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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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40.夜中の来訪者

 伯爵たちとの夕食を終えて戻れば皆は寝ていると報告を受けた。フィディはともかく残りの2人は満足な食事も睡眠も取れてなかっただろうし、お腹いっぱいになって眠くなってしまったんだろう。なら僕も自分の部屋に戻って今日は休むことにしようかな。

 そして夜も更けて空に月が輝く頃。僕の部屋にお客さんが来た。月明かりに照らされた後ろ姿は15、6歳の少女のもの。とは言ってもサラやティーラではないしこの屋敷のメイドでもない。

 その少女は音もなく僕のベッドに近づき。


「……夜這い、かな?」

「っ!?」


 僕に声を掛けられて慌てて振り返りつつその場を飛び退いたのは、綺麗な黒髪をなびかせて特徴的な耳を持つ少女。この地にその特徴を持つ人物は2人といない。間違いなくフィディだろうな。


「こんばんわ、フィディ。こんな夜更けにどうしたの?」

「……驚かないのね。それとも最初から分かっていたのかしら」

「それは今夜の訪問についてかな」

「ふふっ、分かってるくせに」


 お風呂場の時とはまた違ったちょっと暗い笑みを浮かべるフィディ。これはこれで似合ってるんだけど僕としては前の時の方が好きかな。まあそれはいっか。

 それよりも今は彼女の質問に答えてあげる方が先だろう。


「エルフの魔法の中には年齢を偽るものがあるのは知ってたよ」

「そうなのね、やっぱり」

「それでフィディの本来の姿はこっちが正しいの?」

「そうよ。親元を離れて旅をする際にこの姿だとどうしても呼んでも居ない男どもが寄って来て大変なのよ」

「幼女の姿もそれはそれで色々あると思うけど」

「慣れれば幾らでもやりようはあるわ」


 ドヤ顔のフィディは大きくなっても変わらないようだ。人は見た目じゃないって事だね。


「はぁ、でも寝込みに魅了の魔法を掛ければ行けるかなって思ったんだけど甘かったわね」

「言う割にあんまり悔しそうじゃないね」

「まあ何となく無理かなって思ってたし。それにメインはふたりっきりで話したいから来たの。これは本当よ」


 その言葉には多分嘘はない。フィディからは一切悪意の類は感じないし。魅了の魔法も掛かったら面白いな、くらいの感覚だったんだと思う。

 でも、あーそうか。


「えっと、ふたりきりが良い?」

「え?えぇ。そうね」

「だってサラ。大丈夫だから席を外して」

「……畏まりました」

「きゃっ」


 自分の影からスッと現れたサラを見て再び驚いて飛び退くフィディ。うんうん、サラもしっかりとグントから技を受け継いでくれてるみたいで何よりだ。


「ちょっと。あのティーラと良い、彼女と良い、あなたの周りには化物しか居ないのかしら!?」

「ふふっ。これくらいはメイドの嗜みです。

 それではアル様。何かありましたらいつでもお呼びください」

「うん、ありがと」


 音もなく退室していくサラを見送り、フィディはようやく人心地って感じかな。


「じゃあ改めてかな」

「そうね。私がここに来た目的は、1つは単純にあなたが何者かを知りたいってのもあったんだけど、どうやら今の私では荷が重すぎるみたいだからそれは良いわ。

 私の本来の旅の目的はあの地下室でも少し話したけど人を探してるの。

 出来ればそれを手伝ってほしいんだけど」

「確か顔も名前も分からないんだっけ」

「ええ」

「何か手掛かりは無いの?」

「あるわ。1つはこの盾の王国かその近隣に住んでいるということ」

「いや広すぎ」


 国の面積としては盾の王国は小さい方だけど、それでも幾つも街や村があるし、近隣つまり周辺諸国まで含めたら全部回るだけで何年掛かることか。それにフィディがいつから探してるかは知らないけど、その間に別の国に移動してる可能性もある。

 1つはってことは他にも何かあるのだろう。僕は続きを促した。


「2つめに私と縁がある者、らしいのよ。だからきっと会えば分かるって」

「フィディと? なら探してる相手もエルフなんじゃないの?」

「それは違うと思うわ。

 だってこの依頼をしてきたのは森の大精霊。つまり相手がエルフなら私に依頼なんかせずに直接話しかけられるはずだもの」

「エルフならそっか」


 エルフは別名『森の精霊人』とも呼ばれていて、その多くが生まれながらに世界中に存在する精霊たちと言葉を交わせるという。精霊達も独自のネットワークを持っているらしく大陸の北の端で起きた事件が翌日には南の端の精霊が知っていると言われる程だ。

 そんな精霊たちにとって自分たちと交流のあるエルフを見つけ出すことくらい朝飯前だろう。つまり探し人はエルフではないし、同様に何種族かいる『○○の精霊人』と呼ばれる者たちではないことになる。


「そして最後の手掛かりは大精霊がその人の力になってあげて欲しい言う程の相手なの。

 きっと人間の間でもかなりの有名人に違いないわ。

 そう、考えたんだけどね」


 はぁ、とため息をついてベッドに腰を下ろすフィディ。

 まぁ言いたい事は分かる気がする。なにせ近年、盾の王国で有名人が輩出されたって噂は聞いたことが無い。この辺境のバックラー領だから聞こえてこないって可能性も無くは無いけど、それでも普通、商人を通じて何らかの噂話は流れて来るものだ。

 近隣諸国にしてもこの数年は小競り合いくらいの戦争はあるけど大きなものは無い。昔から手っ取り早く有名人が現れるのは戦争で活躍した将軍であったり、強大な魔物を討伐した英雄であったりだけど、どちらもない。


「つまり手詰まりって訳。それでも私なりに幾つかの街を周ってみたんだけど見つからなくて。

 最後の手段としてああやって悪い奴に捕まってみたのよ」


 そんな凄い人なら自分の事を助けに来てくれるだろうって? また無茶な事を。


「でも助けに来たのはここの貴族と縁があるだけの普通の子供だったと」

「普通、ではなかったけど。でも別に私と何か縁がある訳では無いのは確かよねぇ」

「うん。僕もフィディに会ったのは今日が初めてだし」


 生まれてこの方エルフに会ったのは今日が初めてだ。前世、つまり200年前はと言えば確かにエルフにあった記憶はあるけど、逆にフィディがその頃生まれていたとは考えられない。


「それで、この後はどうするの?

 その人を探しにまた旅に出たいって言うなら止めないけど」

「それなんだけど、しばらくはここに滞在させてもらっても良いかしら。

 もちろんタダでとは言わないわ。

 これでも魔法は得意だし相応の仕事はするわ」

「ふむ」


 よく考えなくてもフィディが居てくれるメリットは十分にあったりする。ここの騎士団は魔法もある程度は使えるけど専門的に学んでる人ってほとんど居ないんだ。だからきっとフィディから魔法の基礎を学び直すことで戦力の強化を図れると思う。それと攻撃魔法を防ぐ訓練ももう1段階上のものが出来るようになるだろう。ただその為には。


「伝えてなかった最後の条件」

「あ、ここで出てくるのね。あの時3つって言ったのに2つしか言ってくれないからどうしたのかと思ってたのよ」

「まぁ言わなくても大丈夫かなって思ってたんだけど一応ね。

 僕や僕の大切な人達に危害を加えないことは当たり前として、ここにいる間はお互いに幸せになるように努力すること」

「ちょっと曖昧な言い回しが気になるけど、分かったわ」


 確かにね。幸せの定義なんて人それぞれだし、努力っていうのもどこまですればいいか分からないし。ぶっちゃけ「努力しました。でもダメでした」でも通ってしまうから。

 だけどそこは特に何かを強制するのではなく自分で考えて欲しい。下手に強制すると幸せにするための手段を狭めてしまう事になりかねないから。


「じゃあこれ以上居座ってあなたを寝不足にさせたり扉の外にいるサラに不興を買う前に私は部屋に戻って寝るわ」

「うん、お休み」


 そうしてフィディは静かに部屋を出て行った。

 さて、これは明日から賑やかになりそうだな。



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