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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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20.嫌な風

 朝練を頑張り過ぎて少し早いお昼寝をしていた僕は、ふと風を感じて目を覚ました。


「サラ?」

「お目覚めですか、アル様」

「うん。窓を開けてくれない?」

「はい」


 ベッドのすぐ近くで僕の様子を窺っていたサラに声を掛けた。

 僕の言葉を聞いてサラは閉じ切っていた窓を開ける為に立ち上がる。そう、この部屋は今、窓も扉も閉じられていた。ならさっき感じた風はなんだったんだろうか。

 サラが窓を開けてくれて風が流れ込んできた。秋口のちょっぴり冷たい風。いつもならその澄んだ空気を思いっきり吸い込んで身体が軽くなる思いがするのに、何というか今日は鼻に付く感じだ。別に異臭がする訳じゃないんだけど、いやな感じ。


「……あぁそうか」

「どうかなされましたか?」

「サラ、今日の午後は街に出よう」

「はい、お供します」


 今日は午前中の座学をサボってしまったので午後の自由時間をそちらに充てると言う手もあったけど、それ以上に心配事が出来てしまった。

 街に出た僕たちが向かったのは西区にある魔物ハンターギルド。その名の通り魔物を倒すことを生業にしている人たちのギルドだ。中に入ればすえた血の匂いが薄っすらとしてくる。それは魔物の血もそうだけど、ハンター達も大なり小なり怪我をしているからだ。


「こんにちは」

「いらっしゃいませ、アル君」


 カウンターに行けばいつも受付をしてくれるゼーラさんが笑顔を向けてくれた。街の視察に出たら3回に1回は顔を出しているので向こうも慣れたものだ。他の皆も最初こそ子供が遊びに来るなって感じで邪険にしてたけど、今では特に気にもしてないみたいだ。

 僕は挨拶もそこそこに本題に入ることにした。


「怪我人、多いみたいだね」

「え、ええ。どうもここのところ魔物の数が増えているようなのです。

 正確には数だけじゃなく質も、ですね。昨日はウェアウルフ3匹に初級とはいえ6人グループが大怪我を負って帰ってきました。幸い命に別状は無かったんですけどね」


 ウェアウルフと言えば初めて王都からこっちに来るときに遭遇してティーラが1人で4匹相手に完勝していた相手だ。当時のティーラは既に中級と言っても良い実力ではあったけど、それでも4匹相手に出来るっていうのはそれだけウェアウルフが大したことない証拠でもある。普通に考えれば初級ハンターでも数で勝ってるなら余裕の筈だ。つまり明らかに魔物が強くなっている。


「魔物が強くなる原因は分かっているの?秋になると強くなるとか」

「いえ、そのようなことはこれまで聞いたことがありません。

 強い特殊個体が出たとか、普段この辺りに居ない魔物がどこかから迷い込んだっていうのは時々ありましたけど」

「そっか、ありがとう」


 念のために確認に来てよかった。

 僕が感じた風、魔物が好む空気で昔は瘴気って呼んでたけど、それが濃くなると比例して魔物が強くなったり数が増えるんだ。邪神龍が生きていた時代も多くの場所で瘴気が充満して魔物の巣が出来ていた。


「あ、街の外に出てはだめですよ。危険ですからね」

「は~い」


 ゼーラさんの忠告に手を振って答えながらギルドを後にした。帰りがけに市場などを見て回ったけど、いつもより若干品薄なくらい。まだそれほど影響は出ていないけど時間の問題かもしれない。

 早めに瘴気の元を断ってあげるのが解決の一番の近道なんだけど、この感じからして街の外、それもちょっと離れていそうだ。

 ま、そこまで濃い感じでも無いし、ここで僕が出しゃばってもこの街の為になるとは言い切れないか。なら丁度いい。騎士団の朝練に口を出せるようになったし皆にパワーアップしてもらって今回の問題も解決してもらおう。


「サラ。明日から忙しくなるよ」

「はい。どこまでもお供します」


 気合を入れる僕に、サラはいつものように元気に応えるのだった。

 そして、翌日から朝練がちょっぴり厳しくなった。


「『がおがおーっ』」

「「ぶひぃ~~」」

「ほら、僕に追いつかれたら蹴り飛ばすよ」

「ぎゃああっ」


 全力ランニング10周を終えれば一息入れて盾相撲。初日の時と違って2人1組でやってもらうことにした。僕1人で全員の相手をするのは時間的に効率が悪いからね。

 ただここでちょっと問題が出た。どうもまだ慣れていないからか様子見でえっちらおっちら押し合ってる組が幾つも出来てしまったんだ。これじゃあ訓練にならない。


「みんな、相撲とはちょっと違うけど打ち手と守り手に分かれることにしよう。

 打ち手は武器を持って相手を攻撃し続けて、守り手はそれを盾で防ぎ続ける。

 打ち手は全力で行ってね。じゃないと訓練にならないから。

 守り手も相手に勝てると思ったら積極的にシールドバッシュを仕掛けて行って」

「「はぃ!」」


 若干声が小さかったけどまあいっか。

 そうして再開してみて少しはマシになったけどまだまだだな。


「ほらそこ。そんなんじゃウェアウルフも倒せないよ。

 みんなはウェアウルフの何倍も強いんだから安心して全力で行きなさい。

 それとももしそれがあなた達の全力だと言うなら素振り1000本追加しないといけないね」

「「ひぃ~~~」」


 大変なのは分かるけど発破をかけて上げないと楽をしようとするんだから困ったものだ。楽をして強くなれる道なんてありはしないのに。

 盾相撲が終われが弓と魔法を防ぐ訓練。騎士団とは言っても攻撃魔法を使える人が何人も居るからね。状況によってはその人達は魔法で戦うことになるし、魔物だって魔法を撃ってくる奴らも居る。魔法を使えない人達も遠距離攻撃の手段は必要な時があるので弓の訓練も必要だ。そしてただの的を狙うよりも生き物を狙った方が良い練習になる。防ぐ方も近接武器を防ぐのとは感覚が違うから今のうちにしっかり学んで欲しい。

 ただ、近接武器と違うのは加減が難しいところかな。防ぐのに失敗して火傷をしたり鏃が付いていないとは言え矢が直撃したら打撲になる。


「ほら次は気を付けてね『ヒール』」

「あ、ありがとうございます」

「よし元気になったら訓練再開だねっ」

「ううっ」


 怪我をした人には適宜治癒魔法を掛けて治してあげてるんだけどあまり喜ばれてないような?不思議だ。

 そうして朝練が終わる頃には全員体力も魔力も切れてぶっ倒れることになる。

 うんうん。訓練っていうのはやっぱりこうでないとね。この調子で1月もすればだいぶ精強な部隊になってくれるはずだ。


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