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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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52.森の探索

 僕達は小隊を組んで森に入っていた。草は生い茂り道らしき道も無い。森に不慣れな者であれば1時間と経たずに方向を失い迷子になるだろう。


「アル様、方角は合っているのですか?」


 僕のすぐ前の藪を切り払いながらティーラが聞いてくる。それに頷きながら僕は迷わず前を指し示す。


「大丈夫。森歩きのプロが先行してるしね」

「あら呼んだかしら?」


 僕らの話を聞きつけたフィディから声が聞こえる。だけどフィディは今、隊の最後尾で脱落者が出ないように目を光らせてくれてるので僕が言ってるのは別の人だ。

 ちなみに今回、サラとエンジュには野営陣地に残って貰っている。まだ完全に回復出来てない人もいれば遅れて発症して薬を飲んで寝込んでいる人も居るからね。バーラさんのサポートという意味でも残ってもらった。

 じゃあ誰が先行してるかといえば。と言ってるそばから目の高さに吊り下げられた十字の小枝があった。


「あ、ほら。キャロが残した目印だ」

「これが。ゴブリン王国は森や山岳地帯を中心に発展していると聞きますが、そんな視界の悪い中を自在に動く知恵なのですね」


 一見ただ枝を吊り下げただけの簡単なもので誰にでも作れそうなものだ。でもシンプルながらもこの目印に籠められた情報は意外と多い。


「どうやら目的地はここから半日程だ。休憩に適した場所も近くにあるみたいだから皆頑張って」

「「はいっ」」


 森歩きは慣れてないと疲れるからね。今回一緒に来てくれてる騎士団のみんなはそろそろ休憩が必要だったところだ。

 僕は目印にさらに枝を付け加えてから移動を再開した。


「あれにそれだけの情報があるなんて、ゴブリン侮り難しね」

「へぇ。森の中ならエルフが1番!とは言わないのね」

「そりゃそうよ。

 それにこういう技術はエルフは発達していないのよ」

「どうして?」

「だって必要ないもの」


 ティーラの質問にバッサリ答えるフィディ。必要ない。まぁそうだろうな。


「こういう森の探索の補助が必要なのは誰かしら」

「え?えっと、森に慣れてない人とか子供とか?」

「そうね。そして他種族に比べて長命なエルフは子供が少ないのよ。加えて森には結界もあるから迷いようがないの。

 いざとなったら森の精霊に助けてもらえばいいしね」


 エルフは個の能力が高く長命なのに対し、ゴブリンは人間よりも寿命が僅かに短くそして子沢山だ。その子供たちが森で迷子になったりしても大丈夫なようにとこうした技術が発達していった。それでも5歳になるまでに多くの子供が森に迷い出て戻ってこない。単純に迷子になったのか魔物に襲われてしまったのか。


「ゴブリン族は7歳になってようやく一人前の子供として認められるらしいよ」

「そこは大人じゃないのね」

「うん。大人と認められるのは12歳を過ぎてから。つまりキャロはもう大人だ」

「「キャロっ」」


 休憩が出来そうなすこし開けたところに出たところでキャロが待っていた。約1週間ぶりだけど元気そうでよかった。


「任務ご苦労様。首尾はどう?」

「うむ。アルの言ってたのは多分この先の少し登ったところで間違いなさそうだ。

 それと言われた通り近くの川には渡された薬を流しておいたけど、あれで良かったのか?」

「見てみないと何とも言えないけど、ここまで来る間の森の土壌からは黒斑病は見当たらなかったから大丈夫だと思う」


 キャロには森の奥の調査の他にも薬を撒いて森に残っている黒斑病の病原体を断つ為に動いてもらっていたんだ。以前言った通り黒斑病は大雨によって山の方の瘴気が里まで流れてきて発生しているんだ。つまり病原体となる極小の魔物は川の中に居る。きっと村の子供たちは川遊びをしていて感染したんだろう。

 僕たちの話を聞いたフィディが慌てて割り込んできた。


「ちょっと待ってアル!

 薬ってもしかして毒薬を川に流したって事!?

 そんなことしたら」

「落ち着いてフィディ。僕だって森の土壌を汚染する危険性くらい十分理解してるから。

 キャロに流してもらった薬は毒じゃなくてむしろ栄養剤に近いものだから」

「栄養剤?」


 首を傾げるフィディだけどこればっかりは僕も見てみないとはっきりした事は言えない。なので一緒に来ている騎士団のみんなにはここで休憩してもらって僕らだけで川の様子を見に行くことにした。


「こっちだぞ」


 キャロの案内で向かったのは川幅が1メートルも無い小川、なんだけど鬱蒼と草が茂っていてほとんどその姿が見えない。

 僕たちが近づくと自然と草が動き僕たちを見た。


「え、ドリアードの幼生体の群れ? どうしてこんなところに?」

「あー、予想以上に多いね」

 

 同様に驚いた僕たちだけど驚きの意味が違う。フィディは本来この森ならほとんど居ないはずの草の魔物(ドリアード)が集まっていることに対して驚いているけど、僕はあくまでその多さに驚いた。てっきりまばらに居る程度かなって思ったんだけどな。


「まさか、そんな。これがアルの言ってた栄養剤の効果なの?

 ドリアードなんて生やして何をする気?」

「何をするというかもうしてるというか。

 ドリアードに黒斑病の病原となってる魔物を食べてもらったんだ」


 ドリアードは見た目はどこにでも見かける草なんだけど、魔物というだけあって多少は自由に動ける。その能力は食虫植物って言えば分かりやすいかな。葉や根の部分に触れたモノから魔力を吸い取って栄養に変えてしまうんだ。

 黒斑病の病原体も魔物、つまり微弱ながら魔力を持っているからドリアードからしたら格好の餌という訳だ。問題はその餌が予想以上に多くてこうして大繁殖してしまったんだけど。少し離れたところでは草食動物が自らドリアードに身体をすり合わせて身体に付いた病原体を取ってもらっているのも見える。

 あと今は幼生体だから川辺からほとんど離れられないけど成長したら根を足のように動かして森の中を自由に歩き回ることだろう。


「あまり多くなり過ぎると、それはそれで森の生態系に影響出そうだし、ひと段落した後で伐採しないとね」

「ふりふり……」

「えっ?」


 僕の言葉を聞いてイヤイヤと言うように葉を動かすドリアードの幼生体達。ってもう僕の言葉が分かるまで成長しているのか。予想の数倍成長が早い。いったいどれだけ栄養豊富だったのかそれとも。

 ただそうすると困ったな。こっちの都合で生み出しておいて邪魔になったから捨てるって、意思の無い魔物ならそれで良かったけど、感情を持った生き物だというのならちょっと罪悪感が生まれる。


「かと言ってこのままこの森に残していく訳にもいかないし。

 うーん、せめて領都の近くなら場所も空いてるし僕の目が届く分、管理も出来るんだけど」

「ふりふりふり」

「それでもいいって? そっか」


 なら仕方ない。まだ黒斑病の病原体も滅しきれてないし今すぐとはいかないけど、全てが済んで彼らも成長して移動出来るようになったら僕の薬草畑の隣にでも引っ越してもらおうかな。なんか凄いことになりそうだけど伯爵なら大丈夫だろう。



 

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