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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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5.3人で馬車の旅

 王都を出た僕たちは馬車に乗って西へと向かっていた。あ、僕たちというのは僕とサラ、それと御者台に若い女性騎士が護衛も兼ねて同行してくれている。名前はティーラ。去年騎士団に入隊したばかりだという。


「わ、私如きがこんな大役を仰せつかるとは大変恐悦至極でござりますれば!」


 と、最初あった時からこっちずっとガチガチに緊張した様子だった。聞けば元々は大勢いる護衛の1人位に思っていたらしい。蓋を開ければ自分ひとりで、しかも護衛相手はこの国の王子。何かあれば自分だけでなく家族の首も飛ぶ可能性がある。

 そりゃあ緊張もするか。


「普段通りの話し方でいいよ。それに女子供3人で旅が出来るのは治安が良い証拠。

 騎士団の皆さんが頑張ってくれたお陰なんだろうね」

「はっ。そう言って頂けると騎士団の皆も喜ぶと思います!」

「そしてティーラも実力があって信頼に足る人物だと見込まれたから今回の任を託されたんだと思う。

 僕のお守りなんて楽しくないかもしれないけどよろしく頼むね」

「私如きにそのようなお言葉、勿体ないです」


 ティーラは御者台で馬を操りながら恐縮しっぱなしだ。でもこれじゃあ折角の旅が楽しくない。


「ティーラの所属は王国騎士団になるの?それとも僕の直属の部下?」

「この任を受けた時に今後は王子の言葉に従うようにと指令を受けました。

 なので今の私は王子の騎士です」

「わかった。ではティーラに2つ命令を下す」

「はっ、なんなりと」

「1つは今後僕の事は王子とは呼ばずにアルと呼ぶこと。これはサラもね。

 お忍びとまでは言わないけど出来れば王族としてではなくただの子供として活動したいから極力誰にも言わないで。

 そして2つめは今後自分の事を『私如き』などと卑下することを禁じる。

 僕の大事な部下はどこに出しても恥ずかしくない僕の自慢だ」

「そ、そんな私如きに勿体ない」

「ほらまた。如き禁止! 勿体なくも無いんだよ」

「しかしですね」

「しかしもおかしもない」


 そんな俺達のやり取りを横で聞いていたサラがおかしそうに笑った。


「ふふふっ。ティーラさん無駄よ。王子、アル様は普段素直で聞き分けが良いのにこういう時は頑固なんだから。

 私も同じことをアル様にお仕えし始めてすぐ言われてしまったわ。自分に胸を張れって。

 あの時の王子はまだ3歳にもなってなかったのに」

「たった3歳で!?なんと聡明な。

 城ではツバイク王子が持て囃されていましたが、アル様こそが神童だったのですね」

「いや僕はそんな大したものじゃないって」

「アル様。部下に自分を卑下するなと仰るならご自身にもそうして頂けないでしょうか。

 私達にとってアル様は自慢の主なのですから」

「むぅ」

「ふふっ、アル様これは一本取られましたね」


 自分が言った言葉をそのまま言い返されてしまった。こればかりは否定のしようがないな。なにせ否定すればさっきの自分の言葉も否定することになるのだから。

 そんな僕らの旅は目的地まで平穏無事に、とはいかないらしい。


「ティーラ、馬車を止めて」

「え、はい。なにかありましたか?」

「魔物」


 僕の言葉を合図にした訳じゃないだろうけど、前方の草むらから2足歩行の狼、ウェアウルフが4体姿を現した。ウェアウルフは魔物の中では比較的オーソドックスな魔物で、まぁどこにでも居る。普通の狼よりも頭が回る分、街道に近づくことはあまりない筈なんだけど、餌を求めてやってきた感じかな。

 ティーラは素早く右手に槍を、左手に盾を装着して馬車を降りた。


「アル様達はそのまま馬車の中でお待ちください」

「ティーラ、勝てる?」

「楽勝とまでは行きませんが問題はありません」

「そっか。ならちょっとこっちに来て」

「?」


 僕の呼びかけに急ぎ近づいてきたティーラに身長差があるのでちょっと屈んでもらって、そのおでこにそっと唇を当てた。

 すると驚きで顔を赤くしつつバッと跳び退るティーラ。


「なっ」

「おまじない。『君に盾の加護がありますように』」

「なっっ!?」


 僕が祝詞を唱えれば一瞬淡い光がティーラを包み込み、ティーラは再び驚くことになった。


「アル様、今のは一体……」

「おまじないだよ。

 それよりもティーラ。僕からの命令を下す。

 怪我1つなくあの魔物どもを蹴散らせ」

「はっ。仰せなままに!」


 ティーラはしっかりと臣下の礼を取った直後、突風のように魔物たちに突撃していった。あの様子なら何の心配もいらないな。


「あの、アル様……」

「あ、サラもして欲しい?仕方ないなぁ」

「そうではなくて、いえ、お願いします」


 そう言ってサラは僕の前で膝をつき両手を組んでってなんで祈りのポーズ?まぁ問題は無いんだけど。

 サラにも同じように加護を与えれば、サラはほんのり蒸気した顔で自分を見回して納得したように頷いた。


「これは、アル様の魔力で全身を包み込んだのですね」

「うん。まあ気休め程度の効果しかないんだけどね」

「え、いえこれはそんな軟なものじゃ」

「そうだ。お馬さんだけ仲間外れは良くないよね?」

「ヒヒンッ」


 馬車を引いてくれているお馬さんにも加護を付けてみた。

 といっても、背中に乗って鬣を撫でただけだ。唇を当てた方が効果は高いんだけど必ずしもそうしないといけない訳でもないからね。

 そうしている間にティーラの方は終わったようだ。


「お疲れ様。ティーラ」

「アル様のお陰で汗1つかきませんでした。

 凄いですね。あれが噂に聞く盾の王家秘伝の加護の魔法ですか」

「え、そんなのがあるの?全然知らなかったんだけど」

「ええっ、知らずにやられていたのですか!?」

「いやだって、秘伝も何もごく一般的なものだよ?魔法の知識があれば誰でも出来るよね」

「……」

「……アル様。私も自分自身になら多少の守りを固める魔法は使えます。

 ですが他人に対して、しかもあの強度で加護を与えるのは熟練の神官か魔導士だけです」

「そ、そうだったんだ」


 昔はこれくらい当たり前、それこそ5歳児でも扱えるというか扱えないと生きていけなかったんだけど。でも考え方によってはそれくらい平和な時代になったってことだよな。


「お忍びの間は人前では避けた方が良いでしょうね」

「うん。気を付けるよ」

「では馬車を動かします。って、うおぉぉ、どうした馬。なに超元気になってるんだ!?」

「あーー。念のため馬車自体にも加護を付けておこうか」


 そうして僕らは5割増しで元気になったお馬さんに引かれて街道を爆走することになった。



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