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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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41.みんなで朝練

 一夜明けて、と言ってもまだ日の出前だけど。僕はベッドから出て朝の支度を始める。すると見計らったようにドアがノックされてサラが入って来た。


「おはようございます。アル様」

「おはようサラ。あ、なにかあった?」


 いつもの挨拶をしたところで若干の違和感を感じたので聞いてみた。するとサラは少しだけ考えた素振りを見せた後、静かに答えた。


「はい。その、エンジュさんが既に起きているようです」

「エンジュが? あ、そうか」


 元は召使いというか奴隷だったエンジュだ。以前からこの時間には起きて朝の支度とかをさせられていたんだろう。

 さて、どうするか。まだ寝てても良いんだぞと言ってあげるのは簡単だ。でもそれが彼女の為になるかと言えばそうではないだろう。それはただの過保護だ。


「キャロとフィディは?」

「まだ寝ているようです」

「ならちょっと可愛そうだけど起こして。一緒に朝練に行こう」

「ふふっ、畏まりました」


 サラにしては珍しくちょっと悪戯っぽい笑み。これは昨日の事を根に持ってるな。良いんだけど。

 夜明け前の訓練場はいつもながら僕たちが一番乗りである。


「みんなおはよう」

「おはようございます。ご主人様」

「うぃ。こんな朝早くにどうしたんだ?」

「うぅ~。寝不足はお肌の天敵なのに~」


 三者三様。言うに及ばずエンジュだけはシャキッとしてる。

 ちなみにフィディは昨夜の少女モードのままだ。多分ここにいる間は幼女の姿に変身する必要はないって考えたんだろうな。


「ここで暮らす間は朝は騎士団の朝練に混ぜてもらうからね」

「あさ、れん?」

「あっ、朝練……つまり修行ですか!」

「えぇ、私は魔法専門なんだけど」

「魔法使いだって体力は居るもの。頑張って」


 エンジュは朝練と聞いてピンと来てないようだけど、逆にキャロは一気に覚醒してテンションが上がってる。エンジュは億劫そうだけど残念逃がしてはあげない。

 そうして僕たちが柔軟運動をしていれば続々と騎士団の皆がやってくる。


「おはようございます!」

「おう、朝から元気だなアル坊。って、その子たちはどうしたんだ?」

「おいおいアル坊。どこからこんな綺麗所を集めてきたんだ」


 あ、そっか。3人の事はまだ騎士団には言ってなかった。


「昨日から預かることになった子達で、今日から朝練に混ぜてもらいますけど良いですよね。

 しばらくは皆のペースに付いて来れないと思うので僕とサラで面倒見ますから」

「ああ、まぁ良いんじゃないか?

 お前ら分かってるとは思うが変な気を起こして手を出そうするなよ」

「「はいっ!」」


 以前にも僕という実績があるし、僕が責任をもって面倒を見るのであれば問題ないようだ。

 という訳で、まずは毎朝恒例のランニングなんだけど。


「みんな自分のペースで良いから10周頑張って走ってね」

「が、がんばります」

「よし、やっちゃります!」

「はぁ、仕方ないわねぇ」


 気合は十分、なんだけど。3人の中で一番体力があるのはやっぱりキャロだ。年齢的にはサラと同じくらいだと思うけど、ゴブリンは肉体的に発達してるし、多分以前からしっかり身体を動かしてたんだと思う。今の騎士団のランニングにも何とか食らいついて行ってる。

 続いて速いのはフィディだ。口ではなんだかんだと言ってるものの、多少遅れ気味ではあるけどちゃんと走ってる。もっとも、体力の代わりに魔力強化で身体を動かしてる感じだ。魔術師としては間違っていないけど魔力が少なかったり循環効率が悪いとすぐに魔力切れになるから注意だ。その点フィディは……60点かな。及第点ぎりぎりだ。あれじゃあ10周終わる頃にはかなり疲れているだろう。ちゃんと体力も付けて欲しいところなんだけど。

 そして。分かっていたけどエンジュは全くと言って良い程みんなに付いて行けてない。2年前に僕が初めて訓練に参加させてもらった時と変わらないくらいだ。


「サラはフィディを見ていてあげて。

 多分大丈夫だとは思うけど、あのままじゃ魔力切れになって倒れるかもだから」

「はい、畏まりました」


 最後尾でエンジュと並走していた僕らからサラが風のように飛び出して行ってすぐにフィディに追いついた。すると何事か話してたかと思えばフィディの速度がガクンと落ちた。あれは魔力強化をギリギリまで弱めたな。かなり辛そうだけど、あの方が体力付くし頑張ってもらおう。


「あの、すみません。ご主人様」


 隣で既にバテバテの様子のエンジュ。それも当然だ。エンジュは奴隷として働かされていたと言っても日常的に走ったりはしていなかっただろう。肉体的に言ってもまだまだ成長途中だ。


「謝らなくていいよ。こうなるだろうとは最初から分かっていたから」

「は、はい」

「でも将来的には並んで走れるようになって欲しい」

「はい、がんばり、ます」


 結局エンジュは5周走ったところで動けなくなって訓練所の端で倒れている。その横では8周したところで体力切れになったフィディもぐったりしている。キャロだけは何とか10周走り終えて今は剣の素振りをしている。

 今の所はキャロは自由にさせて大丈夫そうだな。周りのみんなもゴブリン族とは何度か会ったことがあるのか特に忌避感なく話しかけてくれてるし。


「エンジュ。走り終えたら水を1杯飲んで整理運動だよ」

「整理?」

「疲れた足を軽く伸ばしたり解したりするんだ。

 ついでに治癒魔法を掛けてあげて代謝をアップさせて成長を促す」

「ふぉ~~」


 治癒魔法を掛けながら足を解してあげればエンジュから気持ちよさそうな声が漏れた。

 と、横を見ればフィディがちょっと羨ましそうに見てるな。


「一緒にフィディもやるよ」

「え、私も?」

「途中からサラに何か言われて魔力強化ほとんど切ってたでしょ。

 このまま放置したら明日は死ぬほど筋肉痛だよ」

「わ、分かったわよ。やるわよ。でも私治癒魔法は使えないから掛けて」

「仕方ないなぁ」


 うーん、フィディの場合、魔法には精通してるんだしコツさえ教えれば治癒魔法も使えるようになるんじゃないだろうか。

 ともかく請われるままにフィディにも治癒魔法を掛けてあげる。するとフィディの口からはちょっと色気のある声が漏れた。


「んん~。これヤバいわね。飴と鞭って言うのかしら。

 この極楽気分が味わえるならちょっとくらい頑張って走っても良いかなって思えるわね」


 いやそんな効果までは考えてなかったけど。でもま、頑張ってくれるならいいか。



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