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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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26.鬼退治

 男が薬を飲んだ瞬間。彼を中心に爆発的に魔力が膨らみ、同時に彼の肉体も元の1.5倍くらいになった。身長も2メートルを優に超えている。


『どうだ。これこそが本当の鬼人化だ』


 その目には確かに理性の光が残っていた。どうやら本当に純粋なパワーアップに成功してるみたいだ。

 あ、そうそう。鬼人化という言葉の由来はその見た目からそう呼ばれている。何が言いたいかと言えば名前の元となった鬼と呼ばれる種族が居たと言うことだ。今の彼は鬼人というよりもその鬼そのものに見える。

 でもそれより僕が気になるのは。


「さっきの薬は元に戻す薬じゃなかったのか」

『安心しろ。この姿から戻る薬は確かにある。

 もっとも、お前がそれを見ることは無いだろうがな。

 何故ならここで死ぬからだ。むんっ!』

「うわっ」


 その場でただ腕を振る。それだけで突風が起こり僕を吹き飛ばした。数メートル飛ばされて木の幹に背中を打ち付けることでようやく地面に着地した。痛い。


『ふはははっ。見たか、素晴らしいだろう。

 これこそが我ら新人類の境地。脆弱な肉体から開放された我々がこれからの世界を創って行くのだ』


 どこか陶酔したように語ってる。確かにあそこまで強化された肉体なら、例えばウェアウルフに噛まれても痛いで済みそうだし魔力強化していない人相手には無双できるだろう。


「確かに手軽に鬼人化が出来るのは凄いけど、僕はなりたいとは思わないよ」

『ふむ、少年はまだこの姿の素晴らしさが分かっていないと見える。

 ならばもっとその身体に教え込ませてやろう』


 僕の言葉に頷いた彼は、突然その場から消えた。そして次の瞬間、僕のすぐ横に現れた。


『ふんっ』

「ぐっ」


 繰り出された右フックによって僕の身体はまたしても宙を舞う。


『まだまだぁ』


 地面に落ちる前に先回りされてボールのように蹴り上げられた。周りの木々よりも高く飛ばされた僕を追い越して今度は両手で叩き落す。僕はなす術もなく地面へと叩きつけられたのだった。

 僕に続くように地面に降り立った彼は腕を組みながら地面に座りこむ僕を見下ろして言った。


『どうだ。これでもまだ分からないか』

「うーん。そうだね。だってさ。

 偉そうな事言っておいて5歳の子供1人殺せてないじゃない」

『手加減してやれば良い気になって。

 ならば望み通り殺してやろう!』


 そう言って再び目にも止まらぬ速度で僕のそばに飛び込んできた。だけど残念遅すぎだ。


「ちょっと時間が掛かったみたいだね」

『なに?』

「申し訳ございません。アル様」


 僕の呼びかけにすぐ近くから返事が返ってくる。それは騎士団に伝令をお願いしていたサラだ。

 サラはまるで風に飛ばされて来た木の葉を払うかのようにその手に持った盾で敵の攻撃を受け流して見せた。それに驚いて距離を取る敵を無視して僕は差し出されたサラの手を取って立ち上がった。


「お怪我はありませんか?」

「うん、ちょっと服が汚れちゃった。これ伯爵に借りた服だから後で謝らないと」

『少女だと!? まさかあの少女が俺の攻撃を防いで見せたというのか。

 その少年といい一体何なのだ』


 僕たちは警戒する敵を無視して会話を続ける。


「街の方は大丈夫そう?」

「はい。街に向かっていた魔物はおそよ5000と言ったところです」

「そう。意外と多かったけどそれくらいなら大丈夫そうだね」

『馬鹿め。あの街に常駐している騎士団は200人足らずの筈だ。

 25倍の戦力差をどう覆す気だ』


 うーん。やっぱり何というか。鬼化すると思考能力が低下するんだろうか。いやこれは素で知らないのかもしれないな。


「あの街は確かに騎士団は200人も常駐してないけど、仮にも南と西を他国と接している領地なのにそれしか騎士が居ないのは、それで十分だからだよ」


 盾の国の民は子供の頃から大切な人を護れるようになりなさいと教えられている。そして有事の際には立って戦えるものは全員が盾と武器を持って戦えって。それこそが大切な人を護る唯一の方法なんだって。国境付近の街は特にその教育に力を入れている。

 知らないのは他所から流れてきた人だろうね。そう言う人に限って街の空気に馴染めなくて犯罪に走るんだけど。まあそれはいいや。

 とりあえず人数差だけで考えても圧倒的だし、それを騎士団が指揮すれば烏合の衆の魔物の群れ相手に後れを取ることは無いだろう。


「どちらにしてもあなたにはもう関係の無い話だよ」

『それは、俺がその少女に負けると言っているのか?』

「いや、あなたの相手は僕がするよ。

 サラ、その盾ちょうだい」

「どうぞ。お気をつけて」

「ありがと」


 サラから鉄の小盾を受け取って装着する。うん。やっぱり盾を持ってると気が引き締まるね。

 改めてここからが本番だと意気込んで僕が1歩前に出ると、何故か敵も1歩下がった。その表情からはさっきの傲慢さが消えてどこか焦りが見える。


『なっ、お前一体何なんだ。さっきまでとまるで雰囲気が違うぞ』

「そりゃあ盾があるからね」

『盾だとっ!? そんなものが何の役に立つというんだ』

「知らないのか。なら教えてあげよう。

 盾っていうのはそんな鬼人化の薬なんかよりよっぽど役に立つって事をね」

『くっ、そんなものただのハッタリだ。死ねっ』


 そう言って3度その場から姿を消した。けどどうやら学習していないようだ。さっき既にサラにすらその動きは見切られていたというのに。

 力任せの突撃。そんなもの、盾士にしたら格好の獲物だ。


「『シールドカウンター』」

『ぐぼあっ』


 半歩前に出ながら飛び出してきた敵にカウンターで盾を当てる。たったそれだけでさっき僕が殴られた時よりもずっと速い速度で吹き飛ばされていった。



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