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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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38.帰ったらお風呂

 領館に入れば少しも経たずにこの屋敷の執事長が出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、アル様」

「ただ今戻りました。伯爵は執務室ですか? お伝えしたい事があるのですが」

「それは、そのお嬢様方の件でしょうか」


 執事長の視線がチラリと僕の周りに立っている子たちに向けられる。あ、ちなみにフィディは屋敷に入る前に僕の背中から降りている。


「そうですね。僕の客人ということでまずは今晩泊めてあげて欲しいのですが」

「畏まりました。お部屋の準備と夕食と、あと湯浴みの用意もさせましょう」

「よろしくお願いします」


 フィディはともかくキャロは地下の独房に閉じ込められていたんだし、エンジュも真面な生活を送れていたかといえばそうでもない。

 要するに執事長からするとちょっと衛生面に問題があるというか臭うのだろう。


「アル様もですからね。伯爵には私から先にお伝えしておきます」

「あれ?」


 言われて自分の服の臭いを嗅いでみると、なるほど。フィディの部屋で焚かれていたお香の匂いが付いてるし、その後のボヤ騒ぎで煙も浴びて、更には白狼とも結構触れ合ってたから獣臭いかも。

 そんな訳でこのまま報告に行っても失礼だろうし急ぐ訳でもないので皆でお風呂へ。ここのお風呂は広いから皆で一緒に入れるんだ。


「アル様、ちょっと目を閉じててくださいね」


 ざばーっと桶のお湯で僕の頭を流したサラは慣れた手つきでシャンプーを使って髪の毛を洗ってくれる。このシャンプーって言うのは200年前には無かった代物だ。あの頃はもっぱら水で洗うだけで、魔法が無ければお湯を使うのも贅沢だったからなぁ。

 ちなみに今は僕の隣ではフィディがエンジュに髪を洗ってもらっていて、反対側ではキャロがティーラに洗ってもらっている。


「かゆいところ、ない?」

「うむ。良きにはからえ」

「ってフィディは何で偉そうなんだろうね」


 お世話好き、というか誰かの世話をするのが当たり前になっているエンジュが甲斐甲斐しくフィディの髪を洗っているのは見ていて微笑ましい。


「ぬあ~。こんなにお湯を贅沢に使えるなんて凄いな」


 ゴブリンには余りお風呂に入る習慣がないのか、キャロは凄くはしゃいでる。


「ゴブリンは余りお風呂入らないの?」

「お湯を溜めるのが大変だから。

 あたし達は魔法下手だし、お風呂は月に一度の贅沢!」

「そっか。ならここにいる間は毎日贅沢出来るわね」

「毎日!? アルは実は王様だったのか!」


 一応王子ではあるので当たらずとも遠からず? もっとも、今の所王子らしい事なんて何もできてないんだけど。毎日お風呂に入れるのだって伯爵の力だし。僕はせいぜいお湯を溜める為の魔石に魔力を籠めるお手伝いをしてるだけ。


「別に僕が凄い訳じゃないんだよ。

 言えばこの屋敷の主、バックラー伯爵が凄いんだ」

「ちなみにアル様が来る前はお風呂は3日に1回でした」

「え、そうなの?」

「はい。魔石に魔力を溜めるのも楽ではありませんから」

「おぉぉ。やっぱりアルは凄いんだな。格好いい。偉い」


 サラが余計な事を言うからキャロの僕を見る目が一層キラキラしてる気がする。

 一通り洗って貰ったら攻守交替。今度は僕がサラの髪を洗ってあげる。ここに来た当初は抵抗されたけど、今では大人しくなってくれた。


「メイドがご主人様に髪を洗って頂くというのはやはり変だと思うのですけど」

「良いんだよ。僕がやりたいんだから。

 主人の我儘を聞くのもメイドの仕事だと思えばいいんだよ。

 それに、嫌じゃあないんでしょ?」

「それは、まぁはい。アル様は髪を洗うのお上手ですし。

 以前より髪に艶が出た気がするんですよね」


 どこかうっとりするように自分の髪の毛を触りながらサラは言った。うん、サラの髪は長くて綺麗だからね。出来ればずっと綺麗なままでいて欲しいな。

 なんて思ってたらフィディから白い目を向けられた。


「いや、そりゃそうでしょ。そんな治癒魔法かけまくってたら傷んだ髪も元気になるわ。

 アルは人間なのよね。なら見た目通りの年齢の子供でしょ?

 魔力量だって特別多いって感じはしないし。なのに何でそんなに魔力の扱いが上手なのかしら」


 フィディの言う通り、僕の体内の魔力量はそこまで多いって訳じゃない。子供の身体ではどうしても容量に限界があるからね。それでも圧縮率を上げることで一般の人の数倍はあるけど。

 普通の子供だったら多分、髪を洗い終わる頃には魔力切れになっちゃうんじゃないかな。僕がそうならないのは、その圧縮率もあるけど、なにより上手に魔力を循環させているから。お陰でこれくらいの魔法ならほとんど魔力を消費せずに使い続けることが出来る。


「まあ、この2年間頑張ったからね」

「に、2年ですって!?」

「それより、洗い終わったら湯船に浸かろう」

「あ。ちょっと待ちなさいよ」


 一番乗りで湯船に浸かれば慌ててフィディ達も追いかけて来た。フィディは勢いよく湯船に入るけど、キャロとエンジュは恐る恐ると言った感じだ。多分こんなに大きなお風呂には慣れていないんだろうね。入ってしまえば途端に顔が緩んだ。


「ふぁぁ~。いい湯だ。極楽。快適。天国だ」

「うぅ、私こんな贅沢、良いんでしょうか」

「良いんじゃない? 何か問題があったらアルのせいってことで」


 フィディが何か適当な事言ってるし。まぁ良いんだけど。


「ってキャロはお風呂で泳がないの。

 エンジュはちょっとふらふらしてる。慣れないお風呂でのぼせてるんだ。ティーラお願い」


 のぼせたエンジュをティーラが抱き上げて脱衣所に連れて行き、キャロはサラに首根っこ掴まれて大人しくなって、そんな様子を見たフィディがきゃらきゃら笑ってる。

 普段はサラ(と時々ティーラ)と入ってるお風呂だけど、こうして大勢で入ると賑やかで楽しいな。



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