キメラの正面に回り込んだティーラが槍を突き出す。馬の頭に、狼の口に、熊の胸に、鹿の足に。まるで蜂の巣のように一瞬で穴だらけになって行く。キメラも再生しようとするがそれより早くキャロも参戦してキメラを肉片へと変えて行く。最後はフィディの魔法で灰すら残さない徹底ぶりだ。

 流石にこれで復活することはないだろう。



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