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忘れられた盾の勇者は護りたい  作者: たてみん
第1章:忘れられた盾の勇者
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18.騎士団の悩み

 ティーラに教えてから1月が過ぎた頃。朝のランニングを終えたところでなぜか僕は騎士団の皆に囲まれていた。

 100名以上居る筋骨隆々な男達の壁は猫の子一匹逃げ出せないだろう。隣に控えているサラが半眼だ。最近習っている暗器の使い所だとか思ってるのかも。


「えっと、何事かな。これが噂に聞くイジメ?」

「いえ違うでしょう」


 隣のサラから冷静なツッコミが入る。

 いやうん。

 自分で言っておいて違うとは思ってる。だって皆して僕を囲んで膝を突いてるんだから。


「実は俺達、アル坊にお願いがあるんだ。

 どうか俺達を指南してほしい」

「へっ?」

「先日アル坊がティーラを指南してから、メキメキとティーラの腕前が上がってるんだ。

 だから俺達もアル坊に指南してもらえればレベルアップ出来るんじゃないかと思ったんだが駄目だろうか」


 なるほど。僕はあれからティーラと組んでないからどうなったのか見てないけど、この1月で早くも成果を出していたらしい。

 ティーラらしく愚直に僕が教えた事を繰り返し練習していたんだろう。

 ただ、ここの騎士団は扱う武器も様々だし同じようにしても強くなるとは限らない。


「でもそれ、ティーラの場合はスランプに陥ってただけで地が整っていたから結果になっただけで、僕はキッカケを与えたに過ぎないんだけど。

 それに僕は盾使いだから、他の戦い方はあんまり詳しくないよ」

「そこを何とか。ヒントさえ貰えれば後は俺達で磨くから。むしろ盾の使い方でも良い」

「余り気乗りしないなぁ。余所者の僕が騎士団の訓練に口を出すのも良くないでしょ?」

「大丈夫だ。俺達全員で話し合った結果だし誰にも文句は言わせない」


 大の大人が5歳の子供に頭を下げる光景は周りから見たら相当異様だろうな。

 でもそれだけ彼らも必死だということだし、何とかしてあげたい。普段お世話になってるのは僕の方だもの。


「うーん、分かったよ」

「「おお!」」

「ただし約束。僕の指示が多少的外れだと思っても我慢して従ってくれる?」

「「はい!」」

「あ、あと出来たら僕の事嫌いにならないでね」


 全員から元気な返事が返ってくる。誰も僕を5歳の子供だと侮った様子がないのが凄いよね。

 皆からは何を言われるんだろうと何処か期待した眼差しが向けられる。ならちゃんと応えないと。となるとやっぱり過去の勇者時代にやってた訓練とか? あ、でも最初は簡単なものからかな。


「じゃあまずは鬼ごっこランニングをしよう」

「鬼ごっこ?」

「それは普通のランニングとは違うのか?」

「皆がするのはいつも通り外周を走るだけ。

 違うのは僕と、あと今日はグントが鬼役で最後尾から追い掛けるから。捕まらないでね。追い付かれたらオシオキ。

 グント、悪いけどお手伝いお願い」

「はい、喜んで」

(なんだ、つまりペース配分を変えるってことか)


 なんとなく皆が納得したところで外周の一角に集まってもらって、グントには悪いけど僕の手伝いをお願いすることにした。


「いい、グント。掛け声は『がお〜』だよ」

「ふふふっ。分かりました」


 僕の言葉に楽しそうに答えるグント。

 多分グントはこれからやることを理解してるんだろう。ちょっと顔が悪い事企んでる風だ。

 他のみんなは僕の気の抜けた言葉に苦笑している。


「みんな前を向いて。じゃあ行くよ。『がお〜』」

「『がお〜』」

「「……」」

ばたばたばたっ。


 あ、あれ?おかしいな。

 僕らが殺気を籠めて声を掛けたらみんな泡吹いて倒れちゃった。これじゃあ鬼ごっこにならないよ。

 無事なのはサラとティーラとティース団長だけ。言ってティース団長も根性で何とか持ち堪えてるって感じだ。足がガクガクしてるし。

 その様子を見てグントが楽しそうに笑っている。


「くっくっくっ。

 アル様、如何に腑抜けた騎士団に喝を入れる為とはいえ、少々強過ぎましたね」

「え、いやそんな意図は無かったんだけど。

 とにかく皆起こさないと。『活ッ』!」

「「うっ」」


 僕の放った魔力を受けて意識を取り戻していく皆は、飛び起きると同時にキョロキョロと辺りを見回した。


「い、今バケモノがここにっ!?」

「逃げろ、殺されるぞ!!」

「落ち着け。今のは俺が放った殺気だ」


 僕の代わりにグントがそう答えた。グントと目が合うとにやりと目を細めた辺り、委細承知してるって所か。流石だね。

 僕が同じこと言ったら後に影響しそうだし、グントなら良い意味で畏怖される事になるだろう。

 皆が起き上がった所で第2回。今度はさっきのを踏まえて加減しよう。


「『がお〜』(小声)」

「ぎゃあああ〜〜」


 僕達が掛け声を掛けたら、それこそ皆してバケモノに遭遇したかのように、しかし2度目ともあって気絶はすることなく走り始めた。いや逃走し始めたって言ったほうがいいのかな、これ。


「ほらほら、最後尾の人には容赦なく襲い掛かっちゃうよ『がお〜』」

「ぎぇぇ〜〜」


 僕達の煽りを受けて皆は必死の形相で走る。

 そんなことを10分。今度は別の意味で全員倒れていた。

 まぁ単純に体力切れ、魔力切れだ。


「普段みんな余裕そうなのにどうしたのかな?

 っていうのは意地悪だよね。ごめんなさい」

「い、いえ。はぁっ、はぁっ。

 まさか、ここまでとは、思わず」

「如何に自分達が、手を抜いてたのか、よく、分かりました」


 うんうん。やっぱり実戦に即した訓練は大事だよね。と言いたいところだけど、多分実戦なら皆もう死んでる。

 これは心を鬼にして鍛え直してあげないと。



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