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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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31.薬草で資金調達

 さて、午前の勉強を終えた僕は以前だったら街の視察やゴン達に会いに行ったりしていたけど、今はそれ以外にもやっていることがある。それは何かというと1つは畑だ。領都から少し離れたところにある手付かずの荒れ地を開墾して農園を造った。


「こんにちは~」

「いらっしゃいませ、アル様!」

「お忙しい所ようこそ」


 僕を出迎えてくれたのは、これまた騎士団員の兄弟夫婦のグラスとエルバだ。元々実家も農家だったらしいけど、そっちは長男夫婦が継いでいるのでどうしようかと話していたのを聞きつけて僕がスカウトした。


「何か困っている事は無い?」

「今の所はなにも。アル様の用意して下さった結界石のお陰で魔物も寄り付きませんし。

 まぁもっとも、食べれるものは私達が食べる分を少し育てているだけですからね」

「でもこんな森に入れば幾らでも手に入るような草ばかり育ててるのに、こんなにお金を頂いて良いのでしょうか」

「うん、いいのいいの。ふたりとも丹精込めて育ててくれてるんだから正当な対価だよ」


 答えながら畑を見渡せば、今日も青々と草が生い茂っている。

 もちろんここで育てているのはただの草ではない。どれもこれもが薬草としての効能があるものばかりだ。グラス達が言う通り、森には居れば十分な量が採れるものばかりだけど、どうしても野生のものは品質が安定しないからね。それに採取を素人にお願いすると傷んだ状態で納品されたりして価値が下がってしまう。その点グラス達なら安心だ。


「こちらが先週来てくださった時から出来た分です」

「どれどれ。うんうん。良いね。生育具合、採取の仕方、その後の乾燥のさせ方に至るまで文句なしだ。これなら良い薬が出来そうだよ。

 じゃあこれが前回の分の代金ね」

「「こんなに!?」」


 僕が取り出した銀貨が詰まった袋を見て驚くふたり。まぁ普通の農家だったら1か月分近い収益だからね。

 ちなみに硬貨の勝ちは銅貨を1とした時にこんな感じだ。


 銅貨 :1

 大銅貨:10

 銀貨 :1000

 大銀貨:100000

 金貨 :1000000


 大銅貨が1枚あれば小さいパンが1つ買えるくらいだ。それと一般的に流通してるのは銀貨までで、大銀貨以上は商人や貴族が主に使ってる。小さな商店で大銀貨で支払いをしようとすると物凄く嫌な顔をされることだろう。


「前にも言ったけど、相手が誰であってもお金を見せびらかすような真似はしないこと。無駄使いはしないこと。賭け事はしないこと。

 いいね?」

「はい。心得ております」

「もし破ったら翌日には強盗が押し掛けてきてふたりとも殺されちゃうから」

「は、はい」


 これは脅しでも何でもなくて事実だ。比較的治安の良いバックラー伯爵領であっても悪意ある人は居る。また普段善良な人でもお金に目が眩むということもあり得る。そんなところに郊外にある農家が大金を持っているなんて噂が立てば、危険なのは言うまでもない。


「それに、この先ふたりは色々と入り用でしょ?」

「へ?」

「……あっ」


 夫のグラスはピンと来なかったみたいだけど妻のエルバは顔を赤くして髪を弄っている。聞いた話では実家にいた頃は生活に余裕も無くてなかなか家族を増やそうという話にはならなかったらしい。だけど今後はお金の心配はする必要無くなるはずだから、ね。

 ま、子供の僕があまり深入りすべき話題じゃないし後はふたりに任せよう。それより折角の薬草を早く加工してしまおう。


「じゃあ頑張ってね」


 それだけ言って僕は農園を後にした。

 次は街に戻って西区へ。まぁ西は西でもゴン達が住んでる南西ではなく北西側だ。こっちの地区はまだ昼過ぎだというのに閑散としている。いやむしろこの時間だからまだ閑散としてると言うべきか。

 この辺りは飲み屋などが多いからね。夕方から営業開始ってお店も多い。


「私としてはアル様にはあまりこの辺りに足を踏み入れて欲しく無いのですけど」

「僕もサラやティーラにはひとりで来てほしくはないかな」


 なにせこの時間でも酔っ払いがちらほら居るのがこの地区だ。

 暴力という意味ではそれほど心配はないけど性暴力という意味ではちょっと心配だし、売春の斡旋という意味ならかなり心配だ。若干だけど怪しい薬も流通してたりするしね。

 そんなところに何をしに来たかと言えば、ここにお目当てのお店があるんだ。


「こんにちは~」

「おやおや、良く来たねぇ~」


 僕らを迎えたのはバーラさん。この地区の元締めをしている方で齢80を超えたお姉さん。

 そう、お姉さんだ。ここでババアとか言ったらもれなく包丁が飛んでくる。


「おや今何か変な事を考えなかったかい?」

「いえいえいえ」


 どこからともなく取り出した包丁を構えてニヤリと笑う姿はなかなかに貫禄がある。


「くっ、まったく反応出来ませんでした」

「私も。まだまだですね」


 それを見てサラとティーラが謎の敗北感に襲われている。

 まあそれは良いとして。僕は担いできた薬草の詰まった袋をバーラさんに渡す。


「今日もいつものようにお願いしていいですか?」

「あいよ。

 こっちとしても貰うものは貰ってるし、日中暇してた娘達の良い資金源になってくれてるよ」


 バーラさんは今でこそ夜の街の元締めをしているけど、元は腕のいい薬師だったらしい。そこに目を付けた僕はこうして薬草を持ち込み手軽な丸薬や軟膏への加工をお願いすることにしたんだ。

 最初は勿論渋られたけど、手の空いている娘達に調合の仕方を伝えることでその娘達が将来ここで働けなくなってもやって行けるようになる事や、ちゃんと成果に見合ったお金を渡す事。そしてなにより夜のお店でありがちな病気に対する治療薬と予防薬を安価で提供することを伝えたら、ようやく首を縦に振ってくれた。

 それでも1か月目とかは本当に僕がお金を支払うのか怪しんでいたし、提供した薬も効果があるのか疑っていたけど、実際に既に病気になっていた娘が元気になったのを見て信用してもらえるようになった。

 そして出来た薬はバックラー伯爵領で流通させるのはもちろん、草の皆に持たせて方々で売り捌いて活動資金にしてもらっている。

 今の時代、怪我や病気の治療と言ったら魔法が主流だ。でも治療魔法はそれなりに発達しているけど使える人は限られているし、その人達に治療を頼むと高額な請求をされる場合が多い。

 対して僕の作ってもらっている薬なら回復まで若干の時間はかかるものの安価で常時持ち運べるので魔物ハンターの人達や行商人に重宝されている。多少お金に余裕のある家庭なら常備薬として1つ2つ取っておくことも出来る。

 つまりうまい具合に喧嘩せずにやっていけてるってことだ。


「あたしとしては、これで後はあんたたち3人があたしの店に立ってくれたら文句ないんだけどね」

「あはは、それはお断りしてるじゃないですか。

 じゃあまた薬が出来た頃に来ますね」


 バーラさんの所に顔を出すと毎回これを言うんだから困ったものだ。というか3人て僕も勘定に入ってるみたいなんだよね。僕男なんだけど。



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