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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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53.返り血を浴びないミッション

 ドリアード達をその場に残して僕らは皆のところに戻ることにした。流石に今すぐ移動出来る訳じゃないからね。今日の所はさっきの広場で野営して明日目的の場所に行こうかな。なんて考えてた僕のところに戦闘音が聞こえて来た。


「この音は、どうやら残してきたみんなの所に魔物が出たっぽいね」

「そうね。ってそんな呑気にしてて良いの?」

「この辺りの魔物に後れを取ることは無いと思うし大丈夫」


 言いながら戻ればそこには3体の熊の魔獣と戦う皆の姿があった。小隊長の指揮の元、盾を構えて相対する騎士団の皆は、意外と苦戦していた。それもそのはず、みんな牽制するばかりで積極的に攻撃に出ていない。


「いいか、無理に切りつけるなよ」

「とは言っても小隊長。

 やつら毛皮が分厚すぎて盾で殴りつけても僕ともしませんよ」

「それは分かっている。しかしあの顔を見ろ。明らかに正気じゃない。

 恐らくやつらも黒斑病に罹っているんだろう。

 やつらの返り血を浴びれば俺達だって罹患する危険がある」


 そうなんだ。なにも黒斑病に罹るのは人間だけではない。当然この森に住んでいる動物たちだって病気になる。そして体内に魔物に侵入された結果、人間なら死んで終わりなんだけど動物は生命力が高いのか適応力が高いのか死なずに魔獣へと進化を遂げる場合がある。彼らに傷付けられたり逆に傷付けてその血を浴びれば高確率で病気になるだろう。

 だから八方ふさがり。なんてことはないんだけど。


「小隊長」

「アル坊。おかえりなさいませ」

「うん。やっぱり愛称と敬語って変な感じだね。

 ま、それは良いとして。

 小隊長は勘違いしているようだけど、今の皆は返り血を浴びただけなら大丈夫だよ」

「そうなのですか?ですが」

「飲んだり傷口から直接侵入されると危険なんだけど。

 病原菌と言っても相手は魔物。つまり魔力で護ることは十分に可能。でしょ」

「う、確かに」


 普段から魔力で身を包んでいることは難しいかもしれないけど、戦闘中は魔力強化もしてるし砂粒サイズの魔物がこちらの防御を突破することはまずない。まあそれでも返り血を浴びないに越したことはないけど。

 だから極力血を流さずに倒す。


「みんなはそのまま魔獣たちを抑えておいて。

 ティーラは左ね。キャロは右。上から一撃で仕留めるよ」

「分かりました」

「うん。分かった。任せろ」


 頷く2人と共にジャンプして木の上へ。そのまま枝を伝って魔獣の真上へと移動した。そして飛び降りると同時に自分の獲物で魔獣を攻撃する。


「『インパクト』!」

「『魔力槍』!」

「ふんっ」

「「グオオオオォォ」」

 

 僕の盾が魔獣の頭蓋骨を陥没させ、ティーラが槍の石突を突き立てればそこから伸びた魔力の槍が頭頂部をすり抜けて脳を貫き顎へと突き抜けた。なるほど考えたな。あれなら返り血を浴びることはないな。

 問題はキャロ。落下するエネルギーも加わったポールアックスの一撃はあっさりと魔獣の頭を粉砕してしまった。そうなれば当然飛び散る血しぶき。


「全く手がかかるわね。『ウォーターシールド』」


 フィディの放った水の魔法が膜のようになって血しぶきからキャロを護る。お陰で魔獣は全身血まみれになったけどキャロは無事だった。


「ありがとう、フィディ。助かった」

「まったく。気をつけなさいよね」

「うん。感謝感謝」

「ふんっ」


 にこにこと素直に感謝を言うキャロにつんとそっぽを向くフィディ。どうと倒れる魔獣を前になんとも平和な会話だ。と、呑気に見ている場合でも無いか。


「さ、血抜きして内臓抜いて持ち帰れるように加工しよう」

「って、もしかして食べる気なんですか!?」

「そうだよ。村は病気こそ治ったものの1月近くまともに機能してなかったんだ。

 間違いなく食糧不足になってるでしょ」

「それはそうですが、大丈夫なのですか?」

「黒斑病の事ならちょっと待ってね」


 僕は倒れた魔獣の身体に盾を押し当ててそこから魔力を流し込んだ。


「『浸透勁』」


 微弱な振動を伴って全身に僕の魔力が行きわたり体内の魔物を破壊していく。

 黒斑病は通常の病気と違って肉体そのものが腐ってるとか毒になってるとか言う事はないからこれで食べても問題ない状態になる。ただ内臓はボロボロになってるからダメだけど。


「これでよし、っと」

「ってアル。そんな簡単に体内の病原体を破壊出来るなら最初からやればよかったんじゃないの?」

「いやこれ、生きてる人にやったら死んじゃうよ」

「あ、言われてみればそうね」


 残念ながら魔物だけを攻撃出来るとかそんな便利な技ではない。相手が生きてたら多少なりとも魔力がその身に宿っているのでそれが抵抗となって流した魔力と反発する。だからより多くの魔力を流し込まないといけなくなるんだけど、そうすると今度は肉体そのものを破壊することになるだろう。

 話ながらもテキパキと処理を済ませた僕たちは場所を移動することにした。


「この先にもう1カ所、すこし坂になってるけど休める場所があったよ。

 そこなら獣道からも外れてるし魔獣から狙われる心配も少ないと思う」


 これはもう森というかもう山といった方が良いな。少し急な坂道をキャロの先導で危なげなく進んでいく。流石ゴブリンというか1週間近く探索をしてもらってたけど既にこの一帯を熟知しているようだ。

 無事に案内された場所に到着し、てきぱきと野営の準備を進める騎士団の皆を眺めながら僕はキャロに問いかけた。


「キャロ。例の場所はここから近いの?」

「そうだな。ここからだと大体2時間くらいで着くと思う」


 そうか。よくもまぁこんな森、というか山奥に。

 ひとり納得していたらフィディが問いかけて来た。


「結局何があるの?」

「何があったんだ?」

「ってアルも知らないの?」


 うん、実は何かあるだろうとは思ってキャロに探してもらったけどそんなものがあるかまでは分かってない。キャロにはこの山に似合わない異物を探してもらっただけだし。


「あたしが見つけたのは廃墟だ。それも見たところ最近破壊されたっぽい。

 その周囲だけ大地が毒されてたからアルが言ってたので間違いないと思う」

「うん、多分それで合ってると思う。

 まあ要するに今回の黒斑病の発生源的な場所だ」


 黒斑病は自然発生する可能性はあるけど、いずれにしろ発生源が存在する。300年前のあの時だとゾンビ系の魔物が山の上に陣取ってたんだっけっか。なら今回は何が待っているのか。



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