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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第2章:騙られた救いの聖者
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30.世界の宗教

 朝食を終えた僕は騎士団の皆と別れて、軽く汗を拭いて着替えてから勉強部屋へ。これでも王子なので学ばないと行けないことは沢山あるのだ。


「おはようございます、王子」

「おはようございます」

「本日は宗教についてお話したいと思います」

「宗教、ですか。神様ではなく」

「そうですね。神学についてはまた後日いたしましょう」


 神学と宗教。それは関係はあるけど全く別の話だったりする。何せその教義に神様がほぼ出てこない宗派もあるから。


「王子は我らが盾の国の国教はご存知ですか?」

「アルフィリア教ですね」

「そうですね。他の宗教は分かりますか?」

「えっと、ユイダヤ教、キリアム教、イスマン教、ドルック教、ポルカラン教、ミーア教……」

「も、もう結構です」


 あれ。まだあと20くらいはあったのに。

 宗教っていうのは国どころか部族ごとに違うから、多分調べたら100くらいはあるんじゃないかな。

 僕の言葉を聞いて何故かジト目になってる先生はコホンと咳払いしてから話し始めた。


「王子には聞き方が悪かったようですね。

 現在の世界の3大宗教といえば、アルフィリア教、新アルフィリア教、ユイダヤ教になります」

「新、アルフィリア教?」


 なんだ、それ。少なくとも200年前には無かった筈だけど。説明を聞けばなるほど、190年前、つまり邪神龍が討伐され、更にその後の戦乱で英雄達が死んだ後に出来た宗教らしい。


「アルフィリア教と新アルフィリア教は名前こそ似ていますが教義の内容は全く違いますのでご注意下さい」

「その新アルフィリア教について教えて貰えますか?」

「はい。本人達は300年前に端を発するアルフィリア教を現代に合わせて刷新したもので、始まりの女神フィリスに祈りを捧げることが教義の本質だと言っています」

「はぁ」


 えっと、何処をどうしたらそんな教義になるんだろう。

 アルフィリア教は別に女神フィリスを信奉してないんだけど。名前が似てるのもただの偶然だし。更に言えば別にどの神様も祀ってないよ。


「もっとも、私に言わせれば新教はただの金集めの為の集団です」

「ぶっちゃけますね。なにやら聞けば聞くほどアルフィリア教とは何もかも違いますね」


 先生もこの新教にはご立腹のようだ。アルフィリアと付けるのも嫌っぽい。

 そりゃあね。言ってることが何もかもアルフィリア教を冒涜してるとしか思えない。女神のこともそうだし、僕の知ってるアルフィリア教ならお布施の要求をすることはあり得ない。むしろ困ってる人に無償で手を差し伸ばすのがアルフィリア教だ。


「邪教認定は出来ないの?」

「それが市民の中には本来のアルフィリア教と混同している人も居てなかなか難しいようです」

「そうですか」


 なるほど、確かにちゃんと理解してない人からしたら名前が似てれば内容も同じようなものだろうと考える人は居そうだ。

 学の有りそうな人が口八丁で変わったんだと告げれば特に考えずに信じてしまうだろう。

 そして彼らの考えそうなことは幾つか思い当たる。


「先生、すみませんが今日の講義はここまでにさせてください。続きはまた明日」

「あら、ご気分が悪くなられましたか?」

「いえ、急ぎの仕事が出来ました」


 先生に断りを入れてその場を後にした僕は急ぎ自室へと戻った。

 もちろん僕の後にはサラが付いて来ている。


「アル様、どうなさるお積もりですか?」

「まずは父上に手紙を出す」


 今からなら今日中に出れるだろう。ただ多分父上も何かしら手を打っているか、打てずに困ってるのだと思うので、今更僕の言葉で何かが変わるかは怪しいところだ。それでも出来ることはやっておこう。

 僕は書き上げた手紙にしっかりと封をして部屋の隅に投げた。


「ガント。特別急がないけど確実に父上の手に渡る様にお願い」

「はっ。確かに」


 応えると共に空中でスッと消える手紙。相変わらず見事な隠形だ。


「それと草に新アルフィリア教を監視するように伝えて。

 特に司祭以上の幹部と出資している貴族や商人の情報が欲しい」

「畏まりました」


 金集めをする者たちがどう動くかなんてことは今も昔も大して変わってはいないだろうというのが僕の予想だ。いつの時代も賄賂を使って貴族に取り入り、貴族もあの手この手を使って富を蓄え無駄に贅沢をしたがるのは変わらない。だから教義に問題があると分かっていても中々排除できないのだろう。はっきり言ってそういう欲と無縁なバックラー伯爵が特殊なんだと思う。

 だからまずは問題のある人物の洗い出しを進めておこう。

 ガントに伝えた草というのは僕直属の諜報員達のことだ。この2年の間にガント達にも手伝ってもらってまずは各地で情報収集を行ってくれる仲間を集めた。この仲間は別に暗殺やスパイを目的としている訳じゃないからそう言った特殊技能は必要ない。代わりに僕を裏切らない事というのが重要で、そんな簡単に集まらないだろうなと最初は思っていた。

 だけど、ティース団長に相談してみたところ、騎士団員の兄弟ならどうかと何人も紹介してもらい、軽い面談の後、その多くを雇うことにした。今では国内を中心に近隣諸外国にも派遣して主に各地の情報を伝えてもらっている。


「それとアル様。一つご報告があります」

「なんだろう?」

「ちょうど最近、そこの司祭を名乗る者がこの街に来ております」

「それは、渡りに船というものだね」


 噂だけじゃなく実際に会ってみないとどこまで危険な団体かは測れない部分もあるから丁度いいね。



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