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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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19.騎士団の恐怖

 鬼ごっこを終えた、正確には皆の体力切れで中断してしまったので時間が余ってしまった。

 皆はまだ回復出来ないようで地面にへたり込んだままだ。これじゃああまり訓練になってない気がする。


「よし準備運動はこれくらいにして次に行こうか」

「「……へ?」」


 皆がなぜか『何言ってんだ、もう終わりだろ?』って顔してるけど、それこそ何でかな。いつもだってランニングを終えてからが訓練の本番でしょ。


「次は、そうだな。『盾相撲』にしようか。

 事故の無いように今日は押すの限定で」

「盾、相撲?」

「うん。みんな盾の国の騎士団なんだから大なり小なり盾を使うでしょ?

 それを使って相撲するから、皆今すぐ自分の盾を持って横一列に整列して。今すぐだよ。

 あ、これはグントも一緒に並んでね」

「はいっ」


 僕の言葉を聞いていち早くグントが盾を持って僕の前に立った。続いてサラとティーラがフラフラしながらも立ち上がってグントの横に移動したけど、他の皆はヘタリ込んだままだ。

 その皆に僕は努めて優しく声を掛ける。


「えっと、いつまで寝てるの?」

「「……?」」

「僕は今すぐって言ったよね。

 それとも本来の鬼ごっこがやりたいのかな?」


 ズシンと魔力を籠めた足で地面を踏み鳴らす。すると踏み固めてある筈の地面に僕の足跡が付いた。

 それを見て皆はへっぴり腰のまま悲鳴を上げていた。うーん、求めてるのはそうじゃないんだけど。

 それと僕にはずっと疑問に思っていたことがあったのでこの際だから聞いてみよう。


「ところで、どうして皆は訓練中、盾を持ち歩いて居ないの?

 オフの時なら分かるけど、訓練は実戦を見据えてのものだよね?

 なら小型の盾くらいは常に持ち歩こうね。じゃないと突然の襲撃に対処出来ないよ。不測の事態っていうのは思いがけないタイミングで来るから不測っていうんだし。

 それで……これだけのんびりお話しててもまだ立ち上がらないのは、僕に盾のあるところまで蹴り飛ばして欲しいのかな」

「「ひ、ひぃぃ~~~」」


 僕が1歩近づいて足を素振りすれば、巻き起こる突風に押されるように皆して悲鳴を上げながら盾の置いてあるところに走って行った。あ、なんだまだまだ体力残ってるじゃん。それよりなにより、僕の顔を見て悲鳴を上げるとかちょっと悲しい。

 昔の勇者時代も同じように国の騎士に自分がやってる訓練をやらせたら同じように僕の顔を見て悲鳴を上げるようになったんだよね。何でなんだろう。

 ともかく全員盾を持って整列した。なら始めよう。


「えっと、最初はグントとやってみせるからよく見ておいてね」

「「は、はい!」」

「盾相撲のルールは簡単で、まずお互いの盾が触れるギリギリの位置で構えます。

 そこからお互いに盾をぶつけ合って相手を下がらせたり倒したりした方の勝ち。簡単でしょ?

 本来は押される瞬間に逆に引いて相手のバランスを崩したところを押し飛ばすとか色々駆け引きがあるんだけど、僕の方は今日は単純に押すだけだから、ちゃんと構えていれば体格の勝る皆の方が有利だから安心していいよ。

 ちなみに使うのはあくまでも盾だけ。空いてる手や足で何かするのは無しだからね」


 僕の説明を聞いて皆はすこし安心したようだ。

 たぶん子供のときには盾を使わずに単純に手で押し合って相手のバランスを崩す遊びとかやったことある人も居るだろうな。盾相撲も盾使いにとっては訓練を兼ねた遊びみたいなものだし。


「あ、それと気を抜くと腕の骨とか折れるから注意すること。分かった?」

「「はいっ!」」


 心なしか皆の顔が青ざめた気がするけど大丈夫だよ。気を付ければ良いんだから。


「じゃあグント構えて。グントが相手なら手加減要らないよね」

「ははは、ご冗談を。出来る限りお手柔らかに頼みます」


 謙遜するグントの言葉を聞きながらお互いに盾を構える。って、あれ?グント意外と本気の構え?いや良い事なんだけどね。その方が訓練になるし。

 とは言っても重心高めだけど。


「受け身は取ってね」


 そう伝えながらそっと盾どうしを振れ合わせて。押す!


ブンッ!

「ぐッッ」


 グントは防御の姿勢のまま後ろに吹き飛んでいった。最後まで態勢を崩さなかったところは流石だ。ただやっぱり重心が高かったので軽々と飛んでいってしまった。

 まぁ本職を考えれば直接戦闘は避けるべき人だし、こうして距離が空いたのを幸いに撤収することも視野に入れてるのかも。


「次はサラだね」

「よろしくお願いします。アル様」

「サラには飛びっきりのアドバイスがあるんだけど、多分効果があり過ぎて危険だから言わない方が良いかな」

「あの、そこまで言われると気になるんですけど」

「あはは、だよね。言ってて思った。

 うん、じゃあ、自分のすぐ後ろに護りたい人が居るのを想像してみて」

「それは……なるほど。とても分かりやすいアドバイスをありがとうございます」


 そう答えたサラの構えは、良くも悪くもグントと対照的だ。何が何でも後ろには下がるまいという気迫が伝わってくる。


「いくよ」

「どうぞ」

コンッ、バキッ。ぱらぱらぱら……


 僕とサラの盾がぶつかった瞬間。サラの持っていた鉄の盾が曲がるでも折れるでもなく割れて砕け散った。その代わり、サラ自身は一歩も下がっていない。僕はガクリと膝をつくサラに労いの言葉をかけた。


「お見事。腕を上げたね」

「恐れ入ります」


 押される瞬間にサラはお互いの力がサラの持つ盾で衝突するようにありったけの魔力を叩きつけることで僕の力を相殺したようだ。この1瞬でそんな曲芸じみた技を編み出すとは僕のほうが恐れ入った。

 ただ困ったな。前例2人が特殊過ぎる。もちろん全員が同じ事を出来るならそれはそれで凄いんだけど。


「という訳でティーラ。期待してるよ」

「な、何をでしょう」

「リアクション芸?」


 いや別に演技してほしい訳ではないんだけどね。

 そして3人目ともなれば要領よくお互いの盾を合わせて。


ズドンッ!ゴロゴロゴロッ。


 僕に押し負けたティーラは訓練所の端まで転がって行ってしまった。

 うんうん。これだよ。これでやっと今日やろうと思ってた事が出来る。


「すぐに戻ってティーラ。もう一回だよ」

「は、はいっ」


 慌てて起き上がって戻ってきたティーラと再び盾を合わせて、押し飛ばす。

 コンマ2秒だけどさっきよりも耐えれた。やっぱりティーラは才能があると思う。そういう人はとことん伸ばす。


「もう一回!」

「う、ぐ」


 再び訓練所の端まで転がったティーラはすぐには起き上がれない。

 だけどまだだ。もう一歩頑張って欲しい。それが土壇場でも活きる力になる。だから僕は心を鬼にして再度呼び掛ける。


「肉体的なダメージは無いはずだ。立ちなさい。

 まだティーラは2回、両親しか護れてないよ。

 なら兄弟は?友人や恋人は見殺しにするの?」

「そんな事は決して!」

「そうだ。僕達は護るものがある限り何度でも立ち上がれる。来い!」

「はいっ!!」


 カタカタと膝を震わせながらも僕の前に立ちはだかるティーラに、よく頑張ったねと優しく笑顔を送った僕は、三度ティーラを押し飛ばした。

 よし、ティーラは今回はここまでだな。

 次は騎士団の皆だ。


「今の見てたよね。押し負けても直ぐに戦列に戻ってね。

 ただ1人ずつやると時間が掛かるから同時に行こう。

 皆盾を構えて。行くよ」

「「は、はいっ」」


 この期に及んで疑問を口にする暇がないのは皆分かってる。

 そうして構えを取った人から順に押し飛ばしていく。


ドン!ドン!ドン!ドン!

「ぎゃあああ〜」

「うお〜〜」

「ほら飛ばされたら直ぐに起きて元の位置に戻る!

 5秒以上寝てるようならその人目掛けて他の人を押し飛ばすからね」

「「は、はいぃ~」」


 騎士団員全員を押し飛ばし、起き上がって構えてはまた押し飛ばし。途中から復活したティーラも混ざっていた。

 それを数回行った頃、サラから声が掛かった。


「アル様。そろそろ朝食の時間です」

「もうそんな時間か。じゃあ今日はここまでだね」

「「あ、ありがとうございました!」」

((サラちゃん、マジ天使!!))


 なにか副音声が聞こえた気がしたけどまぁいっか。


「明日もよろしくね」

「「ははぁ〜」」

((悪魔だ!))


 平伏するように返事をする皆を横目に僕はサラを伴ってその場を後にした。そして。


ぱたり。

「ごめんサラ。ちょっと張り切りすぎた。あとお願い」

「はい。お休みなさいませ」


 皆の前では気丈に振る舞ったけど、僕一人で全員を相手にするのはまだまだ無理があった。お陰で体力も魔力も限界ギリギリだ。

 僕は自分の部屋に辿り着いた所でサラに寄りかかるようにして意識を手放した。



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